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[31万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』⑤伊予の『天領化』

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152/183

伊予の天領化④

――1534年、皐月中旬。


 伊予国。調査開始。


 それは、長慶たちにとっても予想以上の難事業だった。

 なにしろ伊予は広い。阿波より讃岐より広い。そして何より複雑だった。


 湯築城。評定の間。

 巨大な伊予地図が広げられる。

 河野通直、私(長慶)、海雲、朝廷使節。

 阿波、讃岐の若者たち。さらに伊予側の国人たち。

 皆が集まる。


「一班では無理です」

 

 地図を見て、小一郎(篠原長房)が断言した。他も全員頷く。

 讃岐の倍近い上、地形も複雑。海もある、山もある、島もある。

 結果、調査班は大きく五つへ分かれる。



東予班

 彦太郎(森元村)、十河家嫡男、伊予国人衆数名


中予班

 小一郎(篠原長房)、香川家嫡男、河野家若手家臣


南予班

 次郎(一宮成助)、寒川家嫡男、西園寺家若手衆


海路班

 太郎(新開元実)、海部家嫡男、河野家若手家臣


技術・産業班

 小太郎(大西頼武)、安富家嫡男、職人衆


 私(長慶)自身は全体統括。各班を巡回する。


 数日後。

 河野通直は報告を受けていた。

 河野家家臣。若い者たちが帰ってくる。


「どうだ」

「不思議です」


 最初の報告がそれだった。


「何がだ」

「争いません」


 河野通直が眉を上げる。


「誰が?」


 という河野通直との問いに、


「阿波の者たちです」

「領地を取ろうとしません」

「家臣を引き抜こうとしません」

「調査しかしません」


 河野通直は黙る。

 普通ならあり得ない。

 他国へ入る。ならば勢力拡大を狙う。

 それが戦国だ。

 だが『四州近衛』は違う。本当に調べている。それだけだった。


 その頃、彦太郎(森元村)たちは東予を回っていた。

 村。田。山。ため池。讃岐でもしてたことだ。

 彦太郎(森元村)は違和感に気付く。


「おかしい」


 十河家嫡男が振り返る。


「何が?」

「水だ」


 地図を見る。東予は豊かだった。

 田も多い。収穫も多い。

 しかし、豊かな場所とそうでない場所の差が激しい。


「同じ川なのに村によって全然違う」


 調べ始める。すると原因が見えた。

 用水管理が統一されていない。

 村ごと、家ごとすべてばらばらだった。


 彦太郎(森元村)は帳面へ書く。

 『共同管理化で改善余地大』


 さらに、海路班。


 海部家嫡男が大きな地図を見ていた。

 伊予沿岸。島嶼部。航路。

 そして、彼は絶句する。


「何だこれ」

「どうした」


 太郎(新開元実)が覗く。

 海部家嫡男は指差した。


「同じ航路に」

「三種類の通行税がある」

「は?」

「港ごとに、島ごとに、家ごとに違う」


 太郎(新開元実)も固まる。


 これは酷い。商人が嫌がるわけだ

 記録をまとめる。するとさらに分かる。

 同じ荷物なのに場所が変わるだけで利益が消える。

 それほど税制が複雑だった。


 皐月下旬。第一回中間報告。

 湯築城。


 再び関係者が集まる。

 小一郎(篠原長房)が報告する。


「伊予は豊かです」


 皆頷く。それは事実。


「しかし同時に統一されていません」


 空気が変わる。

 小一郎(篠原長房)は地図を広げる。

 航路図。税率図。用水図。市場図。大量だった。


「今までは見えませんでした」

「なぜなら、誰も全体を見ていなかったからです」


 河野通直は黙る。

 その通りだった。伊予を知っているつもりだった。

 けれど、それぞれの地域しか見ていない。つまり全体ではなかった。


 報告が終わる。

 静寂の中、私(長慶)が進言する。


「河野殿」

「うむ」

「私はまだ天領化を勧めません」


 一同が驚く。河野通直も目を細める。


「ほう?」

「まだ足りません」

「何がだ」

「調査です」


 即答だった。


「もっと知る必要があります、伊予を」


 河野通直はしばらく黙った後、ふっと笑った。


「なるほど」

「確かに」


 そこで初めて、河野通直は理解し始める。

 この少年は、最初から答えを持ってきたわけではない。答えを探しに来ているのだ。

 そして伊予の調査はさらに続く。

 その過程で、河野通直自身も知らなかった、伊予最大の富――瀬戸内海交易網の真の規模が、徐々に姿を現し始めるのだった。



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