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商工戦士オーダンナー  作者: 宮城 英詞
オーダンナーよ永遠に

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光の翼の神

「地球は……救われた!」


 砕け散った小惑星の計算結果がはじき出され、誰かが叫んだ。


 その声に数秒の間を置いて種子島の指令室は噴火したような大歓声に包まれる。


 その中で、ヒロシはただ、小惑星を砕いたミオの「オーダンナー」の姿を追いかけていた。


「ミオちゃんは大丈夫なんですか?」


 そう尋ねるチカにヒロシは、笑顔で頷いた。


「今、信じられん速度で地球に向かっとる。無事帰るまでがミッションや。しっかり頼むで!」


 そう言うと、隣の安野の背中を叩いて笑うヒロシ。


 チカはそれに満面の笑顔で頷いた。


 小惑星は、地球から離れていき、侵略してきた宇宙人はもういない。


 大げさでなく、本当に地球は救われたのだ。


 チカは、心からミオと、「オーダンナー」に感謝した。


 安野も、想定外の結果に驚嘆したようだった。


「この無限のパワー、「霊子力」は本当にすごい。小惑星を砕いて尚、光速に近いスピードでこちらに向かっている! 天王寺さん、ここまであなたは計算していたのですか?」


「いやぁ、すべてはみんなの、そしてミオのお手柄ですわ。ワシもまさかここまでの事ができるとは思っとらんかった。まさに無限のパワー、霊子力ですな!これで帰還までの時間もあっという間になりそうですわ!」


 安野の言葉に、ヒロシはそう言って高らかに笑う。


 だが、その様子に安野は少し考えた後こう言葉を返した。


「では、言っておいた方が良いと思いますが、このままの速度と角度で大気圏に突入するとまずい事に……」


「え?」


 その言葉に、チカとヒロシの表情は凍り付いた。


「……いや、このまま大気の層にぶつかると、普通なら大気で燃えつきるし、バリアか何かでその辺を耐えたとしても、そのまま地面に衝突してしまいますが……」


「え?いやいや、てっきり、これから大気圏突入シーケンスみたいなの始めるもんやと……」


「いや、打ち上げロケットは確かに用意しましたが、積荷に関しては任せておけとあなたが……」


 お互いを指して見つめ合う二人。


 チカはその会話の内容に、再び血の気が引く思いがした。


「……まさか、誰も、何も用意していない?」


 チカの言葉に二人は再び見つめ合い、そして頷く。


 チカとヒロシはそれに慌てて通信マイクにかじりついた。


「ミオちゃん!ストップ!減速して!」


「角度や!逆噴射して、大気の上を滑るように飛べ!!」


『え?それどういう事?』


 二人の呼びかけにミオは一言返事を返したが、そのまま返答は聞こえなくなった。


「恐らく、地球の裏側に行ってしまったか、大気の摩擦で生じたプラズマの為通信ができなくなったのだろう……どうやら大幅に減速は始めてくれたようだが……」


「何ちゅう速さや! 間に合わんかった……」


 遅かった。


 アドバイスが届く前に、ミオは大気圏に入ってしまったらしい。


 減速したらしいという安野の話もチカは全く安心できるものではなかった。


「……勘と勢いで大気圏突入って、できるんですか?」


「まったくもって計算外の出力と耐久力なのでさっぱり分からないが、あの勢いなら、ミオ君と「オーダンナー」は多分無事だろう。……あとは、その反動で着地点に被害が出ないかどうかだな。せめて海なら……いや、津波が起きるか」


 ロボットと、パイロットが超常的な力で守られていても、その理不尽は周囲に影響をもたらす。


 チカその結果を想像して、青ざめた。


「……霊子力を信じよう」


 ヒロシの言葉に、チカは絶望的な表情で頭を抱えた。





 その頃、ミオは周囲の環境の変化に戸惑っていた。


 地球に近づいたと思ったら、急に壁のようなものにぶつかったような感覚があり、必死にバリアを展開したら、今度は周囲が光り輝いてきた。


 通信も通じない。振動がすごい。


「……なんか減速とか角度がどうとか言うとったけど……」


 どうも重要な事を聞き逃したようだ。


「ひょっとして、これが大気圏突入って奴?……そう言えば、そんな訓練全然しとらんかったような……」


 ミオは、アニメでの展開を思い出していた。


 リアルロボットならバラバラになる。


 だが、スーパーロボットなら難なく飛び越えてる。


「オーダンナー」はどっち?


 スーパロボット。


「……じゃぁ大丈夫かな?」


 ミオは一抹不安を感じつつ納得することにした。


 あとは、無事に着地するだけ、もう敵はどこにも……。


 ミオがそんな事を考えていたその瞬間。警報が鳴った。


 はるか遠く、「何か」が近づいてくる。


 必死に周囲を見回したミオは、減速したことで近づいてきた、アダムスキー型の宇宙船を確認した。


 そう、大阪城に降り立ち、一旦宇宙に帰った、あの船である。


「あいつら!脱出してたんだ!」


 敵はしぶとく生き残っている。


 そして、通信機に雑音交じりで、ミオに声が届いた。


『見つけたぞ!スーパーロボット!よくもやってくれたな!こうなったら刺し違えてでも貴様を倒す!』


「え?」


 それは、憎しみに燃えるリャク・ダーツの声だった。


 そしてそれに引き続き、二人の声が聞こえる。


『やめろ同志リャク!誰も刺し違えるなどとは誰も言っておらん! デマー! 奴を止めろ!』


『同志リャク! 道連れは御免であります!』


『ええぃ! 離せ! ここで戦士らしく死なせてくれ!』


『馬鹿もん! 死んで花実が咲くものか!』


 どうも、仲間割れしているらしい。


 ご丁寧にもみくちゃになった様子が翻訳されてこちらに流れ込んでくる。


 だがしかし、船は蛇行しながらこちらに接近してくる。


 ただでさえ、空気抵抗に抗っている不安定な中の衝突。


 通信が途絶えたせいか、霊子力は徐々に低下してきている。


 そして、向こうも弱いなりにバリアを展開しているらしい以上、何が起こるか分からない。


 そんな中での衝突、それは絶対に避けたいことだった。


「……ええ?ちょっと!こっちこんといて!」


 あわてて、操縦桿を握り、避けようとするミオ。


 だが、向こうはこちらに合わせて減速、加速を繰り返す。


 霊子力の爆発力が減った今、それを避ける方法は、ミオには導き出せなかった。


 駄目だ!このままじゃぶつかる!


 ミオがそう思ったその瞬間、それは起った。


 突然、「オーダンナー」の体が、大きな力で引っ張られたような感覚が襲う。


 いや違う?


「オーダンナー」が勝手に「動いて」いるのだ。


「え? 壊れた??」


 戸惑うミオにかまうことなく、強烈な空気抵抗の中、「オーダンナー」は突如姿勢を変え、ぶつかる寸前で突進してきた宇宙船を交わした。


「うそ?」


 そして、もう一段階減速して上昇する「オーダンナー」。


 ある程度円盤と距離を取ると、今度は加速、下降して、円盤の直上からキックをお見舞いする。


 大きくひしゃげコントロールを失って、どこかへ吹き飛ばされていく円盤。


 そして反動で、「オーダンナー」さらに大きく減速した。


 偶然ではない、しかもこの動作、ミオは全くイメージしていないものであった。


 間違いなく、「オーダンナー」が勝手に動いたのである。


「え?……一体何が?」


 そして、オーダンナーは、ミオのコントロールを離れ、減速しながら地球の高高度を飛行し続けた。


 この日、地球を周回する「オーダンナー」は世界各地で目撃されることとなったのである。


 目撃した人々はみな口々に同じことを言った。


 それはさながら、光り輝く翼を広げた天使のようだった、と。





 気が付くと「オーダンナー」は、どこかの浜辺に降り立っていた。


 ふわりと、砂浜に着地すると、何を操作したわけでもないのにコックピットのハッチが開いた。


 恐る恐るミオが砂浜に降り立つと、ひとりでにコックピットのハッチが閉まる。


 それは、偶然とは思えない、自立した意思を持った機械の動きだった。


「……ウチを、助けてくれたん?」


 ミオは語り掛けたが、「オーダンナー」は答えない。


 ただ、立ち上がり太陽を背に佇むだけである。


「今まで、一緒に戦ってくれて、ありがとう」


 ミオがそう言うと、オーダンナーはまるで頷くような仕草を見せた。


 それは、オーダンナーが見せた、労いの仕草だったのかもしれない。


 ミオはそれに笑顔で答えた。


 そして「オーダンナー」は天を仰ぎ、背中から光り輝く翼を広げた。


 ミオの見守る中、オーダンナーはふわりと飛ぶと水平線の向こうに飛び去っていく。


 ミオはその姿を見えなくなるまで見守っていた。







 数時間後、沖縄付近に居た所を発見されたミオは、自衛隊のヘリで駆けつけたヒロシやチカによって救助された。


 移動するヘリの中で、事の顛末を聞いたヒロシは、「オーダンナー」が勝手に動き出した現象をこう解釈した。


「……おそらく、人型の物体に人々の意思が集中した結果、自我をもってしもたんやな、アポロも言うとったが、我々はもしかしたら自ら神を作り出したのかもしれん」


「神……」


 それは、途方もない話だった。


 だが、あれだけの奇跡を起こした物が、意志を持ったとしても確かに何の不思議もない。


 人の手に余る強大なエネルギーは、人の手を離れていくのだ。


 それは、ある意味、ミオを思いやってのことかもしれなかった。


「オーダンナー」はミオの手から離れ飛び立っていった。


 それを「神」と呼ぶべきかどうかは難しいからわからない。


 だが、ミオは明日から、ようやく普通の女子高生に戻れそうな気がしていた。


「……で、オーダンナーはどこへ?」


 ミオの問いに、チカもヒロシも口ごもった。


 どうやら、「オーダンナー」がその後、どうなったか知っているようだった。


 一体何があったのか?


 ミオは再度二人を問いただした。


「どうしたん?知ってるなら教えてや! 」


 気まずそうに顔を見合わす、ヒロシとチカ。


 しばしの目くばせのあと口を開いたのはチカだった。


「……あのね、チカちゃん落ち着いて聞いて」


 神妙な顔で、重要そうな前置きに覚悟を決めるミオ。


 そして彼女から語られたのは衝撃の事実だった。


「さっき、お父さんから電話があって、「オーダンナー」東大阪の工場に戻ってるって」


「……は?」


 予想外の結果に思わず崩れ落ちるミオ


「……帰巣本能みたいなもんかなぁ?JAXAの人も後始末に東大阪に行かんならんって、困っとったわ」


「いやハトか!」


 悩ましい顔で首をひねるヒロシに突っ込まざるを得ないミオ。


「ほな、なんで沖縄で下ろしたんや! そこまでやるならついでに東大阪まで連れて行かんかーーーーーい!」


 夕日を背に飛ぶヘリの中で、ミオの心からの声が響く。




 こうして、地球は一人の少女とロボットによって救われた。


 本日も大海原には何事もなかったかのように日が沈んだのである。


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