第二章 疑惑①
ここから第二章の始まりです。
物語はある施設内に…
「西条さん…」
「できるだけ前を見て、小声で話すんだ。ちなみに俺は“ブルースター”だ。君は?」
「私は“アネモネ”です」
「アネモネか…君らしいな」
二人は食事をしながら、前を向き小声で会話を始めた。
「ここに来てから、中原さんの姿を一度でも見たか?」
「いいえ…見てません。それがどうかしましたか?」
「もしかしたら、彼女は元からここの隊員だったのかもしれない。初めの隊員のあの態度。中原さんの言動、全て辻褄が合うんだ。それに、ここだけの話だが…今朝、ULIで彼女を見かけた。行動が怪しくて、少し後を付けたんだ。そしたら、電話してた。その時に“ゼウス”って言ってたんだ」
「ゼウスって…」
「ああ。あの人工知能だよ。初めは聞き間違いだと思ってたんだ。けど、ここにきて確信した。あの時の“ゼウス”はここの人工知能のことだ。まあ、人工知能にゼウスってのも笑えるけどな…」
「ゼウスってあの神話の…ですよね?」
「うん。ギリシャ神話のゼウスだ。ゼウスは…」
ゼウスとはギリシャ神話の主神で全知全能の存在である。天候や全宇宙を支配する天空神で、人類と神々の双方の秩序を守護・支配する神の王。全宇宙を破壊できるほどの強力な雷を武器とし、強大な力を持っている。
「そんな神の名前を人工知能に…」
「それだけじゃない。ここの施設にある班の名前、あれも全てギリシャ神話の神だ。もしかしたら、ここは神が支配していると言いたいのかも…どちらにせよ、この施設は安泰ではないかもしれない。一時も気を緩めることは出来ないんだ…それにいつどこにいてもゼウスがいる」
「え…ゼウスが?」
「そうだ。部屋の中のモニター、あれもゼウスだっただろ?それに、この食堂。廊下のモニター、エレベーター、ロッカールームにもだ。この施設の中、モニターがある場所には全てゼウスがいる」
真理子は絶句した。もしかして、ここを支配しているのは人間ではなく人工知能なのではないか…。そんなことが頭によぎった。
「とにかく気を付けるんだ。何が起こるか分からない。俺は出来るだけこの施設について調べようと思ってる。君も何か手掛かりを見つけてくれ。それと、インターネットメガネ、あれは常に持ってるんだ。タイミングを見て連絡する。いいか?」
「はい。分かりました。さ…ブルースター」
二人は食事を終え、それぞれの部屋へと戻った。真理子は今朝から今まで、違和感しかなかった。なぜこんな事態が起きたのか。それも今日に…。おまけに助けが来たかと思えば、こんなところへ集められた。ここでの生活は自由だと言いながらも、制限はいろいろある。名前はなくコードネーム。業務内容は他言してはならない。そしてあらゆるところにいる人工知能・ゼウス。
「一体どういうこと…」
「何がですか…?アネモネさん」
「へ?あ、カクタスさん…、何でこんなことになったんだろうって…。家族と連絡も取れなくて、こんなところにいて…。今までの生活がまるで夢みたいだなって思って」
「確かにそうですよね。でも今までが平和すぎたんですよ。日本は平和ボケしてると昔から言われていたそうですから。地球温暖化が進んでいる。対策を。と昔から言われてましたが、結局は対応しきれずにこんな世の中になった。昔の日本はもっと広くて四七個に分かれていたって学校でも習いました。学校も町も紙であふれていたそうですよ。勉強もテストも紙だったって。曽祖父が亡くなる前に言ってました。“人がロボットを創り、ロボットが進化すると何もかもロボットに取られてしまうんだ。いつかは人間が創ったロボットが人間を殺す”って」
ロボットにとられる…か。今のこの施設をゼウスが支配しているとすれば、それは人間のせい…。真理子はその言葉が忘れられなかった。
「まあ、そんなことあるわけないんですけどね。ロボットが人間を殺すだなんて、そんな映画みたいな話…。あ、このフロアの奥にシャワールームがありますよ。カンナさんもシャワーを浴びるって。アネモネさんもどうぞ。私は終わりましたので…」
「シャワーか…。ありがとう。行ってきます…」
真理子は着替えを持ち、シャワールームへと向かった。
温かい水がシャワーから出てくる。疲れ、悲しみ、不安、恐怖。それらの感情を全て流してしまいそうなほど温かい…。真理子はお湯を頭にかけた。大丈夫…何があっても私は生き残る。絶対に…。シャワーを浴びながらそう心に決めた。
グロイ系はしばらく出てきませんが、この次の話くらいから科学の話が混じってきます。
苦手な人、アレルギーを起こさないように…




