第三章 エンデミック④
ライラックの言葉に返事をする余裕もなく、二人は唖然と立ち尽くした。まさか、ここで感染者が出るなんて…一体どうして…。
「す、すみません…」
イベリスが青い顔をしながら、ルピナスの元へ歩いてきた。
「すみません…多分、俺のせいです…。俺が、現場で迅速検査をした際に、検査が下手で見落として…それで…」
「あなたのせいだとは言ってない。この事態の原因は何か分かってないし、私たちだってもしかしたら、すでに感染してるのかも。それが発症してないだけってことも考えられるでしょう?とりあえず、あなたも用意して。すぐに向かうわよ」
ルピナスは彼を励まし、用意を進めていった。
施設内に放送がかかる。ライラックの声だ。
『ライラックだ。今、業務を進めている者は直ちに手を止めるんだ。各自、自室に急行、待機せよ。調達班に関しては、食堂から一歩も出るな。全員、扉を閉めてロックを掛けろ。急げ!』
「…おい、何があったんだ?」
「待って、どうなってるの?」
「これ、訓練とかじゃないよな!?」
ライラックの放送が途切れた後、たちまち施設内は騒がしくなった。廊下を走り、各自班室へと戻っていく。イクソラは何か異変を察知し、ライラックに連絡した。
「隊長、イクソラです。一体何が…?」
『恐らく感染者だ。医療班で出た。原因はリコリスかもしれない…』
「リコリスですか…?…彼女は確か、三人の生存者の内、女性の検査・治療に携わった者です!そして女性は今…」
『…隔離室か…。感染はしているけど、発症していないとかいう…』
「そうです!それが原因だとすると、その時一緒にいた男性に二名も危険です!」
『分かった。お前はそこで待機だ。また連絡する』
イクソラは最悪の場合を想定していた。この施設内に感染者が脱走したら…。イクソラは頭を振り、その考えを吹き飛ばした。
「あの…何があったんですか?もしかして、感染者…」
「君たちは何も考えるな。何もせず、ここにいろ」
ライラックは制圧班・保護班に連絡を出し、医療班の班室へと向かわせた。カッシアがバンドをかざし、扉を開ける。
「うわぁぁぁぁぁ」
叫び声だ。部屋の奥から聞こえてくる。カッシアは部屋の隅に座り込む、コキア、ネモフィラを見つけ、保護班に検査をするよう指示を出した。
そしてクローブを見つけるよう、制圧班のメンバーに指示を出し、部屋を隈なく捜索する。カッシアは部屋の奥にあるベッドに気づいた。カーテンを開けると、全身真っ赤な水膨れに覆われ、叫び声を上げている女性の姿が確認できる。叫び声を上げているのはリコリスだった。
「デュランタ!何してるんだ!すぐに離れろ!」
「だ、だめです…治療しないと。もうすぐ検体も取り終わるんです…そして、これを分析してもらわないと…」
「こんな時に何言ってるんだ!さっさと離れるんだ!」
デュランタが震える手で、リコリスの腕に針を刺す。リコリスが暴れると、彼は持っていた針を彼女の体にある水膨れに刺した。その瞬間、その皮は破れ中から緑の液体が流れ出る。
「カッシア!あの二人は、感染してる…」
ルピナスがそう言って容器を自分の目の前に持ってきた。彼女が手に持っているポリスピッツ容器は、全てが鮮やかな青色に変化していた。それは感染していることを示していた。
「デュランタとクローブも検査してくれ…」
「…了解…」
「隊長、俺です。医療班・コキア、ネモフィラは感染しています。リコリスも間違いなく感染者です…あとの二人は今検査を…」
ルピナスが二人の迅速検査を終え、検体容器を軽く振る。液体は瞬く間に青色に変化した。
「…二人とも青色に…。感染してます。隊長、医療班は全滅だ…」
『分かった…。少し、待ってくれ…考えさせてくれ…』
ライラックは頭の中で最善策を考える。
患者は隔離、しかしその場に連れて行けるのはイクソラと自分だけ…。
医療班全員が感染者…いつ、全員が変異を起こすか分からない…どうする、考えろ…。
『カッシア、ルピナス、聞こえるか?』
「聞こえます…」
『今から、私が言う通りにするんだ…』
エンデミックとは、地域流行のことを指し、特定の人や特定の地域においてポツポツと感染者が見られる状態のことを指します。
患者数も比較的少なく、拡大スピードも比較的遅い状態です。
ここでのエンデミックは「施設内を一種の地域」として扱っているため、エンデミックと記しています。




