第三章 完成③
イクソラはバンドをかざし、ロックを解除した。
電子音と共に扉が開く。二人は顔を見合わせ、頷いた。少しずつ女性に近寄り、声を掛ける。
「お休みのところすみません。聞こえますか?」
女性はゆっくり目を開け、真理子をじっと見る。
「だれ…?」
「ここの職員で、研究員の安藤です。お薬の投与をさせてください」
「薬なんかないんでしょう…?」
「あ、これです。この液体が薬です。どんな副作用が出るかは、正直に言うと分かりません。ですが、効果はあると思うんです。投与させていただいても構わないですか?」
「別にいいよ…。どうせ何かあっても私はもう一人だし…」
女性が承諾したのを確認し、西条は小さなバックをベッドの上に置いた。
チャックを開けると、採血をするための器具が詰まっている。
「今から採血をして、薬を打ちます。その後は六〇〇mlほど、血液を採らせてもらいますね。しばらくは俺たちがここにいますので、何かあったら、すぐに言ってください」
「…はい」
「じゃあ、始めますね。マリちゃん、記録して…」
真理子の準備が整い、目で合図する。西条は、女性の腕をとり肘枕の上にそっと置く。きちんと食事が摂れていないのか、腕は細かった。
手袋をはめ、女性の腕を駆血帯で縛る。アルコール綿で丁寧に消毒し、血管を浮き出させる。右手に翼状針を付けたシリンジを持ち、角度を確認しながら針を刺していく。チューブの中を流れるように、赤い血液が引かれる。西条は細心の注意を払いながら、抜いた血液を真空採血管の中に移す。その様子を真理子が記録していく。採血を終えた後は、六〇〇mlの血液を血液バックに落としていく。その間、二人は女性と話をしていた。
「よくあの中を生き延びましたね」
「昔から逃げ足だけは速かったの…」
「それでも、よく…。一人だったんですか?」
「初めはね…。でも途中で男性二人が私を見つけてくれて…一緒に…」
「そうでしたか…」
逃げている最中のこと、怪我したときの状況、小さいころに病気になったことがあるのか、旅行歴はあるのか…。西条は会話の中から、なぜラルドに対する抵抗があるのかを探っていた。
そして、時間をかけて作った治療薬を女性に投与する。
黄色い液体がチューブを通り、血管の中へと入っていく。
「気分は悪くないですか…?」
「大丈夫です…」
二人は女性の状態に気を配る。血圧や脈拍を測り、体温も確認する。今のところ異常はない。女性は「これで治りますか?」と尋ねた。
「絶対に治るとは言い切れません。ですが、効果はあると思います」
「そうですか…。なら良かった」
西条の言葉に安心したのか、女性は眠った。それを確認し、二人は部屋から出た。
「薬の効果が現れ始めるのは、最低でも一二時間後です。なので、明日にもう一度、採血をしますから」
「それで、その後は?」
「採血をして、ウイルスが減少または死滅していたら、薬は成功です。治療薬として使えます」
「そうか、分かった。君たちも一度自室に戻りなさい。食事は届けさせよう」
西条は「どうも」と頷き、真理子を連れて“ラボ”から出て行った。
その時真理子は“ラボ”の中にいる男性一人に気が付いた。彼もまたベクターだった…。




