第二章 確証⑥
真理子は首を横に振った。聞いたことのない病原体だった。
「この間、俺はイクソラの後をつけたんだ。気づいてただろ?」
「はい。だから私はとっさに嘘を…」
「後をつけたら、パソコンやモニターがたくさん並ぶ部屋に着いたんだ。そしたら、ライラックと中原さんがいた…」
「え…おばちゃんが!?どうして…」
「分からない…けど、俺たちが血液型と病原体があることを突き止めただろ?それをイクソラは報告してた。“突き止められてしまいました”って」
「と言うことは、病原体が含まれていることを知っていた…?それにおばちゃんも関与してるってこと?」
西条はあの時聞いたことを全て真理子に話した。“ラルド”や“ベクター”という言葉、雅子たちの会話、全てを。
「“ラルド”って言うのは何か分かりませんが、“ベクター”ってことはもしかして…」
「ああ。“ベクター”とはつまり“Vector(媒介者)”のことだと思う。もしかしたら、感染者のことをベクターと呼んでるのかもしれない」
“ベクター”
それは病原体を、ある宿主からほかの宿主へ運ぶことで感染症を媒介する生物のこと。媒介は物理的なものと生物学的な媒介の二つに分けられる。物理学的媒介では、その体内で病原体は増殖せず、媒介者は接触や吸血により別の宿主へ病原体を移動させるだけである。一方、生物学的媒介は体内で病原体が増殖したり、生活環の一部を営んだ後、他の宿主へ運ばれること。
「それに、二回目の分析の時、覚えてるか?」
「キャリアの…」
「そうだ。つまり、この施設のどこかに最低でも三人の人間が隔離か、監禁かをされているはずなんだ。AB型の人間、O型の人間、そしてキャリアの人間だ。O型の人間には“Ⅹ”ある。つまり、感染者だ」
「この施設に感染者…」
「ま…アネモネ、俺と一緒にこの施設の実態を暴かないか?」
真理子は考えた。自分に施設の秘密を暴くことなんてできるのか。もし上手く行かなかったら…。恐る恐る西条の顔を見る。真っすぐに自分を見る西条と目が合う。その瞬間、真理子の気持ちは固まった。
「分かりました。やります。この施設は一体何なのか、ここで何が行われているのか、実態を暴きましょう…」
「ありがとう。正直、一人でやるにはきついと思ってたんだ。女性のフロアには行けないし、ここの人間は信用できないし」
真理子は微笑んだ。自分も西条が一緒なら安心だ。そう思った。その夜、真理子は久しぶりにぐっすり眠った。ここに来て初めて、安心した気持ちになったような気がした。
翌朝、ゼウスの知らせで目を覚ました真理子。服を着替え、洗面室へ向かう。顔を洗い、最低限のメイクを施す。朝からハイテンションな羽衣はいない。それが少しだけ寂しい…。しかし、そうも言ってられない。私には解析しなければならないものがある。それに実態を暴かないと…。
これからどうしていこうか…そう考えていた時、食事の放送が流れた。
真理子は一人、食堂へと向かう。
「アネモネ~!」
声の主を探すと、羽衣だった。真理子は笑顔になり羽衣に駆け寄る。
「おはよう、カンナ。よく眠れた?」
「それが、部屋の人と合わなくてさ…。こんなことになるなら、異動したいなんて言わなきゃ良かったよ…」
落ち込む羽衣を見て、真理子は少し切なくなる。真理子は空いている席を見つけ、羽衣と座る。そして食事の間、羽衣の話をずっと聞いていた。
「あ~喋った~。アネモネのおかげでちょっと楽になったよ…。部屋の人たち、あんまり喋らないタイプみたいでさ。なんていうか…暗いんだよね」
「私も、今は部屋に帰ると誰とも話さないよ。一人だからさ…。でも、こうやってここでカンナと話せて良かった。この後の仕事、お互い頑張ろうね…」
二人はそれからも食事を続け、昨日のこと、これからのことを話していた。
もちろん、西条とのことは秘密に…。
そろそろ“Ⅹ”の正体が暴かれます。
先に前もって説明しますが、ここに出てくるウイルスは存在しませんし、本当に組み合わせられるとも思いません。あくまで、私の妄想で完全なフィクションです。




