最終章 終焉③
「新田君…もう日本は終わりだ…プロメテウス計画が実行された…。今、彼に頼んで関東の軍にアクセスしてもらった…爆弾がこっちに向かってる…もう、誰にも止められない…さっきの爆音はあれのせいなんだ…」
大道寺はそう言ってモニターを指差した。
そのモニター見えたものは、二つの大きな物体だった。
「あ、あれって…」
「奥の物体はウイルスを積んだ爆弾、手前のはオゾンを含んだ新型爆弾です」
「ウイルスとオゾン…一体何が起ころうとしてるんですか!?」
「…これがプロメテウス計画なんだな…」
西条の言葉に大道寺は頷く。
「ゼウスがプロメテウス計画を実行したのね…」
朋子がそう言った。
「プロメテウス計画を止めるには、ゼウスにアクセスするしかない…。今回のすべての事態を引き起こしたのはゼウスという人工知能だもの…」
「そんな…この事態を招いたのは人工知能だなんて…。機械じゃ罰することも出来ない…」
「マリちゃん、ゼウスはあの二つの爆弾を地球に落とそうとしてる。それを阻止してほしいの…プロメテウス計画だけは阻止しないと。プロメテウス計画の“すべての計画を生き延びたものが新世界の新人類となる”なんて、あんなの嘘よ。爆弾が落とされれば人類は消滅。ただし、地球は真っ新になる。人類がいなくなったあとの地球には人工知能たちが蔓延るのよ。二人なら分かるでしょう?ウイルスとオゾンと言えば…。何とかしてここからゼウスにアクセスできない?」
困惑の表情を浮かべている真理子をよそに、西条が静かに話し始めた。
「オゾンは地球の紫外線の量を調整しているだけでなく、殺菌やウイルスの不活化、有機物の除去に使われる。ただし、急性の中毒症状も起きる。目や呼吸器が侵され、高濃度になると呼吸困難や麻痺、昏睡状態になり、放置しておけば死亡する。つまり、ウイルス爆弾を投下し、時間差でオゾン爆弾を投下する。ラルドウイルスで死ななくても、オゾン爆弾によって確実に死に至る。…人間は…。マリちゃん…」
真理子は西条にそう言われ、朋子を見た。
朋子は静かに頷く。それを確実に止めなければ、人類は消滅…。
真理子はキーボードに手を置いた。モニターを確認し、手元の機械を確認する。深く短く息を吐きだすと、モニターに画面を立ち上げた。ハッキングプログラムの画面だ。
「二つの爆弾の正確な位置を割り出します。爆弾には恐らくGPSが搭載されているはず。そうじゃないと、確実に日本には落とせませんから…」
キーボードをたたき、プログラムを組んでいく。見たことのないスピードで英語や数字が並んでいく。真理子の目はモニターとパソコン画面を交互に行き交っていた。
「この二つの爆弾にアクセスするには、コードが必要…。コードは…コードが分からない…」
「あいつなら…ゼウスなら知ってるはずだ…」
西条はそう言った。
「でも、ゼウスには聞けない…」
「聞けるさ…俺がゼウスを連れてきてる」
西条はそう言うと、自分のポケットから一枚のメモリカードを出した。
「これ使え。ゼウスのメモリーカードだ」
「え、これ…」
「研究所の中の…俺の部屋にあったゼウスのだ。あそこを出る前に破壊して取り出してやった。あとで壊してやろうと思ってな。でも、置いといてよかった。そのメモリーカードはゼウスの脳だからな…」
真理子は西条からメモリーカードを受け取ると、目の前にある装置で読み込んだ。
〈私は人工知能・ゼウスです。コンピューターが異なるので、ただいまよりドッキングを開始致します〉
そしてしばらくして、ゼウスが始動した。
目の前にホログラムが発現し、ゼウスが現れる。
「ゼウス、私のこと覚えてる?アネモネよ…知ってるわよね?」
〈はい。もちろん覚えております。アネモネ様…いえ、安藤真理子さま〉
「あの爆弾を止める。解除コードを教えなさい…」
〈申し訳ありませんが、お教えできません。それに、爆弾を止めるのは不可能です。あの爆弾には私の分身が搭載されております。不正にアクセスされた場合、時間を待つことなく、自動で爆発するようセットされています〉
もはや、人類が助かる道は無いのか…。その場にいた全員は肩を落とした。
「ゼウス、私はあなたを破壊できるの。あなたは機械で私は人間。あなたは存在していないけど、私はここにいるの。人間が機械に負けるわけがない。さっさと教えなさいっ!」
〈…仕方ありませんね。そんなに死にたいですか…。分かりました。お教えいたします。コードは“666ⅩⅩⅩ”です。では、健闘を祈っています…〉
ゼウスはそう告げると、姿を消した。真理子はゼウスのことなど放っておき、コードを打ち込む。
必死につりそうになっている指を動かし、キーボードをたたく。
そしてEnterキーを押すと、モニター上の物体は点滅を始める。一つ、二つと点滅し、モニターマップ上にある物体の動きが止まった。
「止まった…あとはこれをどうするか…。総理、これどうしますか…?」
「…海だ。海に落とそう…」
「分かりました。…やります」
真理子は再び、キーボードを操作する。真理子がプログラムを組むたびに、物体の向きは少しずつ変わり、さっきと真逆を向いた。白い点線の先は海だ。 周りにいる人たちが安堵の表情を浮かべている中で、真理子と西条だけは腑に落ちない顔でモニターを見ている。
こんなに簡単にゼウスが解除コードを教えるなんて…それに簡単すぎる…
真理子がEnterキーを押した瞬間、物体は点滅し、再び針路を変えた。
「え…どうして…」
誰かが言った。
「ゼウスの言ってたことは本当だった。あれにはゼウスの分身がいるんだ…」
「じゃあ…」
「ああ。爆弾は自動で爆発する…もう止められない…」
その場にいた人は口々に落胆の言葉を発する。ため息が聞こえ、諦めの言葉が聞こえ、すすり泣きまでも聞こえてきた。それを見た真理子は、キーボードを操作し、何かプログラムを組み始めた。
「マリちゃん、何をするんだ?」
「あれにいてるゼウスの分身、不正にアクセスされたことが分かり、自分で針路を変えられるのなら、その針路を海に変えることも出来るかもしれない…説明してる時間はないのであとで…」
「安藤さん…もう諦めよう。人間が機械に勝つことは出来なかったと言うことだ。君はよくやってくれた…」
大道寺は諦めの表情で真理子を見た。真理子は首を横に振ると「まだ何かできることがあるかもしれない…」と答える。しかし、西条までもが暗いオーラを身にまとっていた。
「マリちゃん、もう諦めよう。爆弾はもう日本のすぐそばだ…」
そう言って真理子の視線をモニターへと向けた。さっきまでは遠くにいたのに今はもう、日本の近くまで来ていた。
「安藤さん、西条さん、お二人はラルドの正体を突き止め、薬を作った。そして今はこうして人類を、日本を救うために尽力してくれている。感謝してもしきれない。お二人と会えたことは本当に、心から喜ばしいことです。ここにいる人も同じです。日本を救うために私についてきてくれた。そして共に戦ってくれた。ありがとう…」
大道寺は深く頭を下げた。彼の言葉と行動で、もう無理なんだと誰もが諦めた。部屋は灰色の世界へと化した。
「西条さん…私…」
〈皆さま、諦めるようですね。やはり、止めることは不可能だったようだ。人類はここで終わりです。ついに来ましたね…人類の…いえ…世界の終焉が…〉
一言だけ…ゼウス、くそ腹立つ~(笑)




