恐怖!機動シャコメカ
それは、望遠カメラにしっかり写っていた。
車ではない、暗くなってきた街中を大きな何かが幹線道路をこちらに向かって移動している。
サイズも形状も、それは見たこともないものだった。
「これってもしかして……降りてきた宇宙人の?」
「まずい! 生駒山に落ちたとき聞いとったから、油断しとった。まさかまっしぐらにこっちに来るとは……!」
チカの言葉に、ヒロシは顔をゆがめていた。
生駒の山のどのあたりかは判らないがここまでは数キロ。
のんびりロボットの起動試験をやっていたので、車なら来れなくもない距離だが、まさかまっしぐらにここを目指してくるとはチカも思ってはいなかった。
「どうするんですか?」
そうチカが問うと、ヒロシは周囲と顔を見合わせていた。
「いきなり戦闘開始する予定はなかったから、「オーダンナー」には固定装備しかついとらん!ここは威嚇か撤退か……」
「え?戦うつもりで起動させたんじゃないんですか?」
「いや、この状況やったら、町中歩かせてもドサクサで有耶無耶にできるかなって……」
「……みんな、そういう火事場泥棒みたいな発想で集まったんですか?」
さすがに呆れてものが言えない。
チカは、ヒロシの無計画さに頭を抱えたが、流石に呆けてもいられなかった。
何とか「オーダンナー」を探しながらインカムでミオに声をかける。
「ミオちゃん!引き返して!宇宙人が近くに来てる!」
『え?』
それは、なんだかんだとコックピット内で待たされ、居眠りしそうになっていたミオには、一瞬何のことかわからない言葉だった。
だが、チカが送ってきた「デッチ」からの映像がディスプレイに映し出されると、流石に事態を把握する。
『嘘やろ?なんでコッチに?もう近いん?』
不安になり、正面のライトをつけて思わず幹線道路をのぞき込むミオ。
そこには、眼前に迫った、巨大な多脚型のメカの姿があった。
その姿に、ミオは思わず声を上げる。
『エビ?』
「シャコやないか?」
天王寺親子の意見は分かれたが、チカにとってはどうでも良かった。
高さ八、九メートルほどの頭を上にそらせたエビのようなシャコのようなメカは、どう考えても噂の宇宙人のものだった。
それがこちらを無視することなく、道路で立ち止まり、しげしげとこちらを見ているように見える。
これは、あきらかにこちらに興味がある様子であった。
「いかん! 威嚇して追い払え! 目を反らさずゆっくり後退するんや」
まるで熊相手のような話だが、チカも他に対策を見つけられなかった。
ヒロシの指示どおり、「オーダンナ―」はゆっくりと後退する。
だが、相手のメカは、角度を変え、こちらをさらに観察していた。
そして、そのメカは突然動き出した。
『!』
「え?」
ミオにも、チカにも一瞬何が起きたのか判らなかった。
周囲に金属音が響き、コックピットに衝撃が走る。
チカが状況を確認した時には「オーダンナー」の巨体は数メートル後方に仰向けにひっくり返されていた。
「パンチや……やっぱりシャコやな」
宇宙人がシャコを知っているかどうかはともかく、ヒロシの言葉にチカはようやく状況が呑み込めた。
突然アームがメカから伸びて、「オーダンナ」に強烈な打撃を与えたのだ。
目にも止まらぬ速さで。
それこそ強烈なジャブのように。
チカは慌ててモニターのミオを確認した。
「ミオちゃん! 大丈夫?」
そう声をかけると、ミオは気を失っている様子は無かった。
「……なんとか。びっくりしたけど……」
どうやら、コックピット内のパイロット保護の機能はまがい物ではないようである。
外装もへこみができただけ。
チカは、ミオがレバーを操作すると、オートで立ち上がる「オーダンナー」を見てひとまずは安堵した。
だが、状況は好転しているわけではない。
「どうしましょう!どう考えても敵対行動取ってますよ!」
狼狽えるチカに、ヒロシはしばし考え、そしてミオに指示を下す。
「こうなったらこっちも腹くくるしかない。ミオ! 逃げろ!」
『え?腹くくって逃げるんかいな?』
「なんかの間違いやったら追ってこん!できるだけ狭い路地に、まずはダッシュで逃げるんや!」
『わけわからんけど!逃げた方がええのは賛成や!』
そう言うと、ミオは「オーダンナー」を全速で後退させた。
チカが「デッチ」から送信したマップが表示され、それを参考に、さらに狭い路地に逃げ込む。
すると敵のシャコメカは、慌ててそれを追いかけ始めた。
「やっぱり、こっちを追ってきてる!」
その様子に悲鳴を上げるチカ。
そして、路地に入ったところでそれは起こった。
シャコメカのスピードが何かに引っかかったように急激に落ちたかと思うと、街灯の灯りが消えて高圧電流の流れる音がして火花が散り始める。
そして、それでも強引に動こうとしたシャコメカは、数回目の火花に痙攣したように動かなくなった。
それにヒロシは、チカの背後でガッツポーズを決めた。
「うまくいった!」
その姿に首を傾げるチカ。
ヒロシは、それにシャコメカの映像の一部を拡大してみせた。
「電線や。「オーダンナ―」があのサイズになったのも理由がある。あれ以上の高さやと街中、特に狭い路地では電線をひっかけてまうんや。あいつめ、電撃食らって慌てとるわ」
「宇宙人のメカもずいぶん脆そうですね……」
電気系統に何等か異常が出たのだろうか? 戦闘用とは思えない打たれ弱さの宇宙人メカ。
そして、間髪入れずヒロシの指示が飛ぶ。
「今や!攻撃するんや!」
それに、ミオはきょろきょろと辺りを見回した。
『武器なんかあるん?殴ったらええの?』
「マニピュレイターみたいな繊細なとこでどついたらすぐぶっ壊れる。いますぐ「ソロ・バーン」と叫ぶんや!」
『は?』
それにはミオのみならず、チカも思わず眉をしかめた。
「……叫ぶ必要あるんですか?」
「音声認識で起動する仕組みやからな。いきなり暴発したら危ないやろ」
『そこはゲームと同じにせえよ!』
どうでもいいこだわりがこういう時にどうにも引っかかる。
だが、いちいちそこで口論もしていられない。
ミオはしぶしぶ指示通り声を上げた。
『……ええっと。ソロ・バーン』
「声が小さい!」
『ソロ・バーン!』
「もっと元気な声で!」
『ソロ!バーン!』
何度かの試みでミオが叫ぶと、「オーダンナー」の五本指が格納され、腕に装着された鉄の杭が姿を現した。
「オーダンナー」はそれを誇示するように、腕を掲げ空手家のようなポーズを決める。
その姿にモニターで見守っていた「スーパーロボット作ろう会」の皆さんがやんやの拍手と歓声を上げる。
「これぞ単発式電熱杭「ソロ・バーン」や!」
そうやって、どや顔をするヒロシだったが、ミオとチカは、勝手に動いた「オーダンナー」の方に驚いていた。
特にどういう動きをしたか見えていないミオは困惑顔である。
『今、なんか勝手に動いたけど、なに?』
「いや、武器を出すときにポーズを決めるようにプログラミングしてあるねん。我ながらようできたわ。」
『一体何にこだわっとんねん!』
本当に言葉が出ない。
チカは、二人のやり取りに本気で頭を抱えた。
明らかに、技術のリソースの使い方がおかしい。
もう、これでは余裕があるのかないのか。
そんなやり取りをしている間に、シャコメカはどうにか態勢を立て直し始めている。
それに、ベルタが気づき、慌てて声をかけた。
「ミオサン! 向こうが動き出してマス! 急いデ!」
その言葉に、ミオは気を取り直して、シャコメカに向き直る。
「そうやった!」
チカもあたらめて確認する。
シャコメカは、どうにか足をじたばたさせながら態勢を立て直そうとしている。
それにミオは、「オーダンナー」を全力で加速させた。
『食らえぇぇぇ!』
ミオは叫びながら照準を合わせ、絶妙のタイミングで、レバーのボタンを押した。
するとオーダンナーはパンチのモーションと同時に腕から電磁力で鉄杭が打ち出す。
周囲に轟く金属音。
突進の運動エネルギーと「オーダンナー」の腕の力も相まって、鉄杭は易々とシャコメカの装甲に穴を開けた。
ひしゃげる装甲。
よろめくシャコメカ。
「オーダンナー」はようやく、異星人に反撃を成功させた。




