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回想16 なまえをよぶ声
こどもの食事として提供されていたものは、ほぼ水のような粥だった。
マリーはこどもへの給仕を自ら行った。匙を握ることもおぼつかないような体だった。
口元から食事を落として服を汚した際、こどもはひどく怯えた表情を見せていたが、マリーはそんなこどもを安心させるように微笑み、優しく汚れた部分を拭いた。
こどもの起きられる時間が長くなってくると、マリーの事を「てんしさま」と呼ぶようになった。
マリーは何度かよばれるうちに、くすくすと笑い始めた。
「ふふ。あのね。わたし、てんしではないのよ。あなたとおなじ、ひと、よ。」
こどもは目を見開いて丸くしていた。はくはくと口元が動いている。
「マリーって名前なの」
こどもの唇が震えた。声が出ない。 もう一度、息を吸う。
「ま、りー」
マリーは微笑む。
「そう。マリー。呼んでもらえてうれしいわ」
こどもはうつむく。 雫が、布団に吸い込まれていった。
なんども短く息を吸う。そうして、せきを切ったように声を上げ泣き始めた。
マリーはこどもをなにも言わずに抱きしめ、背中をさすっていた。
マリーダは二人のために、あたたかいはちみつ湯を用意するために静かに部屋を辞した。
扉の向こうで、なまえをよぶ声が、何度も聞こえた。




