落ちてくる空
ミオはオーダンナーを背に大量のカメラとマイクの前に立っていた。
パイロットスーツの彼女は、硬い表情で周囲を見回している。
「天王寺ミオさん!今回の勝利!どのようなお気持ちですか!」
「いえ、その、うまく行ってほっとしてます」
「やはり、地球を守るという使命感でこのような危険な任務を?」
「私は私の立場でできるだけの事をやったまで、です」
「やはり、こうなったのはお父様の影響があるんでしょうか?」
「……そこは、まぁそういうことでいいと思います」
ガチガチの表情のまま、よそ行きの顔で当たり障りのない事を言うミオ。
そんなミオの姿が、テレビで放映されている。
ミオは、オーダンナー整備中の仮設ハンガーの休憩所で、それを苦々しく眺めていた。
「しくじったわー。まさか撤収するところに押し寄せてくるとは思わんかった」
「ミオちゃんガチガチじゃない」
隣でそう言ったのは、同じくテレビを見ていたチカである。
ミオはそれに、
「もう、それは言わんとって」
と、忌々しそうにテレビを消した。
昨日の戦闘終了直後は、緊張感から解放されたことで油断しきっていた。
立ち入り禁止が解かれていたことを忘れて、「オーダンナー」から降りてしまったのである。
おかげで逃げ出すこともできずに、インタビューで当り障りのない回答をする羽目になった上、報道陣に顔を晒すことになってしまった。
テレビでは「噂の美少女女子高生パイロットインタビューに激白」などと繰り返し映像が流され、二人とも、一件落着と思いきや、アンゴルモア星人の人類抹殺宣言もあって、結局自宅に帰れないでいた。
女子高生の乗る連戦連勝のスーパーロボット。
いまだ、敗北を受け入れない侵略者。
本人たちの意思はともかく、ミオ達への期待はますます膨らむ一方だった。
「言えんことだらけで不意打ちでカメラ向けられたら、そらあんな顔になるわ。全世界に親父のクズっぷり話して、ウチに何の得があるねん」
「……ああ、それは話しちゃダメだね」
ヒロシは散々露出しているので、いまさらな所はあるが、家庭内事情をメディアに話していい事があるとは思えない。
それこそさらに面白がられて、さらに一般生活からは遠ざかる可能性があるのだ。
「そもそも、なんやねん「美少女」とか頼んでもないのにつけやがって。こっちにはファンレターも送られてきてないっちゅうねん!」
「まぁ、人気商売じゃないんだから……ねぇ?」
「地球の平和守ってんのになんでこんな無駄に目立たなあかんのやろ?このままやったら女子高生の肩書も無くなってまうわ」
有名になりたい人間と、そうでない人間がいる。
ミオの場合、親があの調子なので、完全に後者である。
だが、状況は彼女を平凡な日常に返してくれそうになかった。
「いや、無駄という訳でも無さそうやぞ」
彼女たちの会話を聞いていたのか、近くでベルタ、アポロと何かのデータをパソコンで覗き込んでいたヒロシが声をかけた。
それにミオとチカがきょとんとした顔をする。
「インタビューに答えて、なんかええことあるんかいな?」
そう言う、ミオにヒロシは手招きをする。
二人がのぞき込むとそこには、二つのグラフが表示されていた。
「霊子力の出力を測るためにな。今回は「オーダンナー」にゲージを付けといたんや」
「ああ、コックピットについとったあの宇宙を終わらせそうな感じのゲージか……」
「そうや、霊子力の発現のパターンを掴もうと思ってな。ワシもただ、いたずらに実況をみとったわけやないんやで」
「モノは言い様やな」
そう言えば、前回の戦いの最中、父は要らんことばかり言っていた気がする。
みんなが、勝とうとしているときに何をやっているのかと思ったものだが、どうやら親父は親父なりに考えがあったらしい。
毎度この親父がこういう事するのは的外れなのだが。
また始まった、と呆れ顔のミオ。
だが、ベルタが。
「興味深いデータデス」
と言うと流石に、無視するわけにもいかなかった。
それにヒロシは解説を始める。
「霊子力の強力な発動条件がわからんでここの所いろいろ試しとったんやがな。小さい子供を泣かしてみるとか、超能力者を連れて来るとか」
「……どっから連れて来たんや」
子供はともかくこの、インド人らしき怪しげな自称超能者の少女をどこで捕まえて来たのか、いやそもそもそれは本物なのか?
金があったのかどうか知らないが、怪しげな実験をする父に呆れるミオ。
だが、ヒロシはお構いなしにページをめくった。
「天候気候、ミオの体調まで加味したが、やはりなんだかんだ戦闘中が桁外れに出力が高かった……そしてある仮説に基づいて計測しとったデータがぴたり当てはまったんや」
そしてデータは先ほどのグラフに戻る。
それは、ほぼ同じグラフを描いていた。
それにチカも首を傾げる。
「このグラフは?」
「上が、霊子力エンジンの発電量、下がライブ配信のリアルタイム視聴者数や」
「え?それって……」
目を丸くするチカ。
ミオもそれに再度注意深く、グラフに目をやった。
「最大値が、霊子力ビームを放った瞬間から、妨害電波を食らう直前、興味深いのがその後や、通信が切れてライブカメラの映像がおかしなった瞬間、急激にパワーが落ちとる。これは練習の時のちょっと上くらいの数値やな」
「……確かに、なんか動きも鈍なったような」
ミオはその数値に実感があった。
確かに、妨害電波を食らった瞬間からしばらくは反応が鈍く、動くのがやっとという状態だった気がする。
大阪城内では敵が見えないという事もあり、派手な技がほとんど使えなかった。
「この後、望遠カメラによる映像に切り替わって数値はやや回復したんやが、通信妨害を食らってる最中はほとんど回復せんかった。この辺だけ、視聴者数とパワーの乖離が出とる」
「つまり、ウェブを通じての応援が、霊子力の力になっとるってこと?」
「そう言う事になるな、多分映像による臨場感もある程度効果には貢献しとるかもしれん」
ミオの言葉をヒロシとベルタ、アポロは首肯した。
「『マイドリウム』は霊的物質をエネルギーとしています。意志の力が一方向に向けば、エネルギーがその方向に発現するようなのデス」
アポロの言葉にミオは唸った。
チカもそれには、納得がいったようだった。
「つまり、あの爆発力は、日本中。もしくは地球中の意思の力が働いた結果ってことですか。だとしたら。確かに人気を集めるのも意味はあるのかも……。」
いまだ経験則だが、確かに実感がある。
ミオは、あの苦戦した大阪城の攻防をグラフと共に思い出し、やはり、顔出しは必要なのか?と考え込んでいた。
一体どうすればいいのか?
そんな事を考え込んでいたミオ達に、遠くで調整をやっていた、「スーパーロボット作ろう会」の長田さんと荒田さんが慌てて駆け寄ってきた。
「大変や!天王寺さん!ネット見てくれ!」
荒田さんの声にヒロシは慌ててパソコンをウェブに切り替える。
そのトップニュースに、一同は驚愕の声を上げた。
「隕石落としやて?」
それは、地球に隕石を落とすという警告と、軌道の提示。
それは文字通り、人類を絶滅させるには十分な方法だった。
異星人が隕石を落としてくる。
この報告を足元首相はいつもの場所、内閣危機管理センターの会議室で聞いていた。
その報告は、まさに天文規模のものだった。
「先ほど、アステロイドベルトから異常な軌道を描いて地球に接近する小惑星が観測されました。直径10キロメートル規模。これが衝突すれば、衝突地点のみならず、全地表に衝撃波が届きます。それに伴う気候変動や生態系への影響をなどを加味すれば、文明崩壊規模、人類滅亡という警告も脅しではありません」
震える手で報告する危機管理官の説明に重苦しい空気が流れた。
首相はそれに、うんと頷くとうつむく。
「我々を全滅させてから、「マイドリウム」を入手する気か。どうやら本当に、最終手段を使う気でいるらしい」
「首相! どうなさるんですか!」
止まらぬ脂汗をぬぐいながら、幹事長が問いただした。
だが、足元首相は落ち着いた様子でまたうん、と頷く。
「君もアチャラ星人の報告書は見ただろう? 多分、どのみちこうなっていただろうし。今その場を取り繕っても、またこういう方向になっていくだろう。人類全滅、奴隷化、はたまた星間戦争の開始……どのみちこの内閣は生贄になるんだ……だったら、できる限り抵抗しようじゃないか。隕石が落っこちる前に降伏するならすればいい、私らの首はその時責任を取るために取っておこうじゃないか」
「……首相」
成功したのかしくじったのかすら分からないが、後戻りも、逃げも隠れもできない。
ここで責任を取らないという選択肢はありえないのだ。
幹事長、そして内閣一同は大きく頷き、その意志を固めた。
そして、それを確認すると、この場にいた一番の若手に声をかける。
「と、いう訳だ、大泉君。まかせていいかな?」
大泉防衛大臣は、その言葉に不敵な笑みを浮かべた。
「ご安心ください。そのための「オーダンナー」です」
大泉は一人、とても楽しそうだった。
隕石落下勧告の報を受けて、6時間後。
ミオ達に要請が入り、「オーダンナー」は急遽分解、トラックへの積み込み作業が始まった。
突然やってきた大量のトラックと、あわただしく動く「スーパーロボット作ろう会」の面々。
突然、荷物をまとめて移動するように指示された、ミオとチカは宿舎から外に出てその光景に驚きを禁じ得なかった。
「一体どこへ行くん?」
そう尋ねると、指揮を執っていたヒロシが、にやりと答えた。
「決まってるやろ。「オーダンナー」で宇宙へ行くんや!」
一体どうやって?
その答えは、どうやらトラックに乗った、その先にあるようだった。




