『細川晴元』という少年
六郎(晴元)少年が逝って一年。
彼も畿内の三好一族も、反逆者として刑場の露となった彼らはさらし首となった。
晴元少年の亡骸のみ、父や叔父たちが頼み込み、色々根回しをした結果、阿波の地で葬ることが許された。
後で、平島様(足利義維)に聞いたのだが、晴元少年たちは最後まで、父である海雲をはじめとする阿波三好を巻き込むことを諦めなかったそうだ。
どうやって? 私(千熊丸)をさらって人質にして参加させようとしたらしい。
それを知った平島様と氏之様は晴元様と袂を分かち、阿波へと戻られたのだとか。
ああ、それでか。ある時期から晴元少年たちが捕えられるまで、芝生城に軟禁? 状態になり、周囲の大人たちが異様にピリピリしていたのは。
話を聞いて妙に納得した。
それにしても、幼いけれど家督を継いだ人間を攫うなんて悪手すぎるだろう。
追い詰められていたのかもしれないが、そのことが海雲や阿波三好との完全なる決別になってしまったんだろう。
晴元少年の法要は阿波細川家のみでひっそりと行われた。
私や父(海雲)は表立っては出られず、親戚筋が代理出席したそうだ。
安らかに。来世では戦さのない世界で穏やかな一生を送れますように。
そう芝生城で祈っていると、脳内で長慶おじさんは『甘いな』と微妙な苦笑いをしていた。
阿波を出る直前まで晴元少年は阿波三好に共に立って欲しいと父、海雲や三好一族に懇願し、頭を下げてまで願ったけれど、それに対して海雲は最後まで首を縦には降らなかった。
そんな彼らを見送る時、晴元少年は悔しそうに私を一瞥した。
まだまだ、十二、三の少年だ。そんな彼らが戦さに駆り出される。やりきれなくて
「どうしてもいかなければならないのですか?」
一歩踏み出しつい言葉にしてしまった。私の言葉に虚を突かれたような表情を浮かべる晴元少年。
「行かねばならぬ。一族の悲願だから」
自分自身に言い聞かせるように私に言葉を返す。
「其方は?」
強い口調で問い返される。
「私は『足る』を知っています」
私の発した言葉に晴元少年も周囲の大人たち全てがギョッとしたような表情で私を見た。勿論、脳内の長慶おじさんもだ。
「身の丈に合わぬ『野心』は身を滅ぼします」
誰も言葉を発しない。
「私は数え五歳の小童です。戦場ではただの足手纏いにしかなりませぬ。ゆえに阿波の地の守りに徹することにしました。阿波の地より、皆様ご武運をお祈りいたします」
そう一気に言うと、最敬礼で頭を下げた。続く沈黙の後、
「よい。わかった。千熊丸。海雲と共に阿波の守り、頼んだぞ」
少し、低めのけれど年若の声がかけられた。頭を上げると、まだ高校生くらいの青年が私の方を見ていた。
後の阿波公方、足利義維(義冬)になる、足利義賢だ。史実的にも彼も浮かばれない一生を送ることになっている。この時確か十七、八くらいだったと思う。この人は慎重派だった。阿波三好が動かないことに対して神輿に乗ることを躊躇したが、近畿勢に押し切られた形になった。
これが晴元少年との最後の別れだ。もしもあの時、彼らが踏みとどまっていれば、歴史はさらに別の流れになっていたかもしれない。
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