回想11 わがまま令嬢とすてきなプレゼント
マリーとマリーダは城の裏手にある森の中で息をひそめている。
とある生き物を生捕りにするために罠をはった場所から離れた茂みで、かたずをのんで見守る。マリーのその表情は真剣そのものだった。マリーダはその顔を横目でちらりと確認し、手元にあるスリングショットを握り直す 。生き物が来た際に、生き物の足元に粘着弾を撃ち込むのはマリーダの役目だった。
お茶会を終えたマリーはかなり興奮気味に王妃様に「スカーレット様と友人になりたい」と報告をした。
スカーレットからもらったシコントカゲを得意げに王妃様に見せようとしたが、マリーダはひっそりとマリーの手元からシコントカゲを取り上げていた。王妃様は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。深呼吸ののちにバーミリオン公爵家との茶会をと提案してくれた。
そして、マリーは、食い気味にこう告げたのだ。
「ありがとうございます。母上!そうしたら私!スカーレット様にプレゼントを差し上げたいの!いいでしょう?とっっても素敵なプレゼントをいただいたのですもの!」
王妃様は鷹揚にして頷いたが、プレゼントとして出された名前を聞いたときには、その顔をひきつらせていた。だが、その案は誰にも否定されずに、通ることとなる。王妃様はスカーレットからのプレゼントに少し腹を据えかねているようだった。
そして、スカーレットとの茶会の日当日。
マリーはわくわくした面持ちでお茶会に参加していた。興味もないドレスアップも喜々として臨んでいた。荷台には大きな赤い箱が乗せられている。荷台を押す侍女の顔は無表情だった。
「今回はお招きいただき、ありがとうございます。このような場を設けていただき恐悦至極にございます」
「こちらこそきてくださいましてありがとうございます。ですが、今回は砕けた場です。そうかたくならずにくつろいでください 」
バーミリオン公爵はマリーの言葉に深々と頭を下げた。
「スカーレット様、前回は素敵なプレゼントをいただいたでしょう?私とってもうれしくて…。プレゼントを用意したの。受け取ってくださるかしら?」
マリーが満面の微笑みをうかべてスカーレットに問うた。
「はい。お心遣いありがとうございます。」
マリーはうなずくと、合図をおくった。侍女が荷台を押してくる。荷台の上の箱はときおり、ガタっガタタタっと揺れる。荷台の揺れでではなく、明らかに箱の中にあるものが蠢いていた。お茶会の空気がピンと張り詰める。箱はスカーレットの前に運ばれた。
「さあ!是非!あけてくださいな!」
「ありがとうございます……」
スカーレットの声は揺れていた。わずかに震える手でふたに触れる。小さくスッと息をつめたのを、きっとマリー以外の全員が耳にしていた。スカーレットは目をしっかりとあけ、蓋をどかした。
「っ!」
声にならない動揺がスカーレットを襲う。それを喜びととらえたマリーは、喜々としてプレゼントの紹介をしはじめた。
「クレナイサラマンダーですの!
夕日の光をうけたときにだけ、鱗がさえるような紅色に輝きますのよ。
瞳はずっと赤いのですって。スカーレット様の瞳と、同じ色。
ですから……あのプレゼントを贈ってくださったスカーレット様なら、きっとおよろこびくださると思いましたの」
箱の中には黒色に鈍く光る大型のトカゲがいた。高さのある箱をのぼれないのか、底をぐるぐると歩いている。ときおり、顔を上げては、赤い瑪瑙のような目をスカーレットに向ける。大きさは、乳離れをするかしないかほどの子供と同じくらいだった。公爵は辛うじて立っているのが精一杯という風であった。今後、この大きなトカゲと共に暮らすことになるのだ。スカーレットは表情を失っていたが、すぐに笑顔を作る。ひくひくと口の端が痙攣していた。
「とっても素敵なプレゼント、ありがとうございます。
スカーレットは、とてもうれしく思います 」
マリーダの胸にはスカーレットへの同情が宿る。公爵は静かに遠くを見ていた。




