第二章 確証⑤
警告音が三回鳴った。
それと共に大量の消毒剤がラボの中に降り注ぐ。白い消毒剤が室内にこびり付く。その様子を真理子たちはじっと黙って眺めていた。
しばらくすると西条が扉を開ける。机の上にあったありとあらゆるものが消毒剤に塗れていた。
「…検体も全部アウトか…」
西条が消毒剤により固まってしまった血液の検体を見下ろす。真理子は部屋の中を片付け始めた。それに従い、羽衣たちも片付け始めた。
「俺たちもシャワーを浴びたほうがいいな」
一通り綺麗になったところで西条が呟いた。ふと隣を見ると、ペンタスが俯いている。
「どうかしましたか?」
「え、いや…ちょっと怖くなってな…。今までこんな仕事に就いたことなんてないのに、ここへ配属されてさ…案外、俺にも出来るのかもと思ったけど…。コリウスがあんなことになって、正直怖くなった…」
静けさが広がる部屋の扉が開いた。入ってきたのはイクソラだ。
「彼は医務室に運んだあと、一通りの検査と診察を行った。結果が出るまでは、隔離室に入ってもらうことに。それと、今回のことは隊長に報告することになってる。もうすぐ、ここへ隊長がくるから少し待つように…」
イクソラはそう言って扉の前に立った。しばらくすると、ライラックが部屋へと入ってくる。
「今回の件、イクソラから聞いた。研究や分析に危険はつきものだ…と言いたいところだが、正直言うと、この施設内で事故が起きたのには驚いた。それも経験者がいる班でだ。そこで、一つ君たちに選択肢をやろう。よく考えて答えてくれ。選択肢は三つだ。一つ、このまま解析班に所属し分析を続ける。二つ、班の異動を願い出て、解析班から外れる。三つ、この施設から出る。さあどれがいい?」
ライラックは三つの選択肢を提示した。いち早く答えたのは、ペンタスだった。
「俺は…この班からの異動を願い出ます。研究職とか俺には向いてないし、正直言うと怖いです」
「わ、私も班の異動をしたい…です…」
そう言ったのは羽衣だった。真理子は驚き羽衣の顔を見る。「ごめん、でも私には無理だよ。向いてない…」と顔を背ける。
「カクタスはどうしたいんだ?」
「私も…異動します。カンナさんたちと同じく、私にこの仕事は無理です。何の知識もないし、ついていけない…。正直、アネモネさんとブルースターさんにはついて行けません…」
「承知した。アネモネとブルースターはこのまま残るのか?」
少しの沈黙の後、西条が言った。
「もちろんです。俺はこのまま残ります。何が何でもこの事態を突き止めなければいけませんから」
「私も残ります」
全員の意思を聞いた後、ライラックから今後の説明があった。
「今日は解析班の仕事は中止となる。明日以降については後程説明する。今日は各自、部屋に戻りなさい」
ライラックはイクソラを連れて、部屋を出た。静かになった部屋に、ただ不穏な空気が流れている。誰も一言も話さず、ただそこに立っていた。その沈黙を破ったのは真理子だった。
「少しの間だったけど、一緒に仕事が出来て良かった」
「真理子…」
「アネモネだってば。カンナ、次はどの班に配属されるかは分からないけど、食事の時は話しよう?それくらいしか、カンナと話せる時間ないからさ」
羽衣は力強く頷いた。そしてそれぞれが静かに、一言も話さず自室へと戻っていった。
夕食を終え、部屋で休んでいた時、扉が開いた。入ってきたのは、フリージアとホップだ。
「カンナさん、カクタスさんは前へ」
名前を呼ばれ、二人が前に出る。
「隊長から聞きました。特例につき、班の異動を命じます。カンナさんは、解析班から調達班へ。カクタスさんは解析班から調査班への異動となりました。荷物をまとめてください。今から、部屋の移動を行います。また、バンドの色も変わりますので、外してください」
フリージアは淡々と説明した。声に抑揚は無く、まるで機械のようだ。
二人は腕からバンドを外し、ホップに渡した。すると新しい色、黄色と紫のバンドがそれぞれに渡される。それを腕に着けると、荷物をまとめ部屋を出て行った。二人が振り返ることはなかった。
「広くなったな…一人で使うには広すぎるよ…」
真理子は二人がいなくなり、広くなった部屋を歩き始める。少しだけ寂しく思っていた。
ここへ来て、自分は安全な場所にいる。けれど未だ家族と連絡すら取れていない。
部屋を出て、真理子は食堂へと向かった。
「アネモネ!」
誰かに呼ばれ、辺りを見回した。西条が奥の席に座っている。
「ブルースターさん…」
「どうした?元気ないな…」
「部屋、一人になったから少し寂しくて…。急に広くなったから。二人は調達班と調査班に異動になった…」
「そうか…。俺んとこも異動の知らせが来たよ。ペンタスさんは制圧班に異動だってさ。今は俺も部屋で一人だ…。まあ、こっちはむさ苦しくなくて快適だけどな」
そう明るく振る舞う西条の顔も、どこかほんの少しだけ寂しそうに見えた。
「あ、ここからは小声で…。あの“Ⅹ”だけどな、前に意図的に作られたものなんじゃないかって言ったの覚えてるか?」
「ええ、覚えてます」
「あの時はまだ可能性の段階だったんだ。けど、それが確信に変わるかもしれない…」
「どういうことですか!?」
「ラルドって聞いたことあるか…?」
一人二人と班員が減っていきましたね…
実はここだけの話、メンバーを減らしたのには二つの理由があるんです。
一つは、何人もの人間を設定通りに動かすのが面倒になったからで…
もう一つはうら…ゴホン…秘密です




