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[31万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』⑤伊予の『天領化』

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伊予の天領化⑥

――1534年、水無月中旬。


 伊予国・湯築城。

 湯築城の評定は熱を帯びていた。

 理由は単純。

 調査結果が揃い始めたのである。


 第二回総括評定

 評定の間。

 私(長慶)たち阿波、讃岐勢。朝廷使節。

 そして、河野家重臣たち。伊予各地の国人。百名近い者が集まる。


 そして、中央には巨大な地図。

 伊予全図。これほど詳細な伊予地図を。

 おそらく誰も見たことがなかった。

 河野通直も見つめる。


「見事だな……」


 思わず漏れた。

 村。港。市場。街道。航路。用水。寺社。

 全てが描かれている。

 小一郎(篠原長房)が頭を下げる。


「三百四十七名が調査に参加しました」


 三百四十七名。阿波、讃岐、伊予、さらに技術者、僧、商人。

 それだけの人間が動いた。

 だから出来た。

 戦国では前代未聞の国勢調査だった。


 最初に発表されたのは、長所だった。

 私(長慶)が立つ。


「伊予最大の強みは」


 皆が聞く。


「海です」


 即答だった。

 河野通直も頷く。

 当然だ。

 だが、長慶は首を振る。


「違います」

「?」

「本当は海ではありません」


 地図を指差す。


「人です」


 静かになる。


「海を知る人、船を作る人、船を操る人、商う人、記録する人、交渉する人。それが伊予にはいる」


 皆が黙る。

 河野通直も黙る。

 それは、褒め言葉だった。そして事実だった。


 伊予には、海で生きる人材の層が厚い。

 阿波より讃岐より厚い。四国随一だった。


 そして、私(長慶)は続ける。


「弱みも同じです」


 ざわつく。


「人?」

「はい」


 私(長慶)は頷く。


「皆優秀です」

「だから、まとまらない」


 沈黙。

 図星だ、痛いほど分かる。

 河野家重臣たちが顔を見合わせる。

 ことわざにある『船頭多くして船動かず』通りだった。


 港が強い、島が強い、商人が強い、水軍が強い、国人が強い。

 だから、全員が自立している。

 結果、全体最適にならない。

 言い換えれば部分最適の集合体。

 それが伊予だった。


 河野通直は何も言わない。


 しかし、内心では驚いていた。

 ここまで見抜かれたのは初めてだった。


 当然守護だから分かっていた。

 伊予をまとめる難しさは。

 しかし、それを言語化した者はいなかった。

 しかも、十二歳の少年が。


「皆強い。だからまとまらない」


 それだけで、伊予の本質を表していた。


 そこで、ずっと黙っていた海雲が口を開く。


「河野殿」

「うむ」

「一つ聞きたい」


 河野通直が海雲の方へと向き直る。


「もし、河野殿が亡くなったら」


 空気が凍る。重臣たちも固まる。

 だが、河野通直は怒らない。

 続きを待つ。


「今の伊予は、そのまま維持できますかな」


 沈黙、長い沈黙。誰も答えられない。

 なぜなら、皆知っていた。

 出来ない、とは言わない。


 けれど、難しい。極めて難しい。

 河野通直だから保っている部分が大きい。

 それが現実だった。


 静寂の中、私(長慶)は立つ。


「私は、河野家を潰したいわけではありません」


 皆が聞く。


「伊予を奪いたいわけでもありません」

「では何だ」


 河野通直が問う。私(長慶)は正直に答える。


「残したい」


 静かになる。


「百年後も、二百年後も、伊予を、河野を、人を、技術を、港を残したい」


 その言葉に河野通直は目を閉じる。

 不思議だった。

 戦国の子供ではない。


 発想が違う。領地を取る話ではない。家を残す話でもない。

 文明を残す話だった。


 その夜、湯築城天守。


 河野通直は一人で酒を飲んでいた。

 そこへ、嫡男の太郎(通宣)が来る。

 太郎は四州様(長慶)と同じ十二歳だ。

 しかし、まだ元服はしていない。


「父上」

「来たか」


 しばらく二人で夜の松山平野を眺める。

 そして太郎(通宣)が言う。


「どう思われますか」


 河野通直はすぐには答えない。

 しばらくして、ぽつりと呟く。


「恐ろしい」

「四州様(長慶)がですか」

「違う」


 河野通直は首を振る。


「考え方がだ」


 太郎(通宣)も黙る。

 確かに、あれは今までの戦国武将には無い発想だった。


 普通は敵か味方か、勝つか負けるかだ。

 ところが、そんな話ではない。

 もっと先を見ている。

 百年先。二百年先。そんな話をしている。


「もう少し見よう」

「父上?」

「まだ判断はせぬ。だが…」


 夜風が吹く。


「このまま帰してはならぬ」

「……」

「もっと伊予を見せる」

「もっと聞く」

「もっと考える」


 太郎(通宣)は頷く。


 こうして、伊予天領化は、賛成か反対かの段階を超え、「伊予という国の未来をどう設計するか」という段階へ入っていく。



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