第二章 確証①
一方その頃、施設を出ていた雅子はある場所へ来ていた。かつて国会議事堂があった場所。左右対称、シンメトリーの建物で上から見下ろすとフクロウのように見えた建物だった。現在この場所は【日本国東西議事堂】と名称を変え、様々な事案について連日、審議や議論を重ねていた。
「総理に伝えて。新田が来たと」
「承知致しました。では、中でお待ちください、新田様…」
雅子は新田と名乗り、“総理”という人物に取次ぎを頼んだ。まるで、それが当たり前のように、堂々としている雅子。守衛に通された場所で雅子は“総理”を待っていた。
広いロビーを目の前に、すぐ右手にある通路。壁に同化し、外からじゃ部屋があることなど気づかないそこに、雅子はいた。扉が開き、一人の男性が秘書と共に入ってくる。男性は雅子の顔を確認すると、秘書を表に出した。
「新田君、久しぶりという感じだね…。どうだ調子は?」
「総理、お久しぶりです」
雅子が頭を下げた相手、それは今の日本、関西の総理大臣。関西統一内閣・総理大臣・大道寺 勝義だった。
「じゃあまず、いつも通りで頼むよ」
「承知致しました。ではまず、現状から報告いたします。ウイルスは拡大し、関東・関西ともに感染者が増加傾向にあります。非感染者つまり生存者はすでにIFGRに移送、収監し本日より業務を開始しました。また、関西圏での生存者は第一団以降、未だ発見に至らず、IFGRの調査班が捜索に当たっています」
「そうか…そう言えば、君が言っていた女性はどうなった?」
「安藤真理子ですか?彼女は、間もなくウイルスの正体を突き止めるかと…」
「なんと……やはり、君の言う通り優秀な人材とみえる」
「彼女だけでなく、同じ研究所に勤務していた西条隼人という男性もまた、彼女と同じく正体に気づき始めています。また彼女に関しては、ベクターの特性にも気付き始め、恐らく二人はワクチンも作れるようになるかと…」
大道寺は腕を組み、小さく唸った。
「“優秀な研究員は、時に足枷となる”か…。まあ、良いだろう。その二人にはこのままウイルスを突き止めてもらおう。それで…君のことは誰にもバレてないね?」
「もちろんです。私の正体がバレた時は…覚悟しています」
「良かろう。くれぐれもバレないように行動してくれ。君が私のスパイだとバレては困る」
雅子は深く頷いた。
「では、幹部たちの状況は?」
「隊長・ライラックは順調に生存者たちをまとめています。誰一人、施設概要について気付いたものはいません。副隊長・イクソラもライラックの手足となり、業務遂行を。残りの隊員も同じく…」
「そうか、分かった。今度は何日いるんだ?」
「三日を予定しています。三日後の朝、隊員が迎えに…」
大道寺は「なら、ゆっくり休め」と雅子に声を掛け、議事堂の地下にある自分専用のシェルターへ通した。
「ここなら、簡単に見つかることも無い。おまけにベクターに怯える必要もない…だろ?」
雅子は笑顔で返事し、大道寺を外へ出した。長く深く息を吐きだし、ベッドへ体を静める。今までの疲れが飛んでいくように、体が軽くなった。
「さすが、総理大臣ね…。ベッドまで特注だなんて…」
雅子はトランクケースを開け、パソコンを取り出す。そして起動させた。画面には施設の様子が映し出されている。映像枠の右下には【Institute For Global Relife】と書かれている。
「みんな、ちゃんとやってるわね…」
キーボードを操作し、次々に画面を変えていく。ボタンを押す手が止まり、画面に釘付けになる。そこにいたのは真理子だった。
「マリちゃん…」
雅子は哀しげな声で、真理子の名前を口に出す。あれから、一度も顔を見ていない。体調はどうなのか、食事はきちんと摂れているのか、眠れているのか。雅子は真理子に尋ねたかった。しかし自分の立場上、簡単に施設内を動くことは出来なかった。
画面の中の真理子は、分析を続けている。その隣で西条も分析し、時々真理子を手伝ってやっていた。
「西条くん…マリちゃんを頼むわね…」
雅子はまた画面を変え、コントロールルームに切り替えた。三台の大きなモニター、たくさんのパソコンが目に入る。その中央に見えたのはライラックの姿だった。
「さあ、これからどうするの…?そろそろ時間よ…」
その頃、施設内にいるライラックは中央モニター横の時計を見ていた。針は一四時を指している。
「放送を掛ける。場所は調査班だ」
「了解!…準備できました」
ライラックはインカムを装着し、手元のボタンを押す。
「調査班に告ぐ。隊長のライラックだ。モニターを都市部に切り替えろ」
調査班の部屋では、ライラックの放送に従いモニターを切り替えていた。画面に映し出されたのは、死の街と化した市街地だった。部屋にどよめきが起こる。目の前には全身緑の水疱で覆いつくされ、まるでゾンビのように歩く感染者の姿だった。
『都市部に切り替えたら、二時の方角を拡大だ。非感染者の姿が確認できたか?』
調査班主任・ホップは部屋に常備されているインカムを装着した。
「隊長、ホップです。今、インカムを着けました。直接お話しできます」
『了解した。私はこのまま、スピーカーで話す』
「隊長、二時の方角に非感染者が三名確認できました。どうしますか?」
『保護班と制圧班に放送を掛ける。現地に赴き、非感染者の確保を要請する』
そこで放送は途切れた。ホップはメンバーに指示を出し、次の準備へと取り掛かる。ライラックは保護班、制圧班に放送を掛ける。
『保護班・制圧班、聞こえるか?ライラックだ。チーフはインカムの装着を。新たな生存者が確認された。場所は後程知らせる。直ちに救出準備に取り掛かれ』
ライラックの放送後、保護班・制圧班は慌ただしくなった。
「感染者に対する防御は今朝、訓練した通り。大丈夫だ!実践が速くなっただけだからな」
「いや、でも…俺たちはチーフみたいに強くはないし、戦いなんてそんな…」
「大丈夫だ、ヒース。君たちはあの中を生き延びた。救助が来て安心しただろ?あそこにいる生存者も俺たちのことを待ってる。俺たちが助けに行こう」
カッシアは怯えるメンバーを落ち着かせていた。ついこの間までは、普通の会社員をしていた人間が今は、得体の知れないゾンビと戦おうとしている。これは普通では考えられないことだった。怯えるのも分かる。
「隊長、準備が出来ました。いつでもいいですよ」
『分かった、カッシア。…保護班は準備できたか?』
その頃、保護班でも着々と準備が進められていた。
「いい?装備は外れないように気を付けて。プロテクターは強く締めて。インカムはお互いの声が聞こえる?準備が出来た人から挙手」
ルピナスがそう言うと、次々に手が挙がる。強く頷き、ルピナスは声を掛けた。
「できるだけ、離れないこと。間隔は狭く取って。いい?…隊長、保護班準備完了です」
『保護班・制圧班はエレベーターホールへ移動開始せよ。地上へ出たら、連絡を。以上!』
ライラックはそう告げると、放送を調査班へ切り替えた。
『保護班・制圧班が地上に出る。各隊員のICチップを連動・監視せよ』
「了解。…みんな、始めて」
ホップの合図で、一斉にパソコンを操作し始める。静かな部屋に緊張感が張り詰め、パソコンの音だけが響き渡る。
そろそろ地上に出た頃だろうか。ライラックは時計を確認する。
『隊長、制圧班のカッシアです。今、保護班と合流して地上に出ました』
「ヘリがあるだろう。カッシア、操縦できるな。現地へのナビを開始する」
『了解!』
カッシアは全員をヘリの中へと誘導させ、助手席にはルピナスを乗せた。
「ルピナス、シートベルト締めろよ」
「言われなくても分かってますよ。そっちこそ、安全運転でお願いしますよ」
「任せろ、ヘリは俺の相棒だ。じゃあ、行くぞ……」
結構、カッシアのキャラも好きだったりします
イメージとしては熊…?




