表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[4万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』① 元服と婚姻と四州近衛家

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/94

後奈良天皇②


「稀仁」


 再び呼ばれる。


「はい」

「其方に見せたいものがある」


 その言葉に、『長慶おじさん』が嫌な予感を察知した。

 やめよう。絶対ろくでもない。

 だが拒否権などあるはずもない。

 主上は静かに手を打たれた。

 すると奥の襖が音もなく開く。

 入ってきたのは、白髪の老女房だった。その手には、古びた黒塗りの箱。

 大きくはない。だが妙な存在感がある。

 箱が運ばれ、主上の前へ置かれる。


「これは……」


 思わず呟くと、主上は静かに答えた。


「皇家に伝わる『写』の一つよ」


 空気が変わった。『はるちゃん』ですら背筋を伸ばす。

 主上はゆっくりと箱を開けられた。

 中にあったのは――

 紙ではなかった。

 薄い。

 半透明。

 幾枚も重ねられた板。

 その瞬間…『令和のおばちゃん』の脳が理解を拒否した。

 いや、待って。

 これ。

 これって――


「……まさか」


 主上がこちらを見る。


「知っておるか?」


 震える声で答える。


「アクリル……板?」


 沈黙。

 次の瞬間。

 主上が、にやりと笑われた。


「やはりな」


 『長慶おじさん』が脳内で絶叫した。

 終わった。もう色々終わった。

 だって今、“令和の素材”が、戦国時代の御所から出てきたんだよ!?



 主上――知仁天皇は、こちらの反応をじっと観察していた。

 試すように。いや、“確信”を深めるように。

 対するこちらは完全に混乱していた。

 だって、目の前にあるのはどう見ても――

 “現代製品”だった。

 薄く、透明度が高く、わずかに青みがかった板。 表面の劣化はある。細かな擦り傷も入っている。

 けれど… 木簡でも、水晶でも、雲母でもない。

 どう見てもアクリル。いや、もしかしたらポリカーボネートかもしれない。

 待って。そんな素材、この時代にあるわけない。

 『令和のおばちゃん』の理性が「理解不能」を連呼している横で、『長慶おじさん』は「もう考えるな」と現実逃避に入り始めていた。


「……触れても?」


 恐る恐る尋ねると、主上は静かに頷かれた。


「構わぬ」


 両手でそっと持ち上げる。

 軽い。

 木より軽い。

 指先に伝わる質感が、あまりにも“知っているもの”だった。

 ぞわり、と鳥肌が立つ。

 板の端には、細かい傷が刻まれていた。

 いや。傷じゃない。文字だ。

 しかも――


「日本語……?」


 掠れかけてはいるが、読める。

 令和式の漢字と仮名。

 しかも横書き。

 完全に現代日本語だった。

 息が止まる。

 主上は静かな声で言われた。


「読めるか」

「……はい」

「読んでみよ」


 喉が渇く。

 だが、拒否はできない。

 私は板を光にかざし、刻まれた文字を追った。


『――西暦二〇二七年六月。 もしこれを読む者がいるならば、 私は失敗したのだろう』


 空気が凍った。

 『はるちゃん』が小さく息を呑む。

 主上の目だけが静かだった。

 私は続きを読む。


『私は日本考古学研究機構所属、主任研究員、天城修司』


 うわああああああ。

 実名!?

 いや待って待って! なんでフルネーム残してるの!?

 『令和のおばちゃん』の脳内が大混乱している。

 だが文字は続く。


『私は恐らく、過去へ遡行した』


 うん。知ってた。

 でも本人が断定すると破壊力が違う。


『場所は不明。だが植生、地層、石器群、海岸線の形状から推定するに、後期旧石器時代末期――』


 主上がぽつりと呟かれる。


「“こうこがく”という学問らしいな」

「……はい。昔を調べる学問です」

「なるほど。故に世界の違和を見抜けたか」


 私は頷きつつ、続きを追う。


『言語は通じない。だが人類であることは間違いない』

『生存率向上のため、火の維持、煮沸、塩の生成、石器加工を開始』

『私は彼らに知識を与える』


 その瞬間。脳裏に浮かぶ。火を囲む人々。

 泥まみれになりながら土器を焼く男。

 海水を煮詰め、塩を作り、弓を削り、必死に“文明”を繋ごうとする姿。

 ――孤独だったろうな。

 思わず胸が締めつけられる。

 たった一人、数万年前に放り込まれて。

 帰れないと知りながら。それでも未来へ何かを残そうとした。

 主上が静かに言われた。


「最初の『稀人』よ」


 その声には、敬意が滲んでいた。


「皇家では、“始祖の導き手”と伝わっておる」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ