到達、阻止限界点
宇宙船、ハサン号はこの日、地球の代表を名乗る団体から、通信を受け取っていた。
「同志ガイ、地球の代表を名乗る者から通信であります! 彼らは正式に降伏を申し出ております!」
通信席のデマが声を上げるそれに、ガイは安堵のため息を漏らした。
「あの星のやつら、ようやく負けを認めたか……。まったく、強情な民族だ」
「苦労して、ここまで小惑星を運んできた甲斐がありましたな」
そしてリャクが、喜びの声を上げる。
それに、ガイは大きく頷いた。
「二人とも、傷を癒したうえでのこの大仕事をよくやってくれた。長かった我々の戦いも終わる。早く「マイドリウム」を手に入れ、この船にあるゲート設置機能を使って、母星に帰ろう。そして我々は、改めてこの惑星を植民星とし、大金と名誉を手に入れるのだ」
「はい!」
敬礼するデマ、むせび泣くリャク
思えばあのよくわからない星にたどりついてかれこれ一年、ずいぶん苦労させられた。
この船の設備も、メンバーの精神もそろそろ限界だ。
いい加減、この状況を早く終わらせなければならない。
ガイは、あらためて気を引き締めた。
「いろいろ間違ったのかもしれないが、ようやくここまで来たのだ。気を抜くな。どこの星でもはね返りは居るものだ。特にスーパーロボットを持つ二ホンとかいう部族は油断ならんぞ」
ガイがそう言うと、デマが何か気にかかるような事がある顔をした。
それに、ガイは何か不吉なものを感じて、デマに尋ねる。
「どうした?同志デマ」
ガイがそう聞くと、デマは通信記録を確認しだした。
「……それが、その二ホンとかいう部族なのですが、スーパーロボットの引き渡し要求に意味不明な返信を送って来ておりまして……」
「なんと言っている?」
「「バカメ」と……それのみを返してきているのであります」
それにガイも、リャクも目が点になった。
「……どういう意味だ?翻訳ミスでは」
いぶかしがるリャク、だがデマは首を振る。
「短いので何とも言えませんが、何度翻訳しても、罵倒語の一種としか……ですので混信かと思い放置していたのですが……」
「何を考えておるのだ?何かの暗号か?」
まったく理解できない。
ガイは首を傾げたが、次に鳴った警報で、全員がやはり事態は解決していないことを悟った。
そして、慌ててセンサー類を覗き込んだデマが、驚きの声を上げる。
「強烈なエネルギー反応が、こちらに向かってきています。パターン青!「マイドリウム」のエネルギー反応です!なぜこんな所に?」
「あのスーパーロボットか!」
ガイはコンソールを感情の赴くまま殴ると、二人に戦闘準備を下令した。
ちょうどその頃、ミオは地球から離れて数時間が経っていた。
しばらくは、無重力の感覚を楽しみながら眠りこけていたが、突然の通信に叩き起こされたところだった。
『ミオ君そろそろ減速を始めてくれ』
その言葉に、ミオは慌てて周囲を見回す。
「え?でも目的の小惑星なんかどこにも見えへんけど……」
そうミオはつぶやいたが、返事が無い。
どうやら、あまりに遠いため、タイムラグがあるようだ。
何しろ宇宙では上下左右が全く分からない。
どうしたものかと周りを見回していると。やっと返事が返ってきた。
『宇宙での距離感は地球とはちがうのだ。10キロ程度の小惑星など目視で確認できた瞬間にすれ違ってしまう。今から表示される方向にむかって飛べ。地球に向かって飛ぶイメージだ』
「……なんか変な感じやなぁ」
ぶつぶつ言いながら、ミオは指示通り、地球に向かって飛んだ。
「オーダンナー」は以前よりもさらにイメージ通り動くようになっている。
加速すれば、噴射して思った方向に加速する。
それは、もはや大きな宇宙服と言ってもいい状態だった。
やがて、地上から送られてきたマーカーを頼りに、足元に目的の小惑星が豆粒ほどの大きさで見えてくるようになった。
それは、ミオが減速していることもあって、ゆっくり近づいてくる。
やがて、小惑星は「減速する」という意味が理解できる距離まで、近づいてきていた。
位置を合わせ、減速しながら、小惑星に近づいていく。
やがてそれは、小さな岩から、大きな島のようなものと認識できるようになってきた。
そして、減速し続けた「オーダンナー」は小惑星にふわりと着地する。
「なんか、上下の感覚があるって、やっぱりほっとするなぁ」
ふわふわするが、やはり上下の感覚があるのがありがたい。
ミオは長時間の飛行を終えた気になって、小惑星の表面でほっと一息ついていた。
そして周囲を見回しているうちに、安野から通信が入る。
『油断しない事だ。ミッションはこれからだ。今から指示する方向に向かって小惑星を「押して」もらう、敵はすでにこちらを確認している可能性がある。警戒を怠るな』
「了解」
すでに会話する気が無くなった、ミオは独り言のように返事を返した。
これからは、指示を仰いでいる暇すらないかもしれない。
ミオは、小惑星の表面を滑るような姿勢で飛んだ。
一応重力らしきものはあるが小さいようだ。
だが、方向の認識や身を隠すと言った行為にこの小惑星は無視できないものだった。
『ミオ、「クラバーン」を射出するんや、一歩先を偵察させるにはちょうどええ』
そして、タイミングが妙にずれた父からのアドバイスが飛ぶ。
多分思い付きだったのと、通信の時間差だろうが、ミオはなるほど、と手を叩いた。
たしかに、敵に出くわすかどうか先が見えるだけでもありたい。
ミオは、バックパックから「クラバーン」のうち一体を取り出すと、ワイヤーの付いたそれを持って大きく振りかぶった。
「よし!まずは偵察。行ってこーい!」
足を振り上げた派手な投球フォームで「クラバーン」を放り投げる「オーダンナー」霊子力の力が宿ったか、それは小惑星の地平の彼方に飛んで行く。
やがてその映像が、ミオの視界にもワイヤー越しに伝達された。
遥かに続く、岩の地平。
重力が微細なためカメラはどこまでも飛んで行く。
そして、それは岩の地平の向こうに確かにいた。
葉巻型の巨大な船。
それは、岩の周辺を、何か探しながら飛んでいるようだった。
一瞬の閃光、途切れる通信。
「やっぱり、ただ隕石をどかして帰るだけやなさそうやな」
ミオはカメラの設定を切り替えながら、戦闘準備に入った。




