せめて、オタクらしく
一週間後、オーダンナーは改修を終え、いよいよロケットに積み込まれることになった。
明日には、ミオも「オーダンナー」に乗り込み打ち出されることになる。
ここ数日は宇宙飛行士としての簡易的な健康診断や、宇宙飛行士としての訓練と勉強を詰め込み教育されていた。
本日はようやく改修が終わったコックピット内での最終チェックである。
ミオは宇宙用として大幅に改修されたコックピット内に乗り込み、その変わりように目を見張る。
「打ち合わせで聞いてはおったけどえらい変わりようやなぁ」
もともと、エアバッグがクッションとして敷き詰められていたが、それに加え、色々なものが所狭しと付け加えられている。何なら外見以上に様変わりしているだろう。
それに、ヒロシはいつものドヤ顔で胸を張った。
「密閉処置と酸素供給と、温度コントロール、食料にトイレまでこのスペースに詰め込んだからな。これで正真正銘の宇宙用や」
「宇宙服一つ、という訳にはいかないんですね」
チカも、その様子に感心していた。
技術協力があったとはいえ、良くここまで仕上げたものである。
「むしろミオ用の宇宙服を作る方が手間がかかる。なんでも小型化するのは技術がいるからな」
なるほど、確かに、これだけの装備を宇宙服にまとめてしまうには時間も技術も足らないのだろう。ひとまずやれるものでできるだけの事をするとこうなるという話のようである。
「オーダンナーも無重力という事でHKK駆動を全身の駆動系に採用し、手足と背面にイオンエンジンを内蔵した。追従性も向上、これで宇宙飛行も完璧っちゅわけやな! その気になったら、手足をバラバラに分解してオールレンジ攻撃も可能やで」
「……どんなイメージしたらこんな風に動くねん」
相変わらずの、調子に呆れ顔のミオ。
ひとまず先ほどのテストでイオンエンジンと手足の駆動は確認したが、流石に手足をばらすイメージなど考えようもない。
まぁ、出力次第でビームが出るんだから何でもありな気がするが。
そんな事を考えながら、ヒロシが今度は小さなカメラを持ってきた。
「これは?」
チカが尋ねるとヒロシは、ミオ達に見せた映像で手のひらサイズのそのドローンを大量に詰め込んだ箱を示した。
それは、今まさに「オーダンナー」の背部に装着されている所だった。
「クラスタード・ライトアレイ・ブロードキャスト・オートーノマースネットワーク。通称「クラバーン」や! 今回は宇宙という事もあり、このオプションを緊急で追加した。 小型のものが状況に応じて射出され、ミオの活躍をばっちり中継するで!まー、宇宙は移動距離も長いさかい。ちょっとずつ捨てていく感じになるけどな」
「……そこまでしてライブ中継せなあかんの?」
流石にコックピット内で呆れ顔のミオ。
だが、ヒロシはそれに大きく首を振った。
「霊子力は、ライブの視聴者の感情に明らかに反応しとるんや、みんなの期待を力に変えるためこれは絶対必要になる。信じるんや、ミオ。地球のみんなに応援してもらえるから、「オーダンナー」は無敵なんやと」
「……まぁ、覚えとくわ」
相変わらずの父の誇大妄想だと言いたいところだが、確かにそう信じなければ都合がつかないことが多すぎる。
そして、この普通に考えたらあまりにも無謀なミッション。
そう言う話を信じなければ、やってられないという想いもある。
ミオは複雑な思いで、父の言葉に頷いた。
そして、いよいよ打ち上げ当日。
ミオは「オーダンナー」のコックピットに入り、カウントダウンを聞いていた。
『小惑星はすでに月軌道を越えて、地球に向かっている。申し訳ないが今日が時間的限界だ。小惑星でのミッション時間は計算上数時間も無い。くれぐれも迷子にならないように』
安野のミッションスケジュールの確認の声にミオは頷く。
ここ数日、必死に頭に叩き込んだ内容だ。
基本、行きはプログラムされた状態でほとんど流れていくだけだが、減速のタイミングなどはこちらで操作しなければならない。
もろもろ急造品な上に、ミオの精神に影響されやすいので、そうするしかなかったのである。
まさにぶっつけ本番である。
『ミオちゃん、頑張ってね』
通信から届くその声に、ミオは緊張していた表情を少し緩めた。
「とうとう地球を救うため宇宙へ行くんか……当たり前がええ言うてたのに、なんでこんなことになったんやろ?」
一体どこで間違えたのか?
そう言いたげなミオ。
だがチカはそんなぼやきにも返してきた。
「でも、ミオちゃんが戦ってくれなかったら、今頃地球はめちゃくちゃだよ」
それに、ミオは苦笑した。
「……そうやな、とりあえず地球を救わんと、元も子もないしなぁ」
彼女はそう言うと、大きく息を吸い込む。
結局誰かが、いつかやれねばならない事なのだ。
「ほな、ちょっと行って地球救ってくるわ」
ミオがそう言った5秒後、ロケットは宇宙へ向かって発射された。
「……行ったね」
足元総理は、ライブ中継での打ち上げが成功したのをネットで見届けた後、こうつぶやいた。
「あとは我々は見守るのみ。あとは野となれ山となれ、だな」
「首相、万が一失敗したら……!」
ここの所の心労ですっかり青白くなった幹事長がうめくように声を上げる。
首相はそれに、薄ら笑いすら浮かべて答えた。
「そうなったら、潔く、迅速に降伏するさ。奴らだって焼け野原の星など欲しくはあるまい……それにまぁ、見ようによっては「マイドリウム」を届けてやったと言えなくもない。後の事は、我々が腹を切った後で、誰かが何とかしてくれるよ。ここまで来たら、お互いが愚かでない方に賭けようじゃないか」
そう言うと、首相は隠し持っていたウイスキーを注ぎ、高く掲げた。
今日ばかりは、禁酒を破ってもいいだろう。
そう思っていた、首相に、今度は官僚が大慌てで部屋に駆け込んできた。
「首相! 国連が全会一致で、宇宙人への降伏宣言を行いました。日本政府に、決定に従い、「オーダンナー」の譲渡を行うよう重ねて要請がなされています!場合によっては、武力行使も辞さず、と!」
その言葉に、幹事長はさらにうずくまった。
「事実上の宣戦布告ではないか……!」
そう呻く幹事長の姿を、足元首相はグラスを傾けながら静かに眺めていた。
そして首相は小さく頷きこうつぶやく。
「……「馬鹿め」だ」
「は?」
思わず、首相の言葉を聞き返す官僚。
日本国首相、足元総理はもう一度大きな声で指示を下した。
「「馬鹿め」と言ってやれ!」
一度言ってみたかったから言った。
後悔はしていない。
後に足元首相は、この時の事をそう語った。
「オーダンナー」が無事、衛星軌道から離れたと報告があり、首相の暴言が、全世界を震わせたその時刻、大泉防衛大臣は、見覚えのある男と廊下でばったり出くわしていた。
そう、なんだかんだで最近よく顔を見た男。
確か、内調の高橋とかいう男だ。
顔を覚える政治家としての記憶力が、彼のプロフィールを呼び覚ます。
「おや?てっきり君は彼らと種子島に行ったかと思っていたが?」
大泉がそう声をかけると、高橋は愛想無く、
「宇宙は専門ではありませんし、別に仕事がありましたので」
と答えた。
「そうか」
と大泉がその場を立ち去ろうとすると、高橋は
「大臣、少しよろしいですか?」
と、前に立ちはだかった。
どうやら、ここで会ったのは偶然ではないらしい。
大泉は、そんな高橋に笑顔で、
「コーヒーでもいかがかな?」
と、近くの自販機を指さした。
彼は小さく首を振り、それを固辞する。
彼は大泉がそう、と返事をして自販機へ歩いていくと、あとを追いかけつつ話を始めた。
「色々調べさせてもらいました。「スーパーロボット作ろう会」に大臣はずいぶんと以前から資金提供をなさっておられたようだ。組織の意思決定はあのイカれたおっさんだが、資金上のフィクサーはあなたと言って良い」
「さすが首相。伊達に永田町の頂点にいる人ではありませんな」
大泉は、そう言って高橋の問いを肯定した。
「昔からファンでね。個人的に支援させてもらっていた」
何だそんな事か、と言いたげに大泉は自販機のスイッチを押す。
だが、
「内閣の意思決定に度々介入したのも、その為ですか?」
との言葉に、大泉はさすがにほんの一瞬、缶コーヒを手に取るその、動作を止めた。
そして、小さな声で笑いながら、コーヒーの蓋を開けると、まるでいたずらがばれた子供のように彼は語った。
「見たかったのさ」
それが、大泉の端的な回答だった。
「自衛隊の損耗を防ぎ、市民の犠牲を防ぐ……建前はいろいろあるが、正直に言えば見たかったのさ。女子高生の乗るロボットが宇宙人と戦う姿、それが英雄として神話を作る様子を。……まぁ少し熱がこもり過ぎたかもしれないがね」
「……それが、一人の少女に全地球の命運を背負わせ、宇宙に送り出す理由ですか?」
高橋の口調は詰問するようなものに変わっていた。
だが、大泉はその笑みを崩さない。
「みんなが、それを望んでいるのさ。私はそれに従ったに過ぎない」
大泉はそう言って、無邪気に笑った。
「危機に対して、大衆は救いを求めるものだ。女子高生の乗るスーパーロボット。救世主としてこれ以上の素材はあるかい?子供の頃みた、あの神話を今目の前で見てみたい……スーパーロボットに魅せられた世代の人間なら、そして宇宙人の侵略を受けていたとするならば誰だって、正義の味方の出現を願うはずだ」
政治家らしい雄弁さで、大泉はそう語った。
さながら舞台俳優のような、優雅な仕草、通る声。
「……君は違うのかい?高橋君」
そう言う防衛大臣に、高橋は一言、こう返した。
「……生憎、私はリアルロボット派ですので」
……ああ、それなら仕方ない。
大泉は、高橋の不満がようやく理解できたようだった。




