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[6万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』① 元服と婚姻と四州近衛家

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後奈良天皇⑤

「……ちなみに申し上げますと」

「うむ」

「“冷たい”だけでは、あいすにはなりませぬ」


 主上が真顔になる。『はるちゃん』もごくりと唾を呑んだ。

 なんだこの空気。国家機密の話でもしてるの?


「乳を滑らかにし、糖を混ぜ、均一に凍らせねば……」

「均一に……?」


 主上が難しい顔をされた。

『はるちゃん』は完全に“授業を受ける子ども”の顔である。

 私は思わず言った。


「主上。今、戦の軍議より真剣なお顔をされております」

「当然であろう」


 即答だった。


「冷たい甘味など、聞いただけで夢がある」


 そんな真顔で言われると反応に困る。

『長慶おじさん』が脳内で爆笑していた。『帝、めちゃくちゃ食いついとる』


 うるさい。

 主上はさらに身を乗り出された。


「で、どうやって凍らせるのだ」

「氷室を使う方法もありますが、最も現実的なのは硝石です」

「しょうせき?」

「水を急速に冷やせます」


 その瞬間。主上と『はるちゃん』の目が同時に丸くなった。


「水が……冷える?」

「はい」

「火も使わずに?」

「理屈の上では」

「理屈の上では!?」


 『はるちゃん』がきゃっきゃしている。

 だめだ。この空間、帝の私室じゃない。理科の実験教室だ。

 主上は腕を組み、真剣に考え込まれた。


「……それは、兵にも使えるのではないか」


 あ。やっぱりそこへ行くか。この人、ふわっとして見えて頭の回転が異様に速い。


「傷病者の冷却、食の保存、夏場の水の管理……」


 ぽつぽつと可能性を並べていく。

 私は思わず感心した。

 この時代の支配者たちは、“便利なもの”を見ると即座に国へ繋げて考える。

 前世の感覚でいると忘れそうになるが、この人たちは日々、国を背負っているのだ。

 だが次の瞬間。


「……で、甘いのか?」


 戻ってきた。

 しかも目が真剣。

『はるちゃん』もこくこく頷いている。


「甘いです」

「どのくらい」

「…… かなり」


 主上が静かに天を仰がれた。


「桃源郷か」

『はるちゃん』が小声で、


「よし様、早く作りましょう」


と囁いた。

 待って。皇女が国家事業みたいなテンションでアイス要求してる。

 私は深々とため息をついた。


「まず申し上げますが、非常に贅沢品になります」

「構わぬ」

「乳牛の整備が必要です」

「うむ」

「砂糖も大量に使います」

「集めよう」

「氷の保存設備も」

「作らせる」


 即断即決だった。

 おかしい。

 さっきまで“国を未来へ繋ぐ”という歴史級の名言を聞いていたはずなのに。

 今は“帝のアイス開発計画”が爆速で進んでいる。


 『長慶おじさん』が腹を抱えている。『おぬし、何を歴史に残そうとしておるんじゃ』

 

 知らないよ!


 すると主上がふと笑われた。


「しかし、不思議なものよな」

「……何がです?」

「其方は未来を憂いておるのに」


 主上は穏やかな目をされた。


「話すことは、皆を少し豊かにするものばかりだ」


 その言葉に、私は息を呑んだ。

 兵糧。衛生。流通。保存食。医療。

 そして、冷たい甘味。

 確かに私はずっと、“戦を減らすため”に考えていた。

 だがそれは結局。誰かに、少しでも笑ってほしいからだったのかもしれない。


 『はるちゃん』が袖を引く。


「よし様」

「はい?」

「未来では、その……あいす、は皆が食べられるのですか?」


 その問いに…

 私は少しだけ、遠い世界を思い出した。

 夏の帰り道。コンビニ。当たり前のように並ぶアイス。

 子どもも。大人も。仕事帰りの人も。皆が気軽に食べられた、平和な甘味。

 だから私は、自然と笑っていた。


「はい」


 『はるちゃん』の目が輝く。主上も静かにこちらを見る。私は頷いた。


「未来では、“普通のもの”です」


 その瞬間、主上は、本当に静かに笑われた。


「……良い国だな」


 その一言が、何故だか、胸に沁みた。

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