未來の皇家②
「象徴」
聞き慣れぬ言葉に、親王が小さく繰り返した。
「政を直接動かすのではなく、国と民の中心として、祈り、在り続ける存在です」
主上は黙って聞いておられる。
「戦は?」
「ありません」
『はるちゃん』が目を丸くした。
「ないのですか!?」
「少なくとも、この国の中では長く」
もちろん、全く無いわけではない。
だが、戦国の感覚からすれば、信じられないほど平和だ。
「武士は?」
方仁親王が問う。
「消えます」
「……消える」
「形を変えます。刀も、鎧も、戦そのものも」
しん、と静まる室内。
未来を語るというのは、やはりどこか恐ろしい。
今ここにある“常識”を、全部覆してしまうからだ。
やがて…
方仁親王が、静かに口を開いた。
「では…… その長い時の中で、皇家は何を支えに続く」
私は答えた。
「“続いていること”です」
主上の目が、わずかに見開かれる。
「権力ではなく。武でもなく。血だけでもない」
そして。
「これよりさらに五百年以上、絶やさず続いてきたことそのものが、国の拠り所になります」
主上はゆっくり目を閉じられた。まるで、その重みを噛み締めるように。
次に口を開いたのは、意外にも『はるちゃん』だった。
「……なら」
少し不安そうな声。
「女子でも、帝になれるのですか?」
私は息を止めた。
来た。
未来でも、なお答えの出ない問い。
主上も、方仁親王も、静かに『はるちゃん』を見る。
私は慎重に答えた。
「未来では、女性の天皇は過去におられたと、広く知られています」
『はるちゃん』が目を瞬かせる。
「本当に?」
「はい」
歴史上、女性天皇は存在した。
推古天皇。 持統天皇。 元明天皇。 後桜町天皇――。
私は続ける。
「ただし」
空気が少し張る。
「“女系”については、未来でも議論が続いています」
「……女系」
方仁親王が静かに繰り返した。
「女性の天皇と、女系の天皇は違うのか」
「はい」
私は頷く。
「女性天皇は、“男系の女性が天皇になる”こと。女系天皇は、“母方のみで皇家の血を引く天皇”です」
主上が静かに考え込まれる。
この時代の感覚なら、かなり奇妙な概念だろう。
「未来では」
私はゆっくり言った。
「皇家が続くことを願う人々が、ずっとその答えを考え続けています」
「争っておるのか?」
「……いえ」
私は少し笑った。
「守ろうとしているのです。皆、それぞれの形で」
完全な悪意だけではない。
未来の議論は、もっと複雑だ。
伝統。 継承。 現実。 国民感情。
全部が絡み合っている。
方仁親王は静かに呟いた。
「五百年先でも、皇家の在り方を考え続ける者がおるのか」
「おります」
「……不思議なものだな」
そして、主上が、ふっと笑われた。
「ならば、余らは案外、良き仕事をしておるのやもしれぬ」
その言葉に、胸が熱くなった。
ああ、この人たちはまだ知らない。
自分たちが、どれほど長く、この国の“中心”として残るのかを。
戦乱の只中で。飢えた都で。明日さえ見えぬ時代で。それでも彼らは、“続ける”ことを諦めなかった。
だから、未来まで、繋がったのだ。




