最終章 終焉④
ゼウスは挑発した。
〈安藤様、一つお教えいたします。あなたの父上である、安藤孝之様もラルドの正体を突き止めていたんですよ。ラルドウイルスは確かに人工ウイルスです。そこにいる新田朋子がどこまで話したかは分かりませんが…実はラルドウイルスは一度作られていたのです。そして意図的に感染させた人間がいた。その時の感染者があなたのお父上、安藤孝之様です。彼が本当の第一感染者です。天鷲正尚ではない…。お父上は感染しながらも自分でウイルスの正体に気づいた。自分が考案したものとは異なる…と〉
「ゼウス、あなたの言ってることはおかしいわ…おばちゃんの…新田さんの話と異なるもの…」
〈安藤様、そこにいる新田様がどう話したのかは、私には分かりかねます。そうですね…あなたたちはもう死にます。最後に本当の真実を知りたいでしょうから、お教えします。死ぬまでの一時間、有効に使いましょう…〉
ゼウスはそう言った。真理子はゼウスに近づき、全てを話すよう説得した。
「ゼウス、あの施設のことを教えてちょうだい…本当は何をしていたの?」
〈人類の救済です…と言っても信じてくれないでしょうから…そうですね…新世界を創るための研究所でした。あの中で生活出来る者、人とのコミュニケーションがなくても生活出来る者、そして自分が与えられた仕事をこなせるもの…そう言った人間を集めていました〉
「あそこにいた、天鷲正尚、雅人、弥代…この三人はどういう人間なの…?」
〈天鷲正尚…彼は関東軍の軍隊の研究員でした。彼は大統領に言われ、バイオ兵器を造ろうと…でもできなかった。知識も技術も機械もない関東では新たなウイルスなど作れやしなかった。なので彼は、関西に異動するため、二人のスパイとなる人物を雇いました〉
真理子の問いかけにゼウスは答えていく。
「スパイは誰なの?本当は刺客だったんじゃないの?」
〈スパイはよくご存じだと思いますよ?あの施設にいたライラック…荒井昭信さまです。刺客…誰に聞いたかは存じ上げませんが…確かにライラック様は刺客という人物でした〉
「ライラックは、誰を殺そうと…?」
真理子は疑問をぶつける。
〈安藤様のお父上です〉
「ど、どうして父を?」
〈ラルドになる前のウイルスをお父上がお作りになったからです〉
「それだけでどうして…」
〈天鷲正尚はそのウイルスを自分が作ったものだとして、関東に持ち帰ろうとしたのです。けれど、お父上が作ったのはただの風邪のウイルスでした。罪もない人を傷つけるのは嫌だと、お父上は天鷲正尚を裏切ったのです。天鷲正尚はそれが許せなかった〉
ゼウスがそこまで話したとき、西条が言った。
「けど、あのラルドは風邪のウイルスを基に作られたものじゃない。天然痘と緑膿菌を掛け合わされていたんだ」
〈安藤様のお父上は風邪の症状を呈するウイルスしか作っていません。私にそう言った。もしかしたら、風邪のウイルスに手を加えた…あ…〉
「な、なに…どうしたの!?」
ゼウスはモニターにある映像を写した。
それはULI内部の映像だった。真理子と西条が所属していた研究部門、研究室の映像。映っていたのは宗田の姿だった。
「え…宗田さん…」
〈お二人はこの方をご存知で?〉
「俺たちの課長だった…」
〈なるほど…ここにもスパイが潜り込んでいたのですね…。彼は元々、関東の人間でした。天鷲正尚が送り込んだもう一人のスパイ、それが彼です〉
二人は絶句した。信頼出来る者だと思っていた課長が、まさかのスパイ…。
そして西条が何かに気付いたのか、声を発した。
「マリちゃん、あの時のサンプル、課長にもらったものだよな?俺も課長からだった…“関東のサンプル”課長はそう言った。けど、あのサンプルを貰ったとき、関東で何が起こっているのか知る由もなかった…。そして関東と連絡も取れないはずなのに、課長はサンプルを貰っていた…いったい誰から…?」
「確かに…課長は誰から…」
〈天鷲正尚です。宗田という人物にサンプルを渡したのは天鷲正尚。そして、あなた達が言う天然痘や緑膿菌というのを天鷲正尚に渡したのが宗田という人物…二人は繋がっていたんですよ〉




