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商工戦士オーダンナ―  作者: 宮城 英詞


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異星人、襲来

 幼い頃、ミオの周囲には父の集めた「スーパーロボット」のビデオが山積みだった。


 それを、ミオは目を輝かせて見ていたものである。


「すごい!ウチもこんなロボット乗りたい!」


 そう言うミオに、父はこう約束したのだ。


「よっしゃ!今、父ちゃんが、スーパーロボット作っとるからな。できたらミオを一番に乗せたる!ミオ専用ロボットや!」


 幼いミオは、それに大はしゃぎしたものであった。





「……で、あんなの作っちゃったの?」


 ミオの幼い頃の話を聞いて、チカは呆れを通り越して、感心すらしていた。


 ミオは友人の言葉に、夕食の支度をしながら、ため息とともに頷く。


「ウチももう高校生やのに。小さい頃の約束や言うて、未だに夢見てアホみたいなことしとるんやから……」


 父の夢と、娘との約束。


 それを実現するため、ヒロシはあらゆる努力を惜しまなかったのだろう。


 それは、素晴らしい事のようにチカには、思えた。


 ただ一つ、娘が成長して、現実を知ってしまった事を除いて。


「でも、乗ってみるくらいいいんじゃない?せっかく作ったんだし。見方によってはちょっとかっこいいよ?」


 チカがそう言うと、ミオは切ない顔で首を横に振った。


 どうやら、乗りたいという気持ちは今は無いようである。


「とんでもない。今甘い顔したら、調子に乗って何をやり出すかわからんわ。あんな調子やから、お母ちゃんは……」


 そう言って、うつむくミオ。


 どうやら、家族関係にも大きな影を落としているようだ。


「……じゃあ、ロボット製作が原因で?」


 チカがミオを気遣いながらそう言うと、彼女は悲しげな顔で頷き、遠い目で天を仰いだ。


「……そう、どうしても等身大の猫型ロボットが作りたいって、家を出てった」


「……方向性の違いなんだ」


 どうも、似た者同士の夫婦だったようである。


 チカは、どういう顔をしていいかわからず、ただ口苦笑いのまま首を小さく傾げた。


「とにかく、ウチはもう夢を追いかけてどうこうする歳やないし、そう言うのにはこりごりやの。ええとこ妥協してそれなりにせんと、ウチの人生滅茶苦茶になるわ」


 それは、両親の夢に翻弄された、ミオにとっては切実な話なのかもしれない。


 チカはミオの言葉に頷きながらも、


「でも、やっぱり、私は少し羨ましいな」


 と、彼女に反論した。


 ミオはそれに、鍋に火を入れてから、意外そうな顔で振り返る。


「あれだけ夢を持ってなにかできるって、ちょっとかっこいいよ。私のお父さんなんか、市議会議員だけど、あちこちに気を使って、調整と妥協ばっかりみたいよ?大人になって偉くなっても、やりたいことできるのってそんなに簡単じゃないって、それが大人だって、愚痴ってたもん。いつまでも子供の夢持っていられるってすごくない?」


 チカの両親は絵に描いたような、真っ当な両親だった。


 だが、自分の父は仕事の話を家では滅多にしない。


 多分、娘に見せたくない色んな事があるのだろう。


 チカに対しても、ただ幸せであれ、と言うばかりだ。


 夢はこれから自分で見つけなければならない。


 もう、自分が何を昔夢見ていたかなど、思い出すこともできない。


 それが大人になる事なのだろうが、やはり、ヒロシのように、子供の夢を持ったままの人を見ると、不思議と羨ましくなるのだ。


 だが、やはりミオにとってはそうでないらしい。


「巻き込まれる方はたまったもんやないで」


 彼女はそう言うとまた大きなため息を吐きながら、カレーの鍋をかき回した。


 次の瞬間、携帯から警報が鳴り響いた。


 それはチカのものだけでなく、ミオのものも鳴り響いている。


 チカは、この音をどこかで聞いたことがある気がした。


「……この音は……」


 そう言いながら各々の携帯を取り出す二人。


 その画面には、警報が鳴り響いた理由が大きく表示されていた。


「Jアラート?異星人襲来!?」


「場所はこの辺……ちゅうか、ウチが警戒範囲ど真ん中やないか!」


 二人がそう言って顔を見合わせた瞬間、建物全体が揺れるような衝撃波が襲い、北側に面したガラスが一斉に割れた。


 慌てて身を屈める二人の耳に遅れて爆音が届く。


 周囲の道からは、車の盗難防止警報が一斉に鳴り響くのが聞こえた。


「……嘘?宇宙人が来た?」


 チカがようやく、声を上げたのは、爆音が届いてしばらくたってからだった。


 地面が揺れるような音や振動は聞こえない。


 隕石のように落下したようでもなかった。


 ミオは、スリッパで注意深くガラスを踏みながら割れた窓をのぞき込む。


 だが、町工場の建物やビルなどで遠くは見えず近所の町工場が騒ぎになっている声しか聞こえなかった。


「一体何が起こったんや?」


 不安な面持ちで、周囲を見回すミオ。


 だがやはり、宇宙人とやらが降りてきたような様子はない。


 チカはその間、身を伏せながら必死に携帯で情報を集めていた。


「SNSもすごい騒ぎになってるよ、あちこちでガラスが割れたって。多分ものすごい速さで上を掠めたんじゃないかなって……私の家は大丈夫かな?」


「……迷惑なやっちゃな」


 チカの報告に、ミオは苦々しい顔でガラスの飛び散ったキッチンを見回した。


 どうやらお構いなしのスピードで上空を通ったらしい。


 一体地球人の事をどう思っているのか。


 そう考えたミオは、当然のことながら次の疑問に行き当たっていた。


「なんで、上空からビーム撃って来るだけやった宇宙人が突然、しかも東大阪なんかに降りてくるの?」


 ミオの問いに、チカは立ち上がりながら、首を傾げた。


「……判らないけど和平交渉なら、テレビでなにか放送あるだろうし、ましてやJアラートなんか鳴らないんじゃない?」


「じゃぁ?侵略?和平交渉はどうなったん?」


 二人は顔を見合わせて、互いにもう一度スマホに目を落とした。


「……避難指示出てる。これ、まずくない?」


「少なくともここでぼやぼやしてたら、危なそうやな」


 携帯の情報から見て、どう考えても、友好的な宇宙人が降りて来たとは思えない二人は慌てて、手荷物を抱え、出口である工場へ速足で歩きだした。


 工場では、ベルタとアポロが、ヒロシの指示であわただしく工場の中を走り回っていた。


 周囲の荷物がどかされ、クレーンで吊られた「オーダンナー」が壁際から工場の中央へ移動中である。


 その様子に二人は目を丸くしてヒロシを見た。


「ちょっとおとん!何してんの!避難指示出てるんやで!」


 だが、ヒロシはそれに動じた様子は無かった、さらに指示を与え「オーダンナー」を中央へ移動させると、二人の方を向いてにやりと笑う。


「ミオこそ何しとるんや、地球とご近所の危機や。緊急やけど、第一話にありがちな話や。約束通り、オーダンナー緊急発進やで!」


 父の言葉にミオは絶句した。


「……そういえば、さっきそんな事を言ってたね」


 チカの言葉に、先ほどの事を想いだしたのか、顔をゆがませるミオ。


 まさかこんなに早く、しかも言った通り、ご近所に降下してくるとは思ってもみなかったのはチカも同じである。


 そして、何らかの反論をしようとしたその時、工場正面のシャッターがゆっくりと開いた。


 その向こうはいつの間にか集まっていた数人の作業服の男がいた。


 彼らはシャッターが開くと次々と工場内に入って来る。


 ミオとチカはそれに、驚きを禁じ得なかった。


「この人たちは?」


 尋ねるチカに、ヒロシはにやりと笑って答える。


 それは驚くべき話だった。


「「スーパーロボット作ろう会」のオフ会メンバー有志と、協力会社の人たちや。みんな、こういう時はここに集まるように示し合わせてたんや」


「モノ好きがこんなぎょうさん……」


 解説するヒロシを横目に、あきれてものが言えないミオ。


 そんな中、有志の人たちがみな生き生きとした顔で、ヒロシに駆け寄る。


「ついに来たな!ワシらの子供のころからの夢、スーパーロボット「オーダンナー」発進や!」


「荒本君! よう来てくれたな! 組み立ては万全やで!」


「突然の宇宙人侵攻に緊急発進! こんな燃えるシチュエーション、他にはない! 宇宙人に目にもの見せてやろう!」


「長田君も、ありがとう!あいつが発進できるんも、あんたのソフトプログラムあっての話や、今日も頼むな!」


 三人が握手を交わすと周囲から拍手が巻き起こる。


 それに、ヒロシが何度も頭を下げると、しみじみと、「オーダンナー」を見上げた。


「ちっさい頃から、誰に馬鹿にされようとも、氷河期世代の荒波にもまれて生きるのが精一杯やった時も諦めんかったロボットの建造。これができたんも、みんなの想いと、町工場の職人の技術と意地があったからや。「オーダンナ―」は、今やワシだけの夢やない、町工場の、そして日本の、いや世界の夢の結晶なんや。……みんなの夢が今日、動くんや! 」


 少し涙ぐみながら、そう語るヒロシ。


 工場内は集まった同世代と思われるおっさんたちの拍手と歓声に包まれた。


 そして視線は、呆然とその様子を見ていたミオに注がれる。


 彼女はその視線の意味を理解して数秒後。


「乗ればええんやろが!乗れば!」


 と、ヤケになって叫んでいた。


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