第三章 完成⑥
朋子は研究施設を抜け出し、大道寺の元へ来ていた。
「総理、お話が…」
「新田君、ちょうど良かった。私も君に話があるんだ」
大道寺によって通されたのは、彼のオフィスだった。
「動き出したんだ…あの計画が」
「じゃあ、プロメテウスが…」
「残念ながら、そういうことだ。すでに動き始めてる。君はどうする?」
「私も動きます…。総理、許可を…」
大道寺は朋子に指示を出した。
「対プロメテウス、出動だ…」
「了解しました。あ、総理…ラルドに対する治療薬が出来たかもしれません。まだ、効果の確認中ですが、恐らく完成かと…」
「は…なんと。例の二人がか?さすが君が見込んだ二人だ。よくやった…」
朋子はそれだけを伝えると、議事堂を後にし、ある場所へ向かった。
議事堂から少し離れた場所にある、一見普通の企業。扉を開き、中へ入ると武装した男性数人が朋子を見る。
「お疲れ様です、新田さん」
「お疲れ様。ここは変わりない?」
「はい。それよりも、計画が始動したと…本当ですか?」
「ええ。総理から聞いた。間違いないわ。対プロメテウス、出動よ。準備は?」
数人の隊員たちはお互いを確認し「よしっ!」と声を揃えた。朋子は彼らを見回し「頼んだわよ」と声を掛ける。
「明日、作戦通り実行よ。私は先に研究所へ戻って準備を完成させる。時間は、朝食後から業務開始までの短い時間よ。行けるわね?」
「大丈夫です。では、我々は明朝よりそちらへ移動します。到着時刻は七時を予定。」
「分かった。作戦通りに頼むわね。じゃあ、私は戻るから」
「あ、新田さん!監視カメラの件は…」
「大丈夫!私に任せて…」
朋子は口早にそう告げると、急いで研究所へと戻った。
どれくらいぶりに自分の部屋に戻ってきたんだろう。睡眠らしい睡眠は長い間取ってなかった気がする。真理子はシャワーを浴び、ベッドに横になった。体から力が抜け、意識が遠のいていく。
夢を見た。こんな世界になる前の幸せで楽しい日々。休日には家族で過ごし、いろんな話をする。他愛もない普通の会話。それが一番楽しい。
「真理子~ちょっと手伝って~」
お母さんが私を呼ぶ声。
暗闇から抜けると自分の家にいた。辺りを見回す。庭だ。妹もいる。
今までのは全部夢だったのか…?
「お母さん…町は何ともないの?」
洗濯を干す母にそう問いかける。「何ともって?もしかして“これ”のこと?」と母がゆっくり振り返る。
「きゃぁぁぁぁ」
自分の叫び声で目が覚めた。こっちが夢だったんだ…。
「マリちゃん、大丈夫?」
声のするほうを見ると、朋子が立っている。
「おばちゃん…夢を見てたの。家族の夢…。庭でお母さんが洗濯を干してて、振り返ったら、ベクターで…いつになったら普通の生活に戻れるんだろう…」
「マリちゃん、協力してほしいことがあるの。あなたの腕を見込んでのお願いなんだけど…」
朋子は真理子に話した。
数時間後の朝、ある計画が動き出す。それを阻止するために、総理直々の精鋭部隊が出動する。部隊はこの研究施設に侵入し作戦を実行するから、その間、真理子に手伝ってほしいことがあると、何も隠さず全てを言った。
「おばちゃんは本当に私たちの味方で、この施設の敵なんだよね?信じていいよね?」
「もちろん。私は総理の命令で動いてる。あなたたちを傷つけるつもりはない。だから、手伝ってくれる?」
「…分かった。おばちゃんのその言葉、私信じる。…私は何をすればいいの?」
「私の合図で部隊が侵入することになってる。その間の監視カメラの映像をハッキングして、いつもと変わりない施設に見せかけてほしいの。ULIのベクターから逃げるときみたいに…できる?」
「うん…できる!」
「この地下にはコントロールルームがあるでしょ?そこには監視カメラの映像が記録されてる。そこをハッキングしてほしい。そして、計画が上手く行くようにここから助けて欲しい」
真理子は朋子が言っていることを理解し、承諾した。
「これ、インカム渡しておくから…。七時になったら部隊が表に到着する。七時前にはインカムを着けておいてね。周波数はセットしてあるから」
朋子はそう言うと、真理子を強く抱きしめた。
「大丈夫…もうすぐ終わるから…」
彼女はそう言うと、部屋を出て行った。
一人になった真理子は渡されたインカムを手に、それをじっと見つめた。
そろそろある計画が遂行されます…
にしても、何で計画名とか部隊の名前とか、全部ギリシャ神話にしたんでしょうかね~
私が神話が好きだと言うこともあるけど…何よりもカッコいいのが一番の理由ですね。




