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商工戦士オーダンナ―  作者: 宮城 英詞


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7/11

オーダンナー大地に立つ

 「全システム正常!成功です」


 パソコンでシステムをモニターしていた長田さんの言葉に、歓声が起こる。


 ヒロシは満面の笑みで頷くと指示を出した。


「よっしゃ、いよいよや!ベルタ!クレーン下げろ!」


 彼の言葉に、ベルタが壁のスイッチを操作すると、今まで吊るされた状態だった「オーダンナー」のクレーンが下げられ、周囲の人間が一斉に退避する。


 そして、わずかに浮いていた足が地面に着き、やがて「オーダンナー」は直立した状態に至った。


 そして、再び工場内に静寂が訪れる。


 何事か?とチカが周囲を見渡す中、「スーパーロボット作ろう会」の皆さんは、じっと「オーダンナー」を見つめていた。


 五秒経過。


「オーダンナー」は動かない。


 それに、ヒロシは満面の笑みで頷いた。


「成功や!」


 その言葉に、改めて工場内は再び歓声に包まれた。


「……あの、動いてませんけど?」


 何が起きたか分からず、チカがヒロシに聞くと、ヒロシは得意げにチカに問うた。


「チカ君、君は立ったまま寝ることができるかね?」


「いや?無理です」


「そう、できん。二足歩行で直立、静止するというのは、複雑な知覚とバランス感覚が正常に動いてるからこそのものなんや。機械でそれを再現するのは、各部センサーと、関節部を絶妙な状態でキープせなあかん。ああ見えて、あれは高度な動作なんやで」


 じゃぁ四つ足とかにすれば楽なのに、とチカは思ったがそんな事はお構いなしにヒロシはアポロに合図を送る。


 すると、アポロがリモコンを操作し、肩につながれていたクレーンのフックが外れる。


 それを確認すると、ヒロシはインカムでミオに指示を送った。


「これで、準備万端や。ミオ、まずはゆっくり前進させてくれ」


『……こう?』


 ゲームの操作と同じく、ミオが恐る恐るレバーを倒すと「オーダンナー」は足を踏み出した。


 ガシャンという音が響くと、また工場内に歓声が上がる。


 まるで子供を見守るような一同だが、モニター越しに見える中のミオは不安そうだった。


「よし、いい感じやミオ。そのまま表の通りまで歩いてみてくれ、道は開けてある」


『……大丈夫なん?知らんで?』


 ミオはそう言うと、レバーをさらに操作する。


「オーダンナー」はそれに従い、一歩、また一歩と慎重に工場を歩き、正面の駐車場を経由して、夕暮れの迫った表の道路に出た。


 その様子を感慨深げに見守る一同。


 実験もやらずにいきなり人を乗せて動かすのはどうなんだとチカは思っていたが、ここまでスムーズに歩けるのはたいしたものである。


 どうもある程度ソフト上でシミュレーションはしていたようだ。


 そう感心するミオの目に「オーダンナー」の背後の様子が映った。


 そこには、背中にあたる部分から伸びたケーブルが工場内の入り口付近にある巨大な機械へとつながっている光景。


 さながら、電化製品をそのまま大きくしたようなケーブルはオーダンナーの移動に合わせてどんどん伸びていく。


「……あの。あれは?」


 さすがに気になってケーブルを指さして問うチカ。


 ヒロシはそれに、ケーブルの伸びる工場の外に出ないようチカの動きを手で制した。


「電源ケーブルや、危ないから触ったらあかん。一応保護はしてあるけど、高圧電流やし、動きに合わせて暴れたりするからな」


 それにチカは、言葉を失った。


「有線なんですか?」


「一応バッテリーは内蔵しとるけど、計算上五分も持たんからな。動かしてるうちに街中で止まったら。後が大変やろ」


「いや、まぁ、それはそうですけど……」


 どうにも妥協の産物であるらしい。


 もしかして、あのケーブルが動くたびに街中で暴れ回る事は想定していないのだろうか、とチカはかなり不安な気持ちになった。



 そんなチカを尻目にヒロシはパソコンのモニター画面を切り替えた。


 ご近所に設置されたらしいカメラへ切り替わった事を確認すると、ヒロシは再度ミオに呼びかける。


「よし、次は高速移動の試験や。操作はゲームと同じや。ペダル踏み込んで移動方向にレバー」


『そんなんできるん?』


「ああ、スピード出るから、信号守って、右側通行やで。あと、ケーブル延ばすからちょっと待ってや」


『……なんでそこは常識的やねん』


 避難指示が出ているせいか、夕暮れの道路は何も走っていない。


 複数人でケーブルを一杯に伸ばし、安全を確認すると、ミオは慎重にペダルを踏んだ。


 すると「オーダンナー」はスキーのジャンプのような姿勢でかがみ、足からタイヤがせり出してくる。


 チカが、それに気づいた時には、「オーダンナー」は通りを走り抜け、工場内からの有視界の外に消えていた。


『ちょ!速い!速い!』


 さすがに驚いたのか、慌てて機体を静止させるミオ。


「オーダンナー」はその指示に従い、百メートルほど走った先で急停止する。


 その様子を、カメラで確認していた一同は再び歓声を上げた。


「いやぁ、むせるなぁ」


「むせますねぇ」


「むせるね」


 感慨深げに画面を見ながら頷く一同。


「むせる」って何なんだろう?


 チカは気になって仕方なかった。


『ちょっと! はしゃいどらんで指示出してよ。車はおらんけど、このまま直進したら幹線道路に出てまうで?ケーブルの残りも気になるし……』


 そんな一同に、コックピットからミオが呼びかける。


 ミオの言う通り、「オーダンナー」はすでに設置したカメラの視界の外れで立ち尽くしていた。


「確かに、コックピットから見えてるだけじゃ限界あるね、そろそろ暗くなってくるし。」


 確かに、人がいないとはいえ、そろそろ引き返した方がいいのかもしれない。


 チカがそんな事を思ってヒロシの方を見ると。


 彼はそれに不敵に笑っていた。


「大丈夫や。こんなこともあろうかとサポートメカを用意してあるんや!」


「サポートメカ?」


「そうや、アポロ、発進準備や!」


 ヒロシがそう言うと、荷台に乗せられた大きなドローンがアポロによって工場の外に運ばれていく、それを指さし、ヒロシは自慢げにサポートメカの解説を始めた。


「ディレクト・タクティカル・コンバット・ヘルパー! 略称「デッチ」や。これで、「オーダンナー」の視界の補助、索敵、プロモーションビデオの撮影もできる」


「……いや、要するに、すごく豪華なカメラ付きドローンなのでは……」


「某国で軍事用に使われてたやつの改造品や。視界の確保はやはりどこでも重要やからな。チカ君、これを君が操縦するんや!」


「え?私が?なんで?」


 突然の御指名に驚くチカ。


 それに対してのヒロシの回答は明確なものだった。


「いや、サポートメカもおっさんより女子高生が操縦した方が、盛り上がるやろ?」


「……嘘でも、もうちょっと合理的な理由ないんですか?」


 完全で気分と趣味で決めているようだ。


 ヒロシの言い分に流石にミオの苦労が分かってきたチカ。


 だが、ヒロシは上機嫌でチカにインカムを渡し、パソコンの前に座らせる。


「まぁ、操縦も簡単やから大丈夫や。こっちでサポートはできるし」


 そう言ってヒロシが手渡してきたものをチカは思わず二度見した。


「……ゲーム機のコントローラー?」


「これが一番手軽で、安くて機能性あるねん。最近はこれで動く潜水艦もあるんやで?」


「……まぁ、確かに使いやすいですけど……」


 これでパソコンの画面を見ながら操作とは、なんとも締まらないものである。


 まぁ確かに合理的なのは確かだが。


 そんな事を考えながら、「デッチ」の発進準備を見守るチカ。


『もう引き返したらあかんの?』


 と、定期的にコックピットから呼びかけるミオの様子に、チカはふと思ったことをヒロシに言った。


「今思ったんですけど。「オーダンナー」もこの方式でリモコン操縦した方がよかったんじゃないですかね?」


「え?」


 意外そうな声上がる。


 振り向くと、その言葉に、一同は凍り付いていた。


 それは、さながら時間が静止したようだった。


「……いやあの、乗ってる人は安全だし、その分何か載せられるし……」


 何か不味い事を言ったのだろうか?


 狼狽えながらチカがそう言うと、今度は周囲がざわつき始める。


 一体なぜこんな反応をするのか?


 そう狼狽えるチカに、ヒロシはいつになく真剣な面持ちで語り掛けた。


「……チカ君。その、もしも……もしも、だ。宇宙人が、電波を無効化する粒子を周囲にばら撒くような事があったらどうするね?」


「いや、電源が有線ケーブルなんだからそこにつないでおけば……」


「もし! 大事なリモコンが敵の手に渡ったらどうする?」


「いや、本体より安価なんだから、また同じのを作るか用意しておけば……」


「人が乗ってないとなんかカッコ悪くない?AIじゃなんかこう……魂的な奴がさ!」


「結局そこですかっ!」


 どうやら、開発の前提条件がチカが思っているものとはかけ離れているようだ。


 ミオちゃん、本当に大変なんだな。


 チカは、親父のロマンに乗せられているミオに心から同情した。





 なんだかんだ言いながらも、「デッチ」はチカの操縦で空高く舞い上がった。


 確かにこのコントローラーなら、チカにとっては感覚で操縦できるほど簡単だった。


 方位をコントローラーで、修正し、カメラの角度も、調整できる。


 様々なセンサーやライトが搭載されていて、これなら暗くてもサポートができる。


 そしてその高度なセンサーとカメラは「オーダンナー」の位置を探そうと上昇した時、予想外のものを探知していた。


 街頭で照らされた幹線道路をまっしぐらこっちに向かってくる大きな「何か」。


 避難指示が出た街中を移動するそれは、明らかに地球のものではないメカだった。


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