大阪城の攻防
そしてその日の午後。
刀と盾を持ったオーダンナーは大阪城公園の南西、大阪府警の前に現れた。
周囲には、規制がかかっているはずなのに、カメラを抱えた報道陣や野次馬が集まってきている。
「……やりにくいなぁ。巻き添え食っても知らんで」
仮設ハンガーの中でコックピットに乗り込んで正解だった。
ミオがコックピット内でそうぼやくと、今度は頼んでもいないヒロシの激励の声が通信で届く。
『安心せい! 放送はネットを通じて全世界生放送中やで!』
「……プレッシャーかけてることに気づけよ」
はしゃぐ父に、ミオは小さくぼやいた。
続いて、高橋から段取りの確認が入る。
『いいか、公園内に入ったら戦闘開始だ。ベルタとアポロの『デッチ甲』『デッチ乙』が最初に索敵を行いながら、進み、「テ・ダイ」が露払いをする。「オーダンナー」はそれに続いて南方向のルートを目指せ』
こういう時は現実的なチームプレイを指揮してもらえる方が安心する。
「よっしゃ! いくで!」
ミオは高橋の言葉に頷くと、前進を開始した。
先行した「デッチ」たちのデータがリンクしてミオのディスプレイにマーカーが表示される。
どうやらそれぞれが、小型ドローンであるらしい。
こちらの動きに気づいて群がってきたそれは、マーカー表示によってかなりの数がいることが分かった。
『よし!こっちも見つけた!ドローンは私に任せて!』
そして、チカからの通信が入る。
ミオが空を見上げると、上空から侵入してきた「テ・ダイ」の機関砲が火を噴いた。
たちまち巻き上がる土煙と、吹き飛ぶドローン、そして砕け散る樹木。
「デッチ」とリンクした照準は恐ろしく正確で、ミオの視界から敵を示すマーカーが次々と消えていく。
そして、盾を前にしながら公園内に侵入していく「オーダンナー」。
行く手に群がるドローンの群れに、今度は「テ・ダイ」からミサイルが発射された。
吹っ飛ぶドローン群と公園の樹木。
さながら戦場のような光景に、ミオはさすがに呆気に取られていた。
「これ、ウチいらんのと違う?」
そうぼやきながら、ミオはさらに前進した。
『この戦いは、お前がキングだ。易々と前に出てこられては困る』
高橋はそういってさらなる攻撃を指示する。
だが、そうもいかないらしい。
『大変や!』
突然、通信越しに悲鳴にも似た叫び声が上がる。
それは作戦室で様々なデータをモニターしていたヒロシの声だった。
「なに?こっちに異常はないで?」
なにかの罠か?
慌てて周囲を見回すミオ。
ヒロシは、端的に事情を報告した。
『生中継のコメ欄が盛り下がっとる! 「オーダンナー」を出せと!』
「知らんわ!」
高橋とミオはほぼ同時に叫んでいた。
『いや、ここは弾丸も、タダやないし。特訓の成果を試しにやるのもええやろ? みんな期待しとるし、ここは一発、頼むわ』
「……あのな、ウチは大道芸人ちゃうねん」
うんざりしながらコックピットで肩を落とすミオ。
だがそれは突如向こうの爆炎から飛来してきた飛行ドローンによって中断された。
チカが撃ち漏らしたと思われるそれらは、こちらに向かってレーザー光線を放ってくる。
「危ない!」
慌ててシールドでガードする「オーダンナー」。
鏡面処理がされた「オーバーン」はレーザーをはじき返したが、掠めたレーザーが周囲の草花を燃やす。
ミオはその攻撃を受けながら、半身を捻り、即座に反撃に転じた。
「真空斬り!」
掛け声とともにバーン刀を横に薙ぐ「オーダンナー」。
イメージがエネルギーに変わり、衝撃波を起こす。
たちまちドローン群は、切り裂かれぶつかり、落ちていく。
そして、ミオはさらにオーダンナーの胸を開き大声で叫んだ。
「霊子力ビーム!」
掛け声とともに、なぜか「オーダンナー」の胸部から怪光線が打ち出された。
光は周辺を一瞬で薙いだかと思うと、周辺に激しい爆発と土煙を巻き上げる。
これぞ、アニメ漬けで過ごした日々と、昨日行った淀川での特訓の成果。
不安定ながら、怪光線くらいはなんとか放てるようになっていた。
しかも、練習の時よりいい感じに威力が高い。
もちろん、ヒロシは大はしゃぎであった。
『やったぞミオ! コメ欄大盛り上がりや! 投げ銭も来てるで!』
もうこいつは放って置こう。
ミオはもう父の声援にいちいち返事を送る気が無くなっていた。
そんなミオに、高橋から通信が入る。
『すまん、公園事務局から、その辺にある桜の木を何とか保護してくれないかと……』
「だから文句は敵に言えって!」
頼むから有益な情報をよこせ。
ミオは、歯ぎしりしながら。前進した。
そして南側の道が、見えてくる。
そこは並木道の坂。
緩やかなスロープ状の道が外堀から天守閣に続く道を形成している。
距離にして二、三百メートルと言った所。
待ち伏せには格好の地形がそこにはあった。
そして、それは突然やってきた。
「オーダンナー」の背後で爆発が起こり。強烈な衝撃がミオを襲う。
後方から突然、突き倒された格好になったミオは、コックピット内でエアバックに勢いよく顔をうずめた。
前方に転倒したらしく、視界が地面になる。
「なんなん?」
狼狽えるミオ。
それに高橋は、即座に状況を分析していた。
『おそらく天守近くからの砲撃だ!ドローンか何かでこちら観測しているぞ。動け!』
ミオはその声に、慌てて「オーダンナー」を起き上がらせた。
再び近くで降り注ぐ砲弾。
つい先ほどまでいた場所に正確に落下したらしい。砲弾は、またミオとオーダンナーを揺さぶった。
「どうにかならんの?」
盾を頭に掲げたまらず後退するミオ。
それに答えたのはチカだった。
『私が空から何とかしてみる。待ってて!』
「お願い!」
流石に見えない場所からの砲撃はどうにもならない。
そちらは「テ・ダイ」のチカに何とかしてもらうしかないだろう。
ミオは走りながら、混乱して判らなくなった方角を確認した。
そして、振り向いた瞬間。
背後から飛んで来た強烈な光がバーン刀に命中し、一瞬で解け落ちてしまった。
振り向かねば、危うく胴体をやられていたかもしれない威力。
光が来た方向を向くとそこには……
「え?」
いない?
視界には敵を指すマーカーのみがある。
「なにこれ?バグ?」
理解不能の状況に頭が真っ白になるミオ。
そして
『動け!』
と叫ぶ、高橋の声に反射的に反応した瞬間。光の帯が再びミオのすぐ横を掠めた。
「え?一体んなんなんあれ? 全然見えへんねんけど!」
逃げながら悲鳴を上げるミオ。
それに高橋とアポロから通信が入る。
『おそらく光学迷彩だ。肉眼では恐ろしく見えにくカモフラージュしている』
『「デッチ」のセンサーには見えてマス。サーモセンサーに切り替えてくだサイ』
「コウガク……何やそれ? 聞いてないで!?」
叫ぶミオの横でまた砲弾が炸裂した。
どうやら、四の五の言っている暇はないらしい。
ミオは舌打ちしながら、「オーダンナー」のセンサー表示を切り替えた。
熱感知センサーで見渡す周囲は爆風と残骸で熱源だらけで真っ赤に染まっている。動きながらミオは必死に、動く熱源を探した。
そして、振り返った瞬間、今度は通信に強烈なノイズが走った。
「今度は何?」
唖然とするミオの目の前で「デッチ」が迷走し、落下してくるのが見えた。
いくつかのセンサーは使用不能に陥ったらしい。
「……通信妨害?」
それはミオにとって、手足をもがれたに等しかった。




