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[31万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』④讃岐の『天領化』

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讃岐の天領化⑦



 讃岐へ向かう前日


 徳島城では最後の準備が続いていた。

 城下の倉には旅の物資が積み込まれ、政所では書記たちが名簿を整理し、厩では馬の点検が行われている。

 その喧騒から少し離れた奥御殿。

 そこは武家の城でありながら、どこか京の香りを残していた。

 庭には梅が咲き、廊下には香が焚かれている。

 その縁側に腰掛けていたのは。


 『はるちゃん(永寿)』


 後奈良帝第二皇女。そして今は『四州近衛家嫡流当主夫人』

 私(長慶)の正室である。(まあ、まだ白いままだけど)

 私(長慶)は彼女の元へと向かうと、声をかけた。


「ここにいたんだね」


 聞き慣れた声に『はるちゃん(永寿)』が振り返る。

 まだ十四歳。幼さが残っている。

 だが都育ち特有の落ち着きがあった。


「皆が忙しそうだったので」


 少し微笑む。


「邪魔にならぬ場所に」


 私(長慶)は隣に腰を下ろした。

 しばらく沈黙。庭では鶯が鳴いている。


「讃岐へ行かれるのですね」

「はい」

「大勢で」

「はい」


『はるちゃん』は小さく笑う。


「城中の者が皆驚いております」


 無理もない。総勢二百人を超える。

 国人嫡子。

 技術者。

 職人。

 学者。

 僧侶。


 もちろん、軍勢ではない。しかも軍勢以上に大掛かりだ。


「京では聞いたことがありません」

「私(長慶)もです」


 思わず答える。

 確かに前世でも聞いたことはない。戦国大名が後継者教育のために、技術者ごと引き連れて他国を視察するなど。

 けれど『はるちゃん』はそれ以上追及しない。

 彼女はるちゃんはもう知っている。

 夫(長慶)が少し変わっている(『稀人』である)ことを。

 そして、父である主上(後奈良帝)がそれを理解した上で自分を送り出していることも。

 その時、私(長慶)は、初めて主上と出会った時のことを思い出していた。

 近衛邸での元服。その後。初めて御所へ参内した日。

 それが主上(後奈良帝)との最初の対面だった。

 そして、その後の正式な拝謁。御簾の向こう。静かな声。


『其方が稀人か』


 その言葉を今でも覚えている。


『海雲より話は聞いておる』

『無理をするな』

『国を背負おうとするな』

『出来ることだけやれ』


 帝らしくない言葉だった。少なくとも前世の歴史書には載っていない。

 けれど、今なら分かる。

 あれは、天皇ではなく、一人の大人としての言葉だった。


「おもう様は」


 『はるちゃん』が静かに言う。


「よし様をとても心配しておりました」


 私(長慶)は苦笑する。


「そのようですね」

「今もです」

「でしょうね」


 二人とも少し笑う。


 主上(後奈良帝)は、『稀人(長慶)』を便利な道具とは思っていない。それだけは確かだった。

 だからこそ第二皇女である『はるちゃん』を降嫁させた。

 監視ではない、支えとして。そして、皇家と四州近衛家を結ぶために。

 庭を見ながら『はるちゃん』が言う。


「讃岐の方々は驚くでしょうね」

「何にですか?」

「錦の御旗です」


 私(長慶)は少し考えた。


「そうかもしれません」

「それだけではありません」


 首を振る『はるちゃん』


「四州近衛家にもです」

「?」

「京ではもう有名です」


 ?


「何がです?」


 少し楽しそうに『はるちゃん』は答えた。


「武家なのに公家」

「……」

「公家なのに武家」

「……」

「しかも阿波にいる」


 私(長慶)は額を押さえた。確かに説明しづらい。


 『近衛家猶子。皇女降嫁。四州近衛家創設』


 ところが… 中央ではなく阿波在住。公家ではなく武家統治。

 どこから見ても異質だった。


 『はるちゃん』が笑う。


「讃岐の方々もきっと困ると思います」

「何がです」

「どの作法で接するべきか」


 私(長慶)は吹き出した。


 確かに… 公家として拝礼するべきか。武家として挨拶するべきか。誰も前例を知らない。


 そして、その前例のない存在が、明日、錦の御旗と共に讃岐へ向かう、国人たちとの最初の対話のために。

 戦ではなく、制度と未来を語るために。


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