第二章 確証②
カッシアは操縦桿を力強く握ると、ヘリのローターがスピードを上げて回転するのを待った。「よし…」と小さく言うと、操縦桿を手前に引く。すると、機体はゆっくりと上昇し始めた。地面が離れていきヘリは無事に空へと飛び立った。
「こちら、ルピナス。隊長、聞こえますか?」
『ああ、聞こえる。今からナビを開始する』
「了解です」
『場所は北緯、三四度・四一分・一一秒、東経、一三五度・三一分・一二秒』
「了解。すぐに向かいます。到着後、また連絡します」
カッシアは、ルピナスが復唱する緯度を打ち込んでいく。目的地が画面に表示される。場所は旧大阪府庁を示していた。ヘリは目的地に向かって、青く広い空を飛んでいく。
黒煙が残る市街地。ヘリは高度を保ち、空から生存者を探す。
「…見えた。あそこだ!あのスーパーのところ」
「あ、ほんとだ。一〇時の方角に生存者が二人います。…もう一人は?」
「分からない。とりあえず、呼びかけよう」
カッシアは高度を下げた。タイミングを待って、ルピナスは地上にいる生存者に呼びかける。
「スーパー前にいる二人、聞こえますか?救助に来ました!すぐ先にある広場へ走ってください。そこで救助します!」
生存者は空にいるルピナスたちに気づき、手を振る。ここにいるぞと、声を上げながら助けを求める。隊長の報告では生存者は三人だったはず…一人いないのはどうして…?ルピナスはもう一人の生存者を探す。しかし、どこにも見当たらない。もしかして…自分たちが来るまでに一人やられてしまったのか…?そんな考えが頭を過る。
ヘリはゆっくりと高度を下げながら、広場へと着陸した。シミュレーション通りに隊員たちは動く。制圧班は生存者と隊員を囲むように立ち並び、辺りを警戒していた。
「隊長、現場到着しました。現在、周りに感染者はいません。また、生存者ですが二名しか確認できません。そちらから見えますか?」
『了解した。こちらからも生存者二名のみ確認。残り一名は未確認』
「了解です。また離陸時に連絡を」
カッシアがライラックへの通信を断ったあと、ルピナスは生存者の前に歩いていき、言葉を掛けた。
「よく、ご無事でした。これから、皆さんの感染の有無を確認させていただきます。口を開けてください」
保護班は簡易迅速検査薬をバッグから取り出し、生存者の口内に綿棒を擦り付け唾液を採取した。その綿棒を滅菌PPチューブと呼ばれる、ポリプロピレン製の試験管に入れる。
「感染しているなら青に、感染していなければ透明のまま…」
ルピナスは容器を軽く振り、反応を待つ。その間、僅か一分ほどだがその場にいる全員には長く感じられる。結果は二人とも透明のまま。
「二人とも感染してません!すぐ、ヘリに乗ってください。あ…もう一人は?」
「…ケガをして…スーパーの中にいるんです。自分たちは助けを呼ぼうと外に出てきて…」
「あの子、ケガが酷くて動けなくて…」
「ケガですか…具合は?どこにいます?俺たちが行って連れてきますから」
生存者の一人が「足を折って、見えてるんです…骨が。今は多分、レジ横にいると…」と答えた。カッシアはそれを聞くと、制圧班のドラセナ、サイネリアと保護班の一人、イベリスを連れてスーパーの中へと入っていった。
「私たちは先にヘリに乗っていましょう。彼らが戻ってきたらすぐに離陸します。さあ、早く乗って…」
ルピナスは全員を乗せると、ヘリの横に立ち、カッシアたち四人が戻ってくるのを待っていた。それから数分後、脇を抱えられた女性と共に四人が戻ってくる。ここへ連れてきたと言うことは、非感染者だと言うことだ。
「…良かった。全員無事なのね。早く帰りましょう」
「ああ。熱もないし、折れてるだけのようだ」
ドラセナとサイネリアに抱えられながら席に座らされた女性は、痛みの為か時々顔を顰めていた。ルピナスは「本当に感染してなかったのよね?色は変わらなかったのよね?」とイベリスに尋ねた。
「だ、大丈夫です。ちゃんと確認しました…。色は変わってません…」
そう彼は答えた。ルピナスは頷くと、肩を優しく叩いた。
「隊長、生存者三名確保しました。今から戻ります」
『了解。生存者三名の受け入れを整える。…気を付けてな』
ヘリは再び高度を上げ、空高くへと上がっていく。
「もう安全なんだよな…」
「…もう逃げなくていいんだ…」
生存者二人は、窓から地上を見下ろし、そう呟いた。自分たちも助けられたときは、この人たちと同じ思いだった。救助されたときのことを思い出しながら、隊員は生存者たち三名を見ていた。
そしてヘリは施設へ戻るため、青く澄みきった大空を生存者を乗せて飛んでいく。




