第一章 違和感③
それからはフリージアの長い説明が続き、バンドの色ごとに生存者が集められた。そして、居住区へと連れて行かれ、それぞれにコードネームが与えられた。
「今、あなたたちに与えたのはコードネームです。それがこの中での名前になります。お互いの人権やプライバシーを守るために、今日からは名前ではなくコードネームで呼び合うようにしてください。また、お互いの業務内容については他言無用です。もし、それらのことが守られていないと分かれば、この施設から追放させて頂きます」
フリージアはそう言った。それから真理子たち生存者は、地下三階、地下四階にある居住フロアへと案内された。
「地下三階が男性、地下四階が女性のフロアです。居住区への異性の立ち入りは禁止です。それは必ず守るようにしてください。また室内の詳しい説明等は、皆さんの腕に着けてあるバンドを、扉の裏のモニターにかざしてください。画面に表示されたAIによって説明を聞くことが出来ます。皆さんの部屋はバンドの色ごとに分かれています。扉に皆さんのコードネームが書かれていますので、そこが今日から自室となります。以上です」
フリージアはそう言うとその場を去っていった。男性は三階に、女性は四階へと移動し、各自バンドの色を確認しながらコードネームが書かれている部屋を探した。
「…青のアネモネ…アネモネ…あった。ここが私の部屋か…」
真理子は自分の部屋を見つけた。ネームプレートには【アネモネ・カンナ・カクタス】と書かれていた。どうやら三人部屋のようだ。
「あ、真理子~!!良かった~同じ部屋なんだね。安心したよ…。私ね、カンナだった。真理子は?」
「私はアネモネ。羽衣がカンナか…。じゃあ、あと一人のカクタスって?」
「あ、あの…私がカクタスです…」
少しおっとりした女性が現れた。何かに怯えているのか、不安そうな顔をしている。
「あなたがカクタスさんね。私はアネモネ、この子はカンナ。今日からよろしくお願いします」
三人は扉の前で軽く挨拶を済ませ、認証システムに指を乗せた。すると扉は音もなく開いた。三人が部屋へ入ると、電気が付き部屋の全貌が見えた。どうやら電気は人感センサーのようだ。ULIより進んでる…それが真理子の第一印象だった。
部屋は意外に広かった。ベッドは三台あり、それぞれの机が壁に向かって設置されている。部屋の中央にはテーブルが置かれ、隅にはタンスがあった。検査を受ける際に持っていかれた荷物もきちんと置かれていた。荷物に変わったところはない。ノートパソコン、サンプル、全て揃っていた。サンプルがあると言うことは、荷物の点検をしたわけではないのか?真理子は考える。
ふとタンスが気になり、扉を開ける。そこには白衣と制服のようなものが置いてあった。もちろん、三人分。何で…どうして…?そう考えていた真理子の耳に、羽衣の明るい声が聞こえた。
「へぇ~結構いいじゃん。私が住んでた部屋より広いかも。ね?真理子」
「私はアネモネだってば。言ってたでしょ?コードネームが名前だって。どこで誰が聞いてるのか分からないんだから、コードネームで名前を呼ぶこと。いい?」
羽衣改めカンナは、つまらなさそうに返事した。カクタスはと言うと歩きながら部屋をずっと見ている。
「…カクタスさん?どうかした?」
「へ?あ、いや…私…初めての場所がとても不安で。あんなことが起こった後なのに、今度はここで生活するのかと思うと、不安しかなくて」
そうだ。カクタスの言葉を聞いて二人も思い出した。あの事態が起こってから、まだ一日も経っていなかった。長い時間、ここで色々と検査や説明やらを聞いていたから、あの恐怖を忘れかけていた。今でも覚えてる。あの時の恐怖。生きているのか死んでいるのか定かではない“人間のようで人間ではない”ものの存在。ついさっきまで一緒に行動していたはずの仲間の変化。どれも忘れかけていた。
「私たち、あの中を生き延びたんだよね…。」
真理子が言うと二人は頷く。きっとカクタスも私たちと同じ思いをしたんだろう。そう思った。そんな時しんみりとした空気を変えたのは羽衣だった。
「ねえ!バンドをかざしたら、説明を受けられるんだったよね?やってみない?」
羽衣は自分のバンドをモニターにかざした。すると何もなかった画面は、淡い青色に変化した。モニターには、なにやらこの施設には相応しくないようなキャラクターが登場した。その姿はアルファベットの“A”をもじったような形で、“ⅰ”のような形をした棒を持っていた。
〈初めまして。私、AIのゼウスと申します。以後お見知りおきを。貴女の名前はカンナ様ですね。私を起動していただき感謝いたします。何をお聞きになりたいですか?〉
「これ何~?すっごい可愛いんだけど~」
〈恐れ入ります。ところで、何か聞きたいことがあるのでは?〉
「へぇ~。ちゃんと声に反応するんだ~!じゃあさ、この部屋は自由に使っていいの?家具とかは?」
〈この部屋はカンナ様のお部屋でございます。カンナ様のご自由にお使いください。家具など必要なものがあれば、私にお申し付けください〉
羽衣とAI・ゼウスのやり取りを見ていた真理子は、ゼウスに近づき質問した。
「ゼウス、一つ教えてくれない?」
何も返事はなかった。繰り返し声を掛けても返事は返ってこない。不思議に思った羽衣が声を掛けると、〈どうしましたか?カンナ様〉と返事が。「もしかしたらバンドをかざした人にしか使えないのかも…」真理子は自分のバンドをモニターにかざした。
〈初めまして。私、AIのゼウスと申します。以後お見知りおきを。貴女の名前はアネモネ様ですね。私を起動していただき感謝いたします。何をお聞きになりたいですか?〉
「やっぱり…バンドをかざした人にしか反応しないように出来てるんだ…。ゼウス、この施設は一体何…?」
〈私の口から詳細を話すことは禁じられています。しかし、話していいこともあります〉
「じゃあ、あなたが話していいことだけを私に教えて?この施設は一体何?」
〈承知いたしました。この施設は…〉
さあ、出てきましたね~AI!人工知能!
これを出したかったんですよ~
名前がゼウスというのが、これまた中二病だわ…




