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[31万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』⑥土佐の『天領化』

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土佐の天領化⑤


――1534年、神無月中旬


 京。内裏。


 長曾我部国親を逆賊とする勅命が発せられた数日後。

 もう一通。

 誰にも知られぬ文書が作られていた。

 宛先は一人。


 三好海雲。四州近衛家後見。


 ただし、これは公文ではない。

 評定にも出ない。

 記録にも残らない。

 帝自身の言葉だった。



 神無月の夜。


 徳島城。小雨が降っていた。


 海雲の私室。


 そこへ一人の公家が通される。

 供回りはない。

 護衛もない。

 極秘だった。


 海雲はその顔を見て、すぐに理解した。


「帝からですな」


 公家は静かに頷く。


「御内意にございます」


 そして、懐から小さな文を取り出した。

 封はされていない。

 読み終えた後、焼くためだ。

 海雲は文を開く。

 そこには短く。

 本当に短く。

 う記されていた。


『稀人に荒事をさせるな』


 海雲の目が細くなる。

 さらに続く。


『稀人もまた保護すべきものなり』


 それだけだった。

 署名もない。

 花押もない。

 だが、誰の言葉かは分かる。

 帝(後奈良帝)

 その人だった。


 しばらく、海雲は動かなかった。

 窓の外では雨が降っている。

 遠く、徳島城下の灯が見えた。



「やはりか」


 海雲は、ぽつりと呟く。


 公家が尋ねる。


「驚かれませぬか」


 海雲は首を振った。


「いや」

「そう仰ると思っていた」


 公家は少しだけ笑う。


「帝も同じことを」

「何と」

「海雲なら理解するだろうと」


 公家は静かに語る。


「帝は、稀仁様を大切に思われております」


 海雲は黙って聞く。


「四州近衛家だからではありません」

「皇女殿下の夫だからでもありません」

「稀人だからです」


 静寂。


「稀人は」

「人を導くもの」

「道を示すもの」

「国を繋ぐもの」

「故に刀を持たせるな」

「血を浴びせるな」

「荒事へ出すな」


 海雲は目を閉じた。

 理解できる。痛いほど、理解できた。


 千熊丸。

 幼い頃から見てきた。

 不思議な子だった。

 人が死ぬ話を嫌う。戦を嫌う。

 誰かを斬る話になると途端に口数が減る。

 だが、民が困っている話には、眠らず動く。

 病人の話。

 飢えの話。

 子供の話。


 そういうものには、異常なほど執着する。

 海雲は昔、理由が分からなかった。

 だが今は分かる。

 あれ(長慶)は、武将ではない。

 政治家ですらない。

 もっと別の何かだ。


 公家(密使)が帰った後、海雲は一人になった。

 そして、静かに火鉢へ文を入れる。

 紙は燃える。

 灰になる。

 誰も知らない。

 けれども海雲は忘れない。


『稀人に荒事をさせるな』

『稀人もまた保護すべきもの』


 帝の命令、いや、願いだった。

 

 翌朝。

 徳島城天守。


 私(長慶)は地図を広げていた。

 土佐。

 長曾我部。

 救出作戦。

 姫の保護。

 色々考えている。


「父上」

「何だ」

「私(長慶)も行くべきかな」


 海雲は即答した。


「駄目だ」


 私(長慶)は海雲の強い拒否に瞬きをする。


「え?」

「駄目だ」

「でも」

「駄目だ」


 三度目だった。

 私(長慶)は困惑する。

 海雲は腕を組む。


「お前は行かん」

「何故?」

「仕事がある」

「土佐も仕事だよ」

「違う」


 海雲は首を振る。


「お前の仕事は国を作ることだ」

「……」

「戦をすることではない」


 私(長慶)は黙る。


 その言葉には不思議な重みがあった。


 海雲だけは知っている。

 帝の密命を。

 そして、自分の役目を。

 荒事は自分がやる。

 血を浴びる役は自分が引き受ける。


 だから、稀仁(長慶)には制度を作らせる。

 学校を作らせる。人を育てさせる。未来を作らせる。

 それこそが、海雲と帝(後奈良帝)が共有する。


 たった一つの願いだったのである。

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