それぞれの夢へ
ミオが「オーダンナー」で地球を救ってから、一カ月。
チカは、夏休みの課題を片付けるため、ミオの町工場兼住宅を訪ねていた。
明日は夏休み最終日。
二人にとっては本当に久しぶりの学校である。
シャッターの入り口から声をかけると、中からミオが元気そうにやってきた。
ここのところ、ネットを通じての会話ばかりだったのだが、ミオはとても元気そうだった。
「チカちゃん! ありがとう来てくれて。ほんま、学校に出られるんは嬉しいんやけど、宿題はきっちり出すもんやから、難儀しとってん」
「……地球を救ったんだから、ちょっとは減らしてくれたらいいのにね」
同じく宿題に追われているチカも、ミオの言葉に同意する。
学校に行けるのがありがたいと思える日が来るとは思っていなかったが、こうも容赦なく同じ水準で宿題を出されるとたまったものではないのである。
そして、工場に足を踏み入れたチカは、静かで真っ暗な工場に目をやった。
「お父さんは?工場のみんなはまたどこかに行ってるの?」
それに、ミオは呆れたような顔で頷く。
「……ああ、テレビか研究施設かわからんけど。あちこちに売り込みに行っとるわ。ここで目立たんかったらいつ目立つんや!……って言うとったけどなぁ」
「複製ができないのに、技術を売り込むって言ってもねぇ……」
「見世物小屋とやっとることは一緒やろ」
チカはそれには苦笑するしかなかった。
実際、ヒロシはあちこちのメディアに登場してかなり目立っているのだが、何しろ物が宇宙人の持ち込んだ動力で複製が利かない上、彼の唱える「霊子力」理論は、根性論の上位互換とロボットアニメ語録にまみれているため、とにかく理解と実証が難しい。
現状、メディアでは徐々に色物キャラとして、扱われ始めている。
おかげで、ミオ達に取材が来ることも無いので、ある意味感謝はしているのだが。
「私のお父さんも、市民プールの下に秘密基地を作る予算を議会で提案してるけど、あれ、通るのかな?」
「……今度、宇宙人が攻めてくる確率がどんだけあんねん」
「私たちの親世代ってみんなあんなのなのかな?」
二人は、そう言うとそろって大きくため息をついた。
彼らは、なぜ夢のためにそこまでやるのか。
二人には永遠にわかりそうもない。
ミオは、改めてがらんどうになった工場を見回した。
「……結局、「オーダンナー」は買い手を探して、「スーパーロボット作ろう会」の皆さんと巡業中や。でも、なんかウチが乗らんと調子悪いらしくて、みんな困っとったわ。多分、変な癖ついてもうたんやろうなぁ」
「もう勝手に動いたりしないの?」
「霊子力が少ないせいか前みたいに空飛んだりはせぇへんけど、テレビでポーズする程度の単純な命令は聞くみたい。……まぁ、補助AIと制御プログラム入れたから、どっちがどっちなんやか……」
「あのテレビでやってたの、無人だったんだ……」
使い方は、その辺りの着ぐるみに近いが、未だに不確定要素で動く代物であることに変わりが無いようである。
ある意味、そのおかげで、ミオは「オーダンナー」から解放されたという事もできるのかもしれない。
その上で、チカはやはり現代のオーパーツと化してしまった「オーダンナー」のその後について考えざるをえない。
現状、アチャラー星人の存在は秘匿されたままだが、それでもあの「スーパーロボット」に興味を示す者は後を絶たないだろう
「大丈夫なの?たぶん、色んな組織がやって来るんじゃ……」
そう言う、チカにミオは頷くと、机の上に放置してある数々の、手紙を指さす。
それは、様々な言語で書かれた郵便の数々だった。
「もう、読まれへん郵便が毎日届くわ。実の所あちこち行ってるのも、それがうっとおしいからみたい。おとんとしては東大阪の製品として売り出したいみたいなんやけどなぁ」
「……まさか量産する気なのかな?」
ヒロシの考えは今一つ分からない。
だが、ミオはそれを今更止めようとは思っていないようだった。
「まぁ、一回地球救ったんやし。好きにやらせとったらええんちゃう?一先ず大学までの学費工面してくれたら、もうウチは何でもええわ。この近辺にも活気が出てきてるしな」
ミオはそう言うと苦笑する。
確かに、この事件を通じて、東大阪の、そして日本のモノづくりに大きな注目が寄せられるようになった。
この近辺にも新しい工場が建とうとしている場所が増えた。
「オーダンナー」はそういう意味でも、世界中の復興の足掛かりの象徴になっているのだ。
「あ、その話で思い出した! お向かいの工場跡に新しい事務所が建つみたいで、挨拶に行ってこいって言われてたんや! ミオちゃんちょっと待っとって、すぐ帰って来るから!」
そしてミオは、いくつかの町内会の書類を抱えて、駆け出して行った。
地球を救った少女は、もうすっかり、普通の女子高生に戻っていた。
「……やっぱり、工場は継ぐのかな?」
チカはそんな事をつぶやきながら、お向かいに走っていくミオを見送った。
暗闇に閉ざされた部屋。
その中に、ガイ・アーツ、リャク・ダーツ、デマ・ゴークの三人がいた。
彼らは円陣を組み、タブレットの画像を覗き込んでいる。
そこには憎きスーパーロボット「オーダンナー」の姿が映し出されていた。
「宇宙船は失ったが、我々はまだ諦めてはいない。この二ホンという国のどこかにあるという「オーダンナー」を探し出すのだ!」
ガイの言葉に二人が頷く。
「私の技術があれば、宇宙船の再生も可能であります。まずは「マイドリウム」の奪取を!」
デマが、そう声を上げた。
そう、機械は失われたが、彼らにはまだこの地球にはない知識がある。
「邪魔するものは私が排除してみせましょう。同志ガイ、何なりとお申し付けください」
リャクはそう言うと深々と頭を下げる。
ガイはそれに満足気に頷いた。
「我々は、まだ負けてはいない。憎き「オーダンナー」に死を! そして我々が、この星の支配者となるのだ!」
ピンポーン!
そして、鳴り響く呼び鈴の音。
ここは誰にも知られてないはず。
だが、繰り返し押される呼び鈴の音に、ガイは舌打ちしながら振り返り、扉を開ける。
そこには、一人の少女が、書類を持って立っていた。
「どうも!向かいの天王寺製作所の者です。本日引っ越してきたという事で挨拶にきました」
「あ、どうも、これはご丁寧に」
「これが、ゴミ出しの日、で、これがこの辺の町内会の案内状です。トラックが多い時は交通トラブルが多いんで、この辺の決まりごとが書いてあります。また都合悪かったら言うてください」
「ありがとうございます」
ざっと、書類を渡されて、丁寧に礼をするガイ。
そして顔を上げると、少女は不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「なんかえらい顔青くない?……あと、どっかで会いましたっけ?なんか声を聴いたことあるような……」
「いやいや、そんなはずは……ちょっと、疲れているんですよ。……ええ、引っ越しで」
ガイが取り繕うと、少女はそうか、なにか引っかかった様子で頷いた。
「まぁ、暑い中の引っ越しですから、倒れんようにしてくださいね」
と笑顔で言い残し、暑い日差しから逃げるように、向かいの工場に駆け込んでいった。
「確かに聞いたことあるような……」
ガイは、そう呟きながら、事務所の扉を閉めた。
ひとまずこの肌の色はカモフラージュをすべきだろう。
ガイは暗闇の中、改めて二人に指示を出した。
「よし!作戦開始だ!まずは「オーダンナー」の開発工場と秘密基地を探し出すのだ!」
三人は、新たなる決意をもとに、地球征服への計画を進め出した。
一つの神話が終わり、人々は皆それぞれの夢へと進んでいく。
そして、忍び寄る新たな危機に、ミオもチカもまだ気づいてはいなかった。




