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[31万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』⑥ 皇統詔(天文四年)①

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天文の皇族の子供たち②


――天文四年(1535年) 如月下旬

 京・伏見宮御所


 邦輔親王は文を読み終えて、長く黙っていた。

 机の上には二枚の書状。


 一枚目。

『伏見宮第一王女・位子王女を皇太子妃とする』

 二枚目。

『覚音女王を邦輔親王正室とする』

 

 静かな部屋だった。

 障子の外では梅が咲いている。

 邦輔親王はゆっくり息を吐く。


「そうか」


 それだけだった。


 伏見宮の新しい役目。

 それは皇位を継ぐ家ではない、皇統を支える家になること。

 増えすぎず、途絶えさせず、な時だけ枝を差し出す家。

 まるで苗木を育てる庭師のような役目だった。


「寂しゅうございますか」


 老女房が尋ねる。

 邦輔親王は少し考える。


「いや」


 静かな返答だった。


「むしろ安心した」

「安心、ですか」

「位子は東宮妃になる」


 窓を見る。


「ならばあれは、皇統を守る」


 少し笑う。


「父上も喜ばれよう」


 しかし、本当は少しだけ違った。

 位子王女は幼い頃から伏見宮で育った。

 聡明で、勝気で。

 そしてなぜか阿波の話が好きだった。

 四国。学校。港。測量。

 阿波の話を聞くたびに目を輝かせていた。

 そして、未来の夫となるはずだった少年の話も。


「四州近衛様は本当にそんなことを仰ったのですか?」

「本当に」

「十二歳で?」

「十二歳でございます」

「変な方ですね」


 そう言って笑っていた。


 だから邦輔親王は知っていた。

 妹は少しだけ楽しみにしていた。

 会ったこともない婚約者を。


 その婚約が終わる。

 制度のために、皇統のために。

 誰も悪くない。だからこそ難しい。


 同日、伏見宮御所

 位子王女は静かに文を読んでいた。

 まだ六歳。しかし彼女もまた皇族の子だった。

 意味は分かる。自分は阿波へ行かない。

 東宮妃になる。それだけは理解できた。


「泣かれませぬか?」


 乳母が問う

 位子王女は首を傾げる。


「どうして?」

「婚約が」


 少女は少し考える。

 そして言った。


「阿波は遠いのでしょう?」

「はい」

「なら仕方ありません」


 驚くほどあっさりしていた。

 しかし、少しだけ間を置いて。


「でも」

「はい」

「学校は見たかったです」


 それだけ言った。



 一方、大慈光院。


 覚音女王は庭を見ていた。

 二十八歳。寺に入って長い。

 このまま静かに歳を重ねるものと思っていた。

 そこへ勅使が来る。


「還俗」


 短い言葉だった。

 覚音女王は驚かなかった。

 むしろ、


「そう来ましたか」


 と笑った。


「嫌ではありませんか」


 侍女が尋ねる。

 覚音女王は庭の梅を見る。


「嫌ではありません」


 少し考え、ぽつりとつぶやいた。


「驚いております」


 二十八歳。今さら嫁ぐ。

 それも伏見宮。相手は二十二歳。六歳も年下。普通なら無い話だろう。

 だが、今は普通の時代ではない。


「皇統詔、ですか」

「はい」


 覚音女王は静かに頷く。


「主上らしい」


 兄である主上(後奈良帝)を幼い頃から知っている。

 兄は昔からそうだった。

 人の人生を背負う決断をする。

 そして、自分も背負う。


「ならば参りましょう」


 覚音女王は立ち上がる。


「邦輔親王殿下も大変でしょう」


 侍女が驚く。


「ご自分ではなく?」

「二十二歳でしょう? 急に二十八の妻が来るのです。困っておられるかもしれません」



 数日後、伏見宮御所

 初対面だった。

 邦輔親王は緊張していた。

 覚音女王は少し面白そうだった。


「初めまして」

「邦輔でございます」

「覚音にございます」


 沈黙。長い沈黙。

 先に笑ったのは彼女(覚音女王)だった。


「困っておられますね」


 邦輔親王は少し虚を突かれたかのように彼女の顔を見る。


「はい」

「正直でよろしい」

「私も困っております」

「女王様もですか」

「もちろんです」


 少し笑う。


「二十八になって嫁ぐとは思いませんでした」


 邦輔親王も笑った。


「私も思いませんでした」


 少しだけ空気が軽くなる。


「ですが」


 覚音女王が凛とした声で言う。


「役目は果たしましょう」


 邦輔親王は彼女(覚音女王)の言葉に頷く。


「はい」

「伏見宮は皇統を守る家」

「はい」

「ならば私達は、その礎になります」



 その瞬間、邦輔親王は理解した。

 この人は強い。静かに、折れずに、前へ進める人だと。


 同じ頃、徳島城。

 私(長慶)は目の前に置かれた書類を見ていた。

 還俗。婚姻。家創設。皇子家設置。人事異動一覧。

 報告書の紙が山のように積まれている。


「父上」

「何だ」

「皇統詔って怖いね」


 海雲は笑った。


「今さら気付いたか」

「制度は国を動かす」

「うん」

「だが本当に動いているのは人だ」


 私(長慶)は外を見る。

 みんな動いている。自分が望んだからではない。制度が必要だったから。


 そして初めて思う。制度を作る人間は、制度の外には立てないのだ。

 そして、自分もまたその中で生きる一人なのだと。



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