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商工戦士オーダンナ―  作者: 宮城 英詞


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驚異のロボット誕生

 それは、巨大な鋼鉄の人形のようだった。


 二本の足と太い両手、大きめの胴体がマッチョな人間か、ゴリラのようにも見える。


 いつも夢ばかり語っているとミオが言っていた父が、少なくとも外観は完成させていたのである。


「……すごい。これ、本当に動くんですか?」


 チカが聞くと、ヒロシはよくぞ言ってくれたと言わんばかりに頷いた。


「……ミオちゃんのお父さんすごいんだね」


 チカの感嘆の声にヒロシはますます胸をそらす。


「東大阪の町工場の技術を結集すれば、宇宙へロケットを飛ばせるという。いわんや、巨大ロボットをや! 今回は地球の危機という事もあり。数々の協力会社さんの協力を得て、本日完成となった。こいつは、みんなの夢と意地の結晶なんや!」


 そして今度は感慨深げに、ロボット「オーダンナー」を見上げる。


「……本当は、せめて十八メートル級の大きさにしたかったんやけどなぁ。諸般の事情で六メートルのむせる感じの大きさになった。まぁ、ウチの工場の天井の高さもあるし、大阪市内やったらこれで十分やろ。ゆくゆくは身長57メートル、体重550トンくらいのは作りたいもんやなぁ」


「『むせる感じ』ってなに?」


 何かよくわからない解説や形容詞が入り首を傾げるチカ


 どうにも、専門用語が入り過ぎて良くわからないが、まだまだ手を加えたい所は多いようだ。


 そして、感慨深げにもう一度、「オーダンナー」を見上げたヒロシは、振り向くと、にこやかに手を広げ高らかに声を上げた。


「さあ! このメカはすべてミオに合わせて作ってある! ミオ、この『オーダンナー』に乗れ! そして地球守る救世主になるんや!」


「……父ちゃん」


 そしてミオは、父に歩み寄り。


 父親の頭に、手にした大根を渾身の力を込めて振り下ろしていた。


「おおぅ!」


 砕け散る大根、よろめく親父。


 チカは反射的に、今や高くなった大根を拾い集め始めた。


「この大変なときに、何をこそこそやってるかと思えば、こんなオモチャ造って!そんなんやからお母ちゃんに逃げられるんやないの!」


「オモチャちゃうぞ! ちゃんと動くように作ったんやって!」


「動いたかってビタ一文儲からんやろ! そんなもん、でっかいオモチャやないか!」


「地球の平和を守るためやぞ!儲かる儲からんの話しちゃうわ!」


「まずは自分とこの家庭と工場何とかしてから言え! アホンダラ!」


 ひとしきり言い合うと、大きく肩で息をするミオ。


 彼女はチカが大根の残骸を拾い集めたのを見るとようやく我に返り、大きくため息をついて、エコバックに大根の残骸を詰め込みだした。


「……気が済んだら晩御飯までにおかたづけして、明日には業者に引き取ってもらう手配してな。せやなかったら晩御飯抜きやで」


 さならが、小さい子供に言い聞かせるように言うとその場を立ち去ろうとするミオ。だが、ヒロシは引き下がらなかった。


「ええやんかミオ。そんな顔せんと、一回乗ってみてや。きっと楽しいと思うで?」


 今度はなだめに来た。


 さながら駄々っ子のようだが、この場合立場が逆である。


 チカがミオの方を見ると、彼女はやはり呆れた顔で振り向いていた。


「……無邪気に乗り回せる代物ちゃうやろ! そもそも、こんなもん作るお金どこにあったんや!」


 確かに、これだけのものを、作るにはそれなりのお金がかかっているはずだ。


 材料費も高騰しているだろうし、他の工場に強力を得るには無料という訳にはいかない。


 ヒロシは、その問いに明確すぎるほどの答えを返した。


「安心せい。クラウドファンディングで集めたから、会社の負担はゼロや」


「……世の中、どんだけ物好きが多いねん」


 大威張りで胸を張るヒロシに、ますます呆れ顔のミオ。


 この才能、どこか他に使えばいいのに。


 チカは二人のやり取りを見て心底そう思った。


「ひとまず、動くとこ撮影して動画に流さんと、協力会社さんやスポンサーに顔向けができへんやないか。宇宙人もいつ攻めてくるかわからん事やし、ちょっと練習しといてもええやろ?」


 そして、ヒロシはさらに、娘を説得しにかかる。


 現実的なのか、夢見がちなのかさっぱりわからない物言いに、ミオばかりでなくチカも困惑の表情を、隠せない。


「……あんなもんで、宇宙人と戦おうなんて、本気で思ってるんか?」


 そう言うミオに対して、ヒロシは真剣な表情で、娘と向き合った。


「今、この地球規模の危機に対して、わしらは、できることを精いっぱいやるだけや。贅沢言うたらあかん。お父ちゃんの小さい頃はな、宇宙人なんか攻めてこんかったんやで」


「……手段と目的と願望がごっちゃやないか」


 いろんな本音と建前がごっちゃになった物言いに、歯ぎしりするミオ。


 要するにこのロボットで、戦いたいらしい。


 傍で聞いていたチカにも、その程度の事しかわからなかった。


「とにかく! ウチはこんなもん乗らんで! 地球に降りて来たんならまだしも、宇宙からビーム撃って来るだけの宇宙人にこんなもん役に立つわけないやないの! 動画撮って気が済んだら、適当な所に引き取ってもらってや」 


 そう、冷たく言い放つ、ミオ。


 だがヒロシは、それ以外にもそれにぱっと明るい顔で答えた。


「ほな、宇宙人が攻めて来たら、乗ってくれるんやな?」


 それに、ミオは再び、感情を爆発させた。


「ああ!ご近所の危機やったらなんぼでも乗ったるわ!そんな近くに、降りてくることがあったらやけどな!」


 そう言うと、ミオは米袋を抱え、感情的な歩調で、奥へ歩いて行った。


 こりゃ確かに大変な家族だな。


 チカはそれに、気まずい思いをしながらも、野菜を抱えて後に続いた。





 日本国首相、足元は焦っていた。


 全世界の運命はこの交渉にかかっている。


 うまくいけば、世界の救世主。


 失敗すれば全地球人類の敵である。


 実の所、戦争などやる気は無いのに巻き添えで攻撃されてはたまらない、という安易な考えでの和平交渉の提案だったのだが、各国の意見の相違と、責任のたらい回しの結果、いつの間にか全世界が自分の交渉の推移を見守ることになったのである。


 こんなこと言い出すんじゃなかった。


 足元は心底後悔していた。


 責任重大。


 しかも、このアンゴルモア星人とかいう宇宙人、交渉の相手としてはなかなかに厄介なのである。


 今日も、宇宙からの通信は苛立つ宇宙人の言葉からはじまった。


「いつまで待たせるのかね。我々の要求を受け入れる準備があるのか、無いのか!」


 通信の向こうに現れたのはガイ・アーツと名乗るアンゴルモア星人の代表だ。


 異星人の技術によって変換された彼の声は、いつになく苛立っていた。


 無理もない、相手の言っている事があまりに無茶なので、回答をずるずる引き延ばしてもう二カ月である。


 向こうの時間感覚がどれほどのものかわからないが、苛立ちもするだろう。


 足元は、それに困った顔で、周囲に居並ぶ閣僚や官僚の顔を見回し、汗を拭きながら、これまでも繰り返した回答を返した。


「……ですので、代用の土地なら用意できますし、一度調査してから部分的な採掘作業を行っていただく方法もあります。いくら何でも広大な市街地の使用権をよこせと言うのは……」


「ダメだ。どのような形で、我々の欲している物体があるのか、君たちの文明レベルでは理解しえない事だ。我々は急いでいる」


 そして、何度も繰り返された回答。


 毎度のことながらこちらの都合など全くわきまえない物の言い様で話にならない。


 足元はガイの言葉に、思わず周囲の官僚たち困惑顔を向けた。


「……これ、翻訳ちゃんとできてるんだよね?」


 官僚たちはその言葉に一斉に首を振る。


 何しろ宇宙人の技術だ。


 向こうが言ってることが正しいかどうかなど解ろうはずもない。


 足元は、途方に暮れた顔でうなり声を上げ、そして改めてこちらの要求を伝えた。


「ひとまず、前向きに善処しつつ対応いたしますが、そちらの要求を呑むには関係省庁、並びに多数の住人の理解が必要です。交渉内容の公表を行うかどうかも含めて、こちらで話どうかお待ちいただきたい」


 前向きかどうかはともかく、これは本当の事だった。


 要求を呑むどうか以前に、それを一般に公開するかどうかですらこちらは大揉めなのである。


 二カ月成果が出ない事で、支持率も下がっているのに、こんな無茶な要求されていると知られればどうなる事かわかったものではない。


 回答を引き延ばすのは、交渉を打ち切らないためのやむを得ない対応だった。


 何度か繰り返された対応。


 だが、今回のガイ代表の対応は前回までのものとは異なっていた。


「その回答は今回で五回目だ。我々はそのような者に信頼はおけないと判断する。あそこに我々が求める物質がある事は確かだ、我々は採掘作業を開始する」


 急に落ち着いた表情になってガイはそう宣言すると、足元たちが内容の意味を理解する前に通信は一方的に切れた。


「……これ、翻訳ちゃんとできてるんだよね?」


 足元総理の言葉に、閣僚も、官僚も、皆顔をそむけた。


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