第三章 エンデミック②
「マリちゃん、そこにあるα試薬を取ってくれないか?」
「あ、はい…どうぞ」
「ありがとう」
「さ、西条さん…それどうするんですか?」
「基になってるのは天然痘だろ?それに緑膿菌のDNAを組み込んでる。だから、治療薬もワクチンも作れない。だったら、このウイルスの型がどの試薬で崩れるか確認するんだ。そして…」
「型を崩した試薬を元に治療薬やワクチンを作る…と言うことですね」
西条はいつものように微笑んだ。
「分かりました。私が西条さんの助手をします」
「頼むよ。優秀な助手は大歓迎だ」
二人は揃って座り、顕微鏡や試薬、器具を使用し分析を再開する。その様子を黙って見ているイクソラ。別の部屋では、班室に取り付けられた監視カメラを通して雅子が部屋の様子を見ていた。
「マリちゃん、西条くん、あなたたちは最高の研究者ね…。あなたたちなら、この腐った計画を阻止してくれるかもしれない…」
雅子は手元のタブレットを操作し、ある画面を出した。そしてファイルを選択し、ロックを外す。【パンドラ計画】【プロメテウス計画】画面上には二つのファイルが存在した。雅子はパンドラ計画と書かれたファイルを開く。
「人類減衰計画、通称パンドラ計画…。ほんとにバカげた計画ね…。よくこんなバカげた計画を立てたわ…」
ICチップと連動…ラルド…天然痘ウイルス…DNA…新人類…そんな言葉が羅列していた。
「この計画は止められなかった…。せめてプロメテウスだけは阻止しないと…」
雅子はタブレットを見ながら、そう呟いた。
一方、ある場所では大掛かりな会議が開かれていた。その場所は“日本国東西議事堂”だった。
『総理、計画は実行されたようですな…』
「君の方もだろ…?戸狩くん…」
大きく丸いテーブルの前方には、巨大なホログラムがあった。そこに映っているのは、関東統合政権の大統領・戸狩 孝蔵だった。
『確かに、うちも同じですね…ですが、そちらは大道寺総理の命で動いているスパイがいると耳にしましたが…。スパイがいて情報は容易に手に入れられるはずなのに、計画の阻止は失敗…これは笑うしかないですね…』
「戸狩大統領…言葉を慎んだほうが良いのでは?あなたもいつ感染することか…。うちには切り札がありますからね…。そっちには無いでしょうから…残念です」
関東の大統領と関西の総理大臣、双方の攻防はどちらも一歩も引かなかった。
「では、会議を開きましょうか…。そちらからどうぞ、大統領」
『…関東はほぼ全滅。生存者数は激減。研究施設にて治療薬、ワクチンは未製造およびラルドウイルスの特定には至っていない。以上…』
「関西の生存者は、九百人以上。感染者の封じ込め、生存者の救出は上手く行ってます。研究施設にて、ラルドウイルスの特定に成功したものが二名。ワクチン及び治療薬は目前かと。以上です」
大道寺は少し誇らしげに前を見る。映像の中で戸狩が悔しそうに彼を見る。
「では、定例報告は終わりましょうか。では、来週また…」
ホログラムは閉じられ、映像は終わった。
「総理…ウイルスの特定に成功したって…一体だれが?」
「これは機密だから詳しくは言えないが…ある研究所に所属していた、男性と女性の二名だそうだ。先ほど、新田から報告を受けた」
「新田さんが言うなら、間違いないですね…。ではやはり、新人類に選ばれるのは…」
大道寺は自分の顎を触り、口をつぐんだ。
これ以上は話せない。顔がそう語っていた。




