第二章 疑惑②
翌朝、アラームの音で目が覚める。
まぶしい光が目に入る。今までの出来事は全て夢だったのか…。重い体を起こし、目を擦る。けれど目の前には昨日と同じ風景。
「夢じゃなかったか…」
目覚ましの音を消そうと枕元を見るが、時計はない。どこから音が聞こえているのかと音源を探す。モニターからだ。モニターに近づき、目覚ましのスイッチを探すが見当たらない。もしかしてと思い、バンドをかざす。音が止まった。全ての操作はこのバンドか…。
〈おはようございます。アネモネ様。ただいまの時刻は午前六時です。七時より朝食でございます。それまではどうぞゆっくりとお過ごしください〉
ゼウスはそう言った。
「あ、真理子~何の音~?」
眠い目をこすり、大きなあくびをしながら羽衣が起きてきた。
「おはよう、カンナ。目覚ましだってさ。このゼウス、目覚ましの役割もあるみたいでさ。止めるにはバンドをかざすみたいよ」
「へぇ~、ゼウス偉いじゃん。おはよう、ゼウス」
〈おはようございます。カンナ様。よく眠られましたか?〉
相手を労うことを知っている人工知能。どういえば人間が嬉しいか分かっているのだろうか。真理子は人工知能・ゼウスに疑惑の目を向けていた。
「おはよう、アネモネさん。カンナさん」
「おっはよ~カクタス~」
「お、おはようございます。カンナさん、朝から元気ですね。いいことでもあったんですか?」
「う~ん、私、朝は強いほうでさ。テンション高いの。ちなみに真理子も朝は強いんだ。まあ、あまりテンションは変わらないけど」
「…真理子っていうんですね。アネモネさん。今初めて知りました。カンナさんは?」
「私?私はね…」
二人は朝から会話を楽しんでいた。適応能力が高いと言うのか、単純と言うのか。真理子には到底ついていけなかった。それからは洗面室へ行き、朝の支度を済ませる。全ての用意を終え部屋へ戻ると、二人が制服を着ていた。
「何してるの?」
「ゼウスがね、制服を着てくださいって言ったの」
「え…ゼウスが?」
「あ、そうなんです。“午前六時四〇分です。朝食の前に制服に着替えてください”って言って…」
真理子は再び、ゼウスを見た。向けているのはやはり疑惑の目だ。全てがゼウスに支配されているようで気味が悪い。しかしここは従わなければ。真理子は制服に着替え始めた。
制服と言っても学校のようなものではなく、見た目はスーツのようなもの。ジャケット・ワイシャツ・スラックス・靴下・ベルト・そして青いバッジ。全て揃えられていた。気味の悪いことにサイズまでちょうどだ。真理子は背筋にひんやりとしたものを感じた。
〈アネモネ様・カンナ様・カクタス様、もうすぐ朝食の用意が整います。食堂へ移動してください〉
「は~い。行こう?二人とも」
羽衣やカクタスはゼウスのことを何とも思っていないのか。不思議に思わないのか。真理子にはそれもまた疑問だった。全てをゼウスに支配されているような気がする。そんな気がしているのは自分だけなのか?真理子の頭はパンクしそうだった。
食堂へ行き、昨日と同じく自分の食事をトレーに載せる。空いている席に座ろうと席を探すと、西条の隣が空いていた。小さく手招きをするのを見て、そっと移動する。
「あ、私あそこが空いてるからそこに行くね」
真理子はそれだけ言い、西条の隣に座った。小さく頷き、西条は椅子を引いてやる。すると、幹部のメンバーがぞろぞろと集まってくる。今日は全員が制服だ。真理子を含めた生存者全員も幹部も、全員が同じスーツに身を包んでいた。ただ違うのは胸のバッジの色のみ。
「皆、おはよう。よく眠れたか?今日から仕事が始まる。忙しくなると思うから覚悟してくれ。それでは食事を始めようか。ゼウス、メニューを」
〈承知致しました、ライラック様。皆さま、おはようございます。朝食のメニューです。【白米・鮭の塩焼き・卵焼き・味噌汁・サラダ・ヨーグルト】です。白米と味噌汁はおかわり自由です。それではお召し上がりください〉
ゼウスの合図で幹部たち七人は食事を始める。それを見ていたほかの全員も箸を持った。食堂には次第に話し声や笑い声が聞こえてきた。
部屋が騒がしくなるの待っていたのか、西条が話し始めた。




