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[31万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』④讃岐の『天領化』

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讃岐の天領化22


――1534年、弥生十一日。


 讃岐国分寺。

 前日の評議が終わっても、人々はすぐには帰らなかった。

 いや、正確には帰れなかった。


 なぜなら、昨日決まったのは、方向だけだからだ。

 問題はこれからだった。


 何を返上するのか。

 どこまで調査するのか。

 誰が確認するのか。

 どうやって阿波式へ移行するのか。


 つまり、実務である。

 そして実務になると、途端に皆の顔が険しくなる。


 国分寺・第二日目


 朝、国分寺の講堂。

 机が並べられている。

 やってきた讃岐の武士たちが怪訝そうな顔をしていた。


「何だこれは」

「評議ではないのか」


 小一郎(篠原長房)が答える。


「違います。今日は調査です」


 成人したばかりの、まだ幼さの残る少年の涼やかな顔から発せられる言葉に、嫌な予感しかしない。そういう顔が並んだ。


 小一郎(篠原長房)は容赦しなかった。


「香川家」

「はい」

「所領一覧」

「あります」

「支城一覧」

「あります」

「寺社一覧」

「あります」

「用水路一覧」

「……」


 沈黙。


「ありませんね」

「ありません」

「作ってください」


 香川家家臣団。頭を抱える。


 小一郎(篠原長房)は容赦無く次へと進む。


「香西家」

「はい」

「港湾収入」

「あります」

「船籍数」

「あります」

「年間取引量」

「……」

「概算です」

「測ってください」


 香西家も沈没。


 私(長慶)はそれを見ながら思った。

 怖い。小一郎怖い。



 一方、朝廷使節たちはもっと驚いていた。


「何だこれは」


 記録官が呟く。


「検地の前に」

「検地の準備をしている」


 普通なら、朝廷が人を派遣する。

 現地で調べる。終わり。


 だが『四州近衛』は違った。


 先に地元へ資料を作らせている。しかも統一様式で。

 記録官は思わず笑った。


「仕事が減る」


 隣の公家も頷く。


「異常ですな」

「異常です」


 講堂の隅。阿波の若者たちは、この光景を眺めていた。


「戦にならないな」


 彦太郎(森元村)が言う。


「ならないね」


 四郎(小笠原長政)も頷く。


「もっと怒鳴り合うと思った」

「私も」


 確かに、昨日で方向は決まった。

 だから今日からは、どう実現するか。という話になっている。

 これは彼らにとっても新鮮だった。



 回廊。

 海雲は目の前の光景を一人で眺めていた。


 国分寺の講堂の境内。

 そこでは、武士と商人が話している。

 庄屋と僧が話している。

 役人と職人が話している。

 不思議な光景だった。

 昔なら、武士だけで決める。

 それが当たり前だった。

 けれど今は違う。


 皆が参加している。


 海雲は苦笑した。


「本当に変えてしまう気か」


 誰に言うでもない。

 ただ、息子(長慶)の背中を見る。

 

 千熊丸。


 いつの間にか、人が集まるようになっていた。

 武力ではない。権威だけでもない。

 未来を見せることで、人を動かしている。


 その日の終わり。

 各家へ新たな文書が配られた。


 第一回讃岐国調査令


 一、全所領報告

 一、全城郭報告

 一、全戸数報告

 一、全寺社報告

 一、全用水報告

 一、全港湾報告

 一、全街道報告



 提出期限。三月末。


 それを見た国人たちは声にならない悲鳴をあげ、一斉に頭を抱えた。


「多い!」

「終わらぬ!」

「誰がやる!」


 講堂の奥、小一郎(篠原長房)が涼やかな笑顔と共に静かに言った。


「皆さんです」


 その一言に讃岐の衆は絶望の表情を浮かべた。


 その夜の国分寺の客殿。


 私(長慶)は灯火の下で地図を見ていた。

 そこへ『はるちゃん』が来る。

 今回は『はるちゃん』も讃岐入りしていた。


「皆様、大変そうですね」

「うん」

「怒られませんか」


 私(長慶)は笑った。


「怒られると思う」


 実際怒られている。

 けれど、それらは必要なことだった。


「地図を描くには、まず測らないといけない」

「国を作るには、まず知らないといけない」


 私(長慶)の呟きに『はるちゃん』は静かに頷いた。

 私(長慶)は讃岐の地図を見る。

 まだ空白だらけ。どこに何人いるのか。

 どこに水が流れているのか。

 どこに田があるのか。正確には誰も知らない。

 だから、まず知る。そこから始まる。


 そういうものなのだ、未来の国家づくりは。


 まず「調べること」から始まるのだ。

 そしてこの時、讃岐の国人たちはまだ知らない。


 この「調査」が、後に四国全土の統治制度の原型となり、さらに伊予・土佐へと広がっていくことを。

 そして彼ら自身が、その最初の当事者になることを。



――1534年 弥生十二日


 讃岐国分寺。

 前日の評議は終わった。

 だが国人たちはまだ領地へ帰らない。

 いや、帰れない。


 返上手続き。

 検地。

 戸数調査。

 寺社調査。

 港湾調査。


 やることが山ほどある。


 その日の夕刻。

 香川氏、香西氏、十河氏、寒川氏、安富氏ら主要国人は宿坊へ招かれていた。


 説明役は小一郎(篠原長房)。

 全員が覚悟を決めた顔をしている。


「本日は返上手続きの詳細説明を行います」


 その瞬間、外が妙に静かになった。

 讃岐の武士たちが気付く。


「ん?」


 誰かが振り向く。

 宿坊の外に、見慣れぬ京風の女房たちが並んでいる。

 さらに、朝廷使節までもが起立した。


 場の空気が変わる。


 小一郎(篠原長房)が説明を止め、姿勢を正す。

 海雲も姿勢を正す。

 四州様(長慶)も立ち上がる。

 その動きに国人たちは困惑する。


「何事だ?」


 そして、部屋の奥に設置されていた御簾が静かに動く。

 姿は直接見ることはできない。

 しかし、そこに現れた人物を見て、何人かが息を呑んだ。


 若い。


 けれど、その場にいる誰よりも高貴な存在。

 帝の第二皇女。永寿内親王。

 

 国人たちは慌てて平伏した。

 香川氏ですら反射的に頭を下げる。

 香西氏も、十河氏も、安富氏も全員である。

 この時、彼らは初めて理解した。

 四州様(長慶)は

 単なる近衛家の分家当主ではない。

 単なる海雲(三好元長)の嫡男でもない。

 単なる阿波の若殿でもない。

 その妻は皇女。

 そして、その皇女が、わざわざ讃岐まで来ている。

 つまり、朝廷は本気なのだ。四国天領化を。本気で進めるつもりなのだと。


 静まり返る宿坊。

 その中で『はるちゃん(永寿)』は静かに言う。


「皆の働き、父帝より聞き及んでおります」


 柔らかな声だった。

 しかし、その一言の重みは、どんな軍勢よりも重かった。


 香川元景は後に振り返る。


「あの時初めて分かった。四州様(長慶)が作ろうとしていたのは阿波の国ではない。朝廷と共にある新しい四国だったのだ」


 そして讃岐の国人たちは、改めて自分たちが立っている歴史の転換点を理解し始めるのであった。


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