未來の皇家①
方仁親王は静かに私を見ていた。
「稀仁」
「は」
「そなた、“稀人”と呼ばれておるそうだな」
空気が止まる。『はるちゃん』が不安そうにこちらを見た。主上は何も言わない。
ただ、静かに成り行きを見守っておられる。
私は少しだけ考え、苦笑した。
「……誰がそんなことを」
「都は狭い」
親王は穏やかに言う。
「隠しておるつもりでも、妙な噂ほど広がる」
否定はしなかった。できなかった。
実際、自分でも説明がつかないのだ。
未来の記憶。知識。感覚。どう考えても異常だった。
「父上は」
方仁親王がふと呟く。
「そなたを怖れておらぬな」
その言葉に、私は主上を見た。
主上は少し笑われる。
「怖れる理由がどこにある」
「人ならざるものかもしれませぬ」
「それで国を壊す者なら、余は近づけぬよ」
主上は静かに言った。
「だが稀仁は違う」
まっすぐな声だった。
「この子は、“残そう”としておる」
胸が、一瞬詰まった。
主上は続ける。
「ならば、人であろうが、鬼であろうが、余には大差ない」
その場の誰も、言葉を返せなかった。
戦乱の時代。
疑い、恐れ、排除するのが普通だ。
なのにこの人は、 “何を残そうとしているか”で人を見る。
だからなのだろう。
この滅びかけた時代でも、皇家はまだ続いている。
方仁親王は小さく息を吐いた。
「……なるほど」
そして、少しだけ笑う。
「父上が惚れ込むわけだ」
「待ってください親王様、その言い方だと誤解が」
「違うのか?」
「違わなくはないですけど語弊!!」
『はるちゃん』が吹き出し、主上まで笑い始めた。
まただ。また空気が緩む。
けれど… 方仁親王は笑いながらも、ずっとこちらを観察していた。まるで確かめるように。
――この“稀人”は、本当に国を残す側なのかを。
笑い声が落ち着いたあとも、部屋の空気は不思議と柔らかかった。
だが、方仁親王はふと、真面目な顔に戻られる。
「稀仁」
「は」
「そなたの見る“先”では――」
静かな声。
「皇家はどのように続いておる」
その問いに、室内の空気が変わった。
『はるちゃん』も、主上も、女房たちさえ息を潜める。
当然だ。
それは、この時代の皇家にとって、最も重い問いの一つだった。
戦乱。断絶。飢え。権威の衰え。
どこかで血筋が途切れても、おかしくない時代。
私は慎重に言葉を選んだ。
「……長く続きます」
主上の目が静かに細められる。
「五百年より先まで」
誰かが息を呑んだ。
方仁親王は、表情を変えなかった。
だがその目だけが、わずかに揺れる。
「そこまで、か」
「はい」
「ならば」
主上が静かに問う。
「未来の帝は、今と同じように国を治めるのか?」
私は首を横に振った。
「いいえ」
「ほう?」
「未来の天皇――」
一瞬迷い、続ける。
「未来では、“象徴”として在ります」




