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[31万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』④讃岐の『天領化』

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讃岐の天領化24

――1534年、弥生末。

 讃岐国分寺。

 天領化受諾。

 それは終わりではない。始まりだった。

 むしろ、ここからが本番だった。


国分寺・大講堂


 朝。

 講堂には長机が並べられていた。

 その上には大量の文書。

 束。束。また束。

 それを見て国人たちは思った。


「戦より大変では?」



 実際その通りだった。

 小一郎(篠原長房)は容赦なく、若干嬉々として言う。


「本日より正式手続きに入ります」


 誰も喜ばない。


「提出書類はこちらです」


 どさりと積み上がる。

 その量の多さに皆が絶望した。



第一号文書『領地返上目録』


 最初に提出するもの。


 自家が保有する全ての土地や村。

 田畑、山林、塩浜、港、寺社領。

 全て書く。

 香川氏が顔を引き攣らせる。


「全部か」

「全部です」


 容赦のない小一郎(篠原長房)。


「隠したら?」

「後で発覚した場合は再審査です」


 沈黙。

 皆素直に書き始めた。



第二号文書『家格・系譜提出目録』


 これは朝廷向け。


 家名、家系、由緒。

 代々の当主、所持文書。


 全て記録。

 朝廷記録官が直接確認する。

 今まで口伝だったものまで書かされる。

 古老たちが悲鳴を上げた。


「曾祖父の代なんぞ知らん!」

「調べてください」

 小一郎(篠原長房)は無慈悲だった。



第三号文書『城郭・館提出目録』


 これも重要。どこに、何があり。どの程度の規模か。


 全て提出。

 小笠原長政たちが確認して回る。


 城の規模、石垣、井戸、兵糧庫。

 後の維持管理台帳になる。



第四号文書『家臣団名簿』


 ここで講堂が騒然となる。


「家臣まで!?」

「必要です」

 小一郎(篠原長房)即答する。



 氏名。年齢。役職。知行。その全て。


 国人たちは頭を抱えた。

 しかし私(長慶)には分かる。


 これが未来の「阿波式戸籍」の原型になる。



第五号文書『寺社登録目録』

 一宮成助担当。

 神社、寺院、別当寺、祭礼、神職。


 その全て登録。

 後の文化財台帳である。



第六号文書『港湾・市場登録目録』

 新開元実担当。

 港、船着場、市、倉庫。


 全てが登録された。

 香西氏が真っ先に提出した。


「商いに関わるなら早いな」

 海雲が笑う。


 弥生下旬

 提出された文書が並ぶ。

 圧巻だった。

 数百冊? いや 千冊近い。

 朝廷使節たちも唖然とする。


「これほど詳細な地方記録は見たことがない」


 記録官が呟く。事実だった。

 戦国期の地方行政としては異例。

 いや、異常だった。



 そして、全提出完了後、講堂中央、朝廷使節が立ち上がる。

 その手には勅命書。


 全員が起立する。

 『はるちゃん(永寿)』も。私(長慶)も。海雲も。

 静寂の後、読み上げられる。


「讃岐国諸家」

「朝廷へ所領並びに家格を返上したことを確認する」


 全員が頭を下げる。


「調査完了までの間」

「現状維持を命ず」

「以後」

「朝廷直轄地として管理を行う」


 それは、歴史的瞬間だった。


 讃岐は今、形式上、一度消えた。

 全てを朝廷へ返したのだ。

 読み上げが終わる。

 私(長慶)は窓の外を見る。

 讃岐の空は何も変わらない。

 田もある。村もある。城もある。


 しかし、その中身は変わった。

 初めて、土地が人の私有物ではなく、公的な記録の上へ載った。


 そして、これから数か月をかけて、朝廷による再認定作業が始まる。


 香川氏。香西氏。十河氏。寒川氏。安富氏。

 彼らの領地も家格も全て正式文書として再発行される。


 後に歴史家たちは呼ぶ。「第一次讃岐再編」と。

 それは、四国天領化における、最初の本格的行政改革であった。

 

 そして『四州近衛』の家臣団は、提出された膨大な文書を携え、一度阿波へ帰還することになる。


 次は、朝廷から届く「再認定」の審査が始まるのだった。



――1534年、卯月初め。


 阿波国・徳島城。


 讃岐から戻った船団が吉野川河口へ入る。


 港は騒がしかった。荷が多い。人も多い。

 そして何より、帳面が多い。


「重い……」


 彦太郎(森元村)が文書箱を抱えて呻く。その横には小一郎(篠原長房)も同じように歩いていた。


「腕が取れる……」

「まだ三箱あります」

「鬼」

「仕事です」


 いつも通りの二人だった。



 徳島城・政所


 帰還から三日後。

 徳島城で大評定が開かれる。


 『四州近衛』(長慶とはるちゃん)とその側近と『芝生組』。

 そして、海雲と三好の家臣。さらに、阿波各地の国人。技術者。商人代表。寺社代表。

 そして、讃岐から来た若者たち。

 十河家。香川家。香西家。寒川家。安富家。

 彼らは『国分寺一期生』である。

 彼らはまだ讃岐に帰っていなかった。


 評定が始まる。


 私(長慶)は机上に地図を広げた。

 阿波と讃岐。そして二つを結ぶ海路。



「次の話です」


 皆の意識が自分に向けられる。


「研修制度を作ります」

「研修?」


 海雲が私(長慶)に問う。


「うん、そう」

「讃岐から若者を受け入れる」

「阿波で学び、終わったら帰る」


 海雲は驚いた顔をして私(長慶)を見た。

 まあ、わかる。戦国時代には珍しい発想だものね。

 人質ではない。養子でもない。ただ学ぶために来る。


 小一郎(篠原長房)が資料を出す。


 阿波研修制度


 一、期間は一年

 二、希望制

 三、身分問わず、性別を問わず

 四、技術習得を目的とする

 五、修了後は所属地へ帰還


「武士以外も?」

「もちろん」


 私(長慶)は即答した。


「鍛冶も必要」

「大工も必要」

「紙漉きもガラス職人も必要」

「医師も薬師も産婆も必要」

「役人も必要」


 未来国家を作るには、武士だけでは足りない。


 そこで話題は三好学校へ移る。

 元々あった職業訓練所。規模が今では足りない。

 小一郎(篠原長房)が報告する。


「収容限界です」

「早いな」

「既に満員です」


 阿波の若者。讃岐の若者。職人志望。役人志望。

 全て増えている。


「増築ですね」


 小太郎(大西頼武)が言う。


「増築だね」


 私(長慶)も頷いた。


 すると海雲が口を開く。


「ならば分校を作れ」


 皆が振り向く。


「徳島だけでは足りん。勝瑞、芝生、撫養、南の方にも作れ」


 私(長慶)は少し驚く。

 海雲の方から出るとは思わなかった。


「賛成」


 即決だった。

 次に話題になるのは技術者。

 次郎(一宮成助)が報告する。


「寺子屋が足りません」

「教師も足りません」

「医師も足りません」


 全員苦笑する。

 また足りない。

 何もかも足りない。

 しかし、それは発展している証拠でもあった。


 ここで『はるちゃん(永寿)』が口を開く。


「でしたら、女子教育も整えてはいかがでしょう」


 戦国時代である。珍しい提案だった。

 私(長慶)は即答した。


「やる」


 即決。

 海雲が吹き出した。


「決断が早いな」

「必要だからね」


 『はるちゃん(永寿)』は微笑んだ。


「記録係も医術も薬学も。女子が学べば増やせます」


 確かにその通りだった。それも人材不足の解決策の一つである。

 元々、既に阿波では男女問わずの教育は始まっていた。

 ただし、専門に特化してくると、どうしても手薄になりがちだったのだ。

 彼女はるちゃんの指摘により、専門性の高い分野にも女子を育てれば、より早い『仕組み』を作り上げることができる。


 その夜、阿波の若者たちと讃岐の若者たちが再び集まっていた。

 徳島城下。半年前なら考えられない光景だった。

 阿波と讃岐。別の国の若者たち、共に語り合うことなどなかった存在。

 だが今は違う。

 同じ帳面を書いた。同じ地図を作った。

 同じ小一郎(篠原長房)に怒られた。

 それだけで十分だった。

 十河家の若者が笑う。


「今度は阿波を調べるのか」


 彦太郎(森元村)も笑う。


「そのうち伊予もだろ」

「土佐も」

「終わる気がしない」


 皆が笑った。


 深夜の徳島城天守。


 海雲と私(長慶)が並んでいた。

 城下には灯が見える。以前より増えていた。


「増えたな」


 海雲は城下を一望したまま話しかける。


「うん」

「人が、仕事が、責任が」


 私(長慶)はその言葉に苦笑する。

 そんな私(長慶)を見て海雲も笑った。


「お前、戦より忙しいだろ」

「百倍?」


 二人とも笑う。

 だが海雲はすぐに真面目な顔になる。


「讃岐は始まった」

「うん」

「次はどうする?」


 私(長慶)は窓の外を見る。

 思いは、西。海の向こう。


 伊予…

 河野。西園寺。宇都宮。土居。

 そしてそのさらに西には、大内。毛利。


 まだ誰も知らない… 四国で始まったこの制度が、やがて西国全体を揺るがすことになるのを。


「まずは阿波と讃岐の人を育て、制度を磨いて仕組みを完成させる」


 海雲に、自分に言い聞かせるように答えた。



――1534年、皐月の初め。

 

 阿波国・徳島城。


 讃岐から戻って一月ほど。

 徳島城政所は相変わらず地獄だった。


「小一郎」

「はい」

「書類減った?」

「増えました」

「何で?」

「讃岐です」


 即答だった。私(長慶)は机へ突っ伏した。

 讃岐の天領化受諾。

 それ自体は終わった。

 だが実際には、そこからが本番だった。


 領地再確認。

 税率調整。

 街道管理。

 港管理。

 ため池管理。

 寺社管理。


 全てを阿波式へ移行する必要がある。

 当然、問題は山ほど出る。


 この日、政所には讃岐からも代表が来ていた。

 香川家。香西家。十河家。寒川家。安富家。

 そして、国分寺一期生たち。

 以前なら敵同士になる可能性もあった若者たちが、今は同じ机についている。


 小一郎(篠原長房)が説明する。


「まず税率」

「阿波と讃岐で差があります」


 帳面が開かれる。

 皆が顔をしかめた。

 確かに違う、讃岐は、地域ごと、村ごと、領主ごと、全てばらばらだった。


「どうする」


 香川家の若者が聞く。

 小一郎(篠原長房)は即答する。


「揃えます」

「簡単に言うな」

「簡単ではありません」

「だから皆さんがいます」


 皆がため息をついた。


 一方、三好学校では新しい制度が始まっていた。

 阿波讃岐合同研修では、

 鍛冶。測量。製造。港湾管理。帳簿管理。医術。薬草学。

 様々な講義が行われる。

 そこには、武士も商人も職人もいる。

 ある意味、戦国時代らしくない光景だった。


 けれど『令和のおばちゃん(長慶)』には分かる。

 国を作るのは、武士だけではない。

 むしろ、それ以外の人材の方が多いということを知っているから。


 そんなある日、京から使者が到着した。

 朝廷使節。

 その手には正式文書。

 小一郎(篠原長房)が受け取る。

 中を開く。そして、珍しく目を見開いた。



「殿(長慶)」

「ん?」

「来ました」

「何が?」

「許可です」


 政所が静まる。


 小一郎(篠原長房)は文書を広げた。


 帝(後奈良帝)の綸旨。

 正式な再編許可。

 四国天領化事業継続の許可。

 そして、伊予国調査開始許可。


 部屋の空気が変わった。

 ついに来た。地図が広げられる。


 伊予国。


 四国最大級の人口。複雑な勢力。

 河野氏。西園寺氏。宇都宮氏。土居氏。忽那氏。


 瀬戸内海交易。海賊衆。寺社勢力。

 讃岐より遥かに規模が大きい。

 海雲が腕を組む。


「難しいな」

「うん」


 私(長慶)も頷く。

 讃岐は比較的まとまっていた。

 ところが伊予は違う。勢力圏が複雑に絡み合う。

 だからこそ、同じ手順が必要だった。



 数日後、徳島城評定。


 私(長慶)は正式に方針を発表する。


「伊予も讃岐と同じです」

「まず調査。次に説明、その後、選択」


 一同が頷く。『強制ではない』それが重要だった。


「天領化へ参加するか、四国天領体制の外に残るか」

「決めるのは伊予の人たちです」


 海雲も頷いた。


 だからこそ受け入れられる。

 命令ではない。選択だからだ。


 その夜、若者たちが集まる。

 阿波と讃岐、国分寺一期生と呼ばれている少年たち。

 それは天領化の未来。


 彦太郎(森元村)が笑う。


「今度は伊予か」


 十河家の若者も笑う。


「また地図だな」

「また帳面だ」

「また小一郎だ」


 一同が笑った。

 小一郎(篠原長房)だけ笑わない。

 小一郎、怖いよ。私(長慶)はそんなことを思ってしまった。


 そして私(長慶)は彼らを見る。

 最初は五十人の阿波の『芝生組』だった。

 今は八十人近い、『国分寺一期生』と言われている、阿波と讃岐の若者たち。

 そこに次は伊予が加わる。やがて土佐も。

 そうして、四国全体の次世代が一つの世代になっていく。

 戦国の国人ではなく、四国という共同体を知る世代へ。



 1534年皐月。


 私(長慶)たちは再び船を整える。

 行き先は伊予。

 讃岐で行ったのと同じように、まずは各勢力へ書状を送り、伊予国の主要国人・城主・寺社勢力を一堂に集めることになる。

 

 四国天領化第二段階…

「伊予国一次説明会」がいよいよ始まろうとしていた。



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