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[31万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』④讃岐の『天領化』

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讃岐の天領化⑨


 阿波を発って三日。


 一行は引田を越え、讃岐へ入った。

 もっとも、誰もが予想していたような緊張した国境警備は無かった。

 既に書状は届いている。


 送り主は、


『四州近衛孫次郎長慶稀仁』


 そして後ろには、朝廷、近衛家。

 さらに海雲。


 讃岐の国人たちも無視できる相手ではない。

 だからといって、全面的に賛同している訳でもない。

 皆が様子見だった。


「人は知らないものを恐れる」


 街道を進みながら海雲が言う。


「だからまず見せる」


 私(長慶)は頷いた。そのために来たのだから。


 讃岐国分寺。古くから続く由緒ある寺。

(ここも長曽我部によって焼かれちゃったんだよね)


 その広い境内には、既に多くの者が集まっていた。

 国人、寺社勢力、有力百姓、商人、塩田経営者、港の代表。

 そして、讃岐の城主たち。

 総勢二百近い。その圧力に阿波の少年たちが息を呑む。


「多いな……」


 彦太郎(森元村)が小声で呟く。


「当たり前だ」


 小一郎が答える。


「四国の話だからな」


 その時、一人の国人がこちらを見て眉をひそめた。


「本当に若い」


 周囲も頷く。無理もない。


『四州近衛家嫡流当主』

『帝の皇女の夫』

『天領化の中心人物』


 そう聞けば、三十代か四十代を想像する、ところが実際にはまだ十二歳に満たない少年だった。

 けれども海雲はその反応を気にしない。むしろ当然だと思っている。


「まず座れ」


 私(長慶)は皆に言った。

 すると、国人たちが少し困惑する。


「……?」


 普通なら主催者が上座。国人たちは下座。

 そうなる。だが私(長慶)は首を振った。


「今日は評議だ。命令ではない。だから全員同じ場所で話す」


 讃岐の国人たちが顔を見合わせる。

 海雲が横で苦笑した。


「始まったな」


 篠原長政も笑う。彼ら(阿波の大人たち)は知っている。

 私(長慶)がこういうところで妙なことを言い出すのを。


 やがて、大きな輪ができた。

 中央に地図、周囲に人々。そして、上座が無い。これだけで既に異様だった。



 私(長慶)は立ち上がる。

 だが演説はしない。まず聞く。

 父、海雲との約束だ。


「讃岐で一番困っていることは何ですか」


 その問いかけに場が静まる。誰も予想していなかった。

 普通なら、天領化の説明、朝廷の方針。そういう話が始まる。

 だが違った。


「まず聞きたい」


 私(長慶)は繰り返す。


「讃岐で困っていることは何ですか」


 しばらく沈黙。やがて、一人の老国人が口を開く。


「水だ」


 私(長慶)は頷く。


「詳しくお願いします」

「雨が少ない」

「溜池はある」

「だが足りぬ」


 別の者が続く。


「川の水争いも多い」

「上流と下流で揉める」


 さらに、


「塩田も水を使う」

「田も水を使う」

「毎年同じことになる」


 私(長慶)は横を見る。書記たちが一斉に記録している。

 少年たちも必死だ。これが最初の授業だった。


「他には」


 私(長慶)は尋ねる。


「港だな」


 商人が答える。


「荷が増えている。だが荷揚げ場が狭い」


 さらに…


「街道が悪い」

「橋が足りぬ」

「市ごとに升が違う」


 場が少し盛り上がり始める。

 皆、誰しも不満はある。ただ言う機会と場所が無かっただけだ。

 私(長慶)は何も反論しない。

 ただ聞く。書く。整理する。


 その様子を見ながら、海雲は腕を組んで話をただ聞いていた。そして、小さく笑う。


「なるほど」


 海雲の呟きに側にいた篠原長政が尋ねる。


「何がです」

「こいつは」


 海雲は中央に座る息子(長慶)を見る。


「国人たちを説得するつもりだった」

「違うのですか」

「違うな」


 海雲は笑った。


「先に讃岐の不満を全部吐き出させる気だ」


 海雲の言葉に篠原長政も気付く。


「ああ……」


 なるほど、人は自分の話を聞いてくれる相手を嫌いになれない。

 まして反論もせず、馬鹿にもせず、真剣に書き留める相手ならなおさらだ。


 そして、評議が始まって二刻ほど経った頃、私(長慶)はようやく地図へ手を伸ばした。


「皆様」


 先ほどまでとは違う声。静かに、しかしはっきりと。


「今聞いた話、実は全部繋がっています」


 私(長慶)のその言葉に、讃岐の国人たちが初めて真剣な顔でこちらを見た。

 いよいよ、私(長慶)が考える『天領化』の話が始まろうとしていた。


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