表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[4万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』① 元服と婚姻と四州近衛家

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/94

後奈良天皇①


 御簾の中へと引き込まれた瞬間、ふわりと香が鼻先を掠めた。甘すぎず、けれど凛とした香り。

 白檀……いや、もう少し柔らかい。沈香も混じってる? 『令和のおばちゃん』がぼんやりそんなことを考えている横で、『長慶おじさん』は完全に硬直していた。

 

 視線を上げる。

 そこにいたのは――

 “主上”だった。

 

 煌びやかな冠も、玉座もない。 けれど、この人が「天子」なのだと一目で分かる。

 年若くはない。父、海雲より年上なのは分かった。 痩せている。 戦乱と困窮に削られたような顔立ち。だが、その双眸だけは不思議なほど強い光を宿していた。

 その隣には、『はるちゃん』が当然のように座っている。

「……ほれ、固まっておるぞ」

 今上、知仁天皇(後の後奈良天皇)――主上は、少しだけ口元を緩められた。

 え、今、笑った?

 『長慶おじさん』の脳内が「不敬!不敬!」と大騒ぎしている。

 対して『令和のおばちゃん』は、「あ、この人、娘には甘いタイプのお父さんだ」と理解してしまった。


「稀仁」

「……は、はい」

「そこへ座れ」

 

 示された場所は、主上と『はるちゃん』の正面。 距離が近い。近すぎる。

 え、こんな距離感でいいの?

 だが『はるちゃん』は気にした様子もなく、私の袖を引っ張る。


「よし様、はよう」

 

 完全に娘に急かされる婿の図だった。

 恐る恐る座る。

 その瞬間だった。


「…… なるほどのう」

 

 主上がぽつりと呟かれた。

 視線が、まっすぐこちらを射抜く。


「二つ……確かにおる」


 ぞくり、と背筋が粟立った。脳内の『長慶おじさん』も息を呑む。

 分かったのか。“中に二人いる”ことが。

 

 部屋が静まり返る。『はるちゃん』も驚いた顔をして父を見る。


「おもう様……?」

「幼き頃より妙に気配が揺れると思うておった。されど確証はなかった。じゃが今、よう分かった」

 

 主上は静かに目を細められた。


「其方、完全なる『稀人』ではないな」

 

 心臓が跳ねた。

 隠していたわけではない。だが、説明できるものでもなかった。

 私は『三好千熊丸』であり、『令和のおばちゃん』であり、そして『長慶おじさん』でもある。

 その全部が混ざり合って今ここにいる。

 どう答えるべきか迷っていると、主上は小さく息を吐かれた。


「案ずるな。責めてはおらぬ」


 そう言ってから、


「むしろ興味深い」


 完全に研究者の目をされた。

 あ、この人。知的好奇心が強いタイプだ。

 『はるちゃん』が「あ」と小さく声を漏らす。


「よし様、おもう様、こういうお顔の時は止まりません」

「え?」

「徹夜でお話なさる時のお顔です」


 待って。皇帝陛下、徹夜とかするの?

 思わずぽかんとしていると、主上がわずかに咳払いをした。


「……娘よ」

「はい」

「余計なことを申すでない」

「でも本当のことでしょう?」


 くすくす笑う『はるちゃん』。

 それを見つめる主上の目が、一瞬だけとても優しかった。

 ああ。この人、ちゃんと父親なんだ。

 『令和のおばちゃん』は、そこで初めて少しだけ胸が軽くなった。

 “帝”という存在はもっと遠く、もっと人ではない何かだと思っていた。

 けれど違う。

 この人もまた、娘を案じ、国を憂い、未来に賭けようとしている一人の人間なのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ