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商工戦士オーダンナー  作者: 宮城 英詞
大阪城の攻防

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天下の名城

『いい加減にしろ!』


 決闘の話が出てから20日目、ガイ・アーツは通信が繋がるなり、怒声を浴びせてきた。


五回の居留守を使い、久しぶりに通信に答えた足元首相は、それに爪を切りながら答える。


「はて?何の話ですか?」


 その言葉に、ガイはわなわなと震えだした。


 青白い顔が、さらに青白くなる。


 もしかして血は赤くないのかな?


 足元はそんな事を思いながら親指と爪を切る。


『とぼけるな!お前らわざと時間引き延ばしているだろう』


「いやいや、「こちらの準備ができ次第」という事で、お話した通りですよ?何しろ我が星の命運がかかっておりますから。入念に準備を……」


『もう待てん!』


 向こうでどうやらガイは通信機を殴りつけたようだった。


 画面が一瞬歪み、音声にノイズが走る。


 足元はそれに、眉をひそめながら。爪を整え始める。


「おや? 何か待てない事情でもおありでしたか? これは申し訳ない。どのようなご事情で?」


 その言葉に、ガイはただ歯ぎしりするだけだった。


 多分こちらには言えない事情なのだろう。


 だが、アチャラ星人のもたらした情報であらかた察しがついていた。


 そしてどうやら彼らの推測は当たっていたようだった。


『この星の自転一周期までに攻撃が無ければ、無差別攻撃を開始する!』


 ガイがようやく口にしたのは、相変わらずの脅しの言葉だった。


 それに、足元は爪を磨きながら、ことさら困った顔をしてみせた。


「はぁ。それは困りましたなぁ。せっかくこちらが準備しているのに……。そう言う事なら、こちらで一度相談して、出撃がいつできるか問い合わせますので。それまでお待ちいただけますか?」


『返答にどれくらいかかる?』


「うーん。どうでしょうなぁ。それをまず聞いてきますので……そうですなぁ。明日は我々は休みの日ですので、まぁ、週明け、三日後の夕方までには……」


『待てるか! 自転一周期だ! 覚悟しろ!』


 わざとゆるゆる答える首相に、ガイは一方的に通信を切った。


 その様子に、足元はにやりと笑う。


そして、パソコンの向こう側にいた防衛大臣を見た。


「いやぁ、あちらさんもだいぶ焦っとるねぇ。大泉君」


「はい、作戦は成功のようです。補給が切れたか、疲労が蓄積してきているのでしょう。そろそろ頃合いかと」


 実に愉快そうな首相に、大泉は不敵な笑みを返した。



「ではやるかね?」


「はい。意表を突き。直ちに攻撃を開始します」


 数分後、防衛省より、「オーダンナー」の出撃要請が出された。





「よっしゃ! やっと出番や!」


出撃要請を受け、ミオは、オンライン授業中であるのも関わらず、大声で叫んでいた。


とにかくこのバカバカしい半軟禁状態みたいな生活ともこれでおさらばだ。


ミオは、オンライン授業を一方的にログアウトすると、パイロットスーツに着替え、集合場所の駐車場に向かう。


 そこには、チカとヒロシ、アポロ、ベルタ、そして直接指示を伝えに来た高橋が集まっていた。


 全員集合したところを確認すると高橋は、大阪城の見取り図を広げ、状況説明を始める。


「時間をかけて相手の消耗を図る作戦に出ていたが。どうやら向こうも限界のようだ。よって、暴発して市街地に被害が及ぶ前に、こちらから打って出る」


「まるで巌流島やな」


 初めに話す高橋に、愉快そうに答えるヒロシ。


 だが、高橋はそれに表情一つ変えず、小さく頷くだけだった。


「心理的には優位に立っているとみられるが、今度の相手は油断してかからない方がいい。今度の相手は一筋縄ではいかない相手だ。何しろ相手は……」


「なんなん?」


 険しい表情で語る高橋に聞き返すミオ。


 返答は意外なものだった。


「ちゃんとした戦闘マシーンだ」


「え?どういう事?」


 ミオは高橋の言葉の意味が解らなかった。


「……あの、ちょっと待ってください。今まで倒してきたのは戦闘マシーンじゃないんですか」


 ミオが首を傾げていると、チカがそれに手を上げて質問する。


 流石チカちゃん、感じていた違和感をちゃんと言葉にしてくれる。


 そしてそれに対して帰って来たのは意外なものだった。


「そうだ、あれは戦闘用マシーンではない。一機目は採掘用のもの、二機目はクレーン付きの小型運搬船だ。アチャラ―星人の証言も、分解調査の見解も一致している」


「……そんな」


 唖然とする二人。


 考えてみれば、宇宙人の兵器が格闘戦を挑んでくるなど不自然話だ。


 そんな二人の前で高橋は、何枚かの写真をテーブルに広げた。


「ビルの上から望遠カメラで撮影した。天守閣付近にいたクモのような形をした多脚戦車が確認されている。恐らくもう一機。公園内のどこかにいるのだろう」


 それは天守閣前に構える大砲を積んだクモのような形をした戦車だった。


 これに、事前に高橋と話を聞いていたベルタとアポロが答える。


「私達にはこの兵器の情報無いデス。我々が知らない所で開発されていたかもシレナイ」


「多分、植民星を鎮圧するための兵器デス。ドローンを制御してマス」


 恐らく、アンゴルモア星独自のものか何かなのだろう。


やはり、敵は手加減なしのようだ。


 そして、ミオは周囲の物体から見たそのクモ型戦車さらに首を傾げた。


「えらい、小っさない?」


 どうも、普通乗用車のサイズに、大砲らしきものが載せられた程度の大きさしかない。


 足は何本かあるが、横に広がっており、それこそクモが姿勢を低くしたような形をしていた。


「宇宙船に搭載するという都合もあるのだろうが。元来兵器とは極力コンパクトに作るものだ。大きいほど攻撃を受けやすくなるし、燃費や小回りが利かなくなるなど様々な弊害が出てくる。戦艦大和ですら、巨大な大砲を積むのにあのサイズが必要だったにすぎない。二足歩行、それも人型の巨大格闘戦用ロボットなど、現実的にはナンセンスの塊だ」


「……それは、言われてみればそうやな」


 向こうのメカの優秀さのついでにオーダンナーの荒唐無稽さを吐き捨てるように言う高橋に返す言葉が無い一同。


 なぜこんな古臭いアニメのような事態に巻き込まれているのか。


 そう言いたげな高橋の本音が透けてみるような気がする。


 だが、自分の父が、趣味であんなものを作ってしまい、偶然人型だから、パワーを発揮できているらしいという事で、こんなことになっているが、高橋からしたら不条理そのものであるらしい。


 ミオはその辺に関しては高橋に同情した。


 お互い訳の分からない状況に巻き込まれたものである。


 そして今度は、先ほど広げた、大阪城の見取り図を指さした。


「立てこもっている場所も問題だ。何しろ天下に聞こえた名城。堀と石垣だけでも立てこもられるとかなり厄介な場所だ」


 彼はそう言いながら、大阪城の各所を指さし始める。


「北側、東西は強固な門と曲がり角が組み合わさり十字砲火を浴びせやすい作りになっている。ここを通過しようとすると、集中攻撃を食らいやすく、危険だ。さらに天守、石垣、櫓、門、堀は文化財なので極力破壊しないように、と文化庁から要請も来ている」


「……この期に及んで何を悠長な」


「私もそう思う」


 ミオのぼやきに高橋は言葉短めに同調した。


 多分、いろんな省庁から文句が来ているのだろう。


 だが高橋は、そんな事はすでに織り込み済みの様子でそのまま話を進める。


「と、いう訳で、南側から天守閣を目指すルートが、一番合理的という事になるだろう。南西側から侵入し、外堀の外側で、ドローンをできるだけ破壊して天守南東側のルートから天守閣を目指してもらう。このルートなら、道も広いし、門も少ない。比較的文化財の損壊も防げるはずだ」


 高橋が指し示したルートは、確かに門をくぐらずに、内堀の近くに至れるルートだった。そこを移動しながらドローンなどの敵はなるべく、城の外で倒してしまうという事らしい。


「なるほど、南側が弱点か。しかもこれなら、文句言われることなく戦えるっちゅうことやね?」


 そう言って頷くミオ。


 チカも、周囲に配慮した作戦に納得しているようだった。


 だが、高橋の顔の険しさは、そのままだった。


「……ところが、そうでもないのがこの城の厄介な所でな」


「と、いうと?」


 チカに聞かれ、高橋はもう一度城の見取り図に目を落とす。


「この手の中世の城塞には、あえて一方向防御の薄い個所を作るのが定石なのだ。平時の使い勝手の都合もあるが。これによって、戦闘時は意図的に敵兵を一方向に殺到させる意図がある。守る側は、門を固く閉じ、この地点で待ち伏せができる、という訳だ」


 その言葉に、流石にミオも城の構造と高橋の懸念が理解できた。


 固く閉ざされた城の中で唯一開いた一方向。


 そこで敵が待ち伏せている可能性があるという事なのだ。


 だが、ヒロシはそんな事、微塵も恐れていないようであった。


「なに。どんな罠があろうと、開眼した霊子力パワーで蹴散らすだけや!」


 強気の父にため息が出るミオと高橋。


 確かに、この前、オーダンナーは恐るべき能力を発揮したが、なにしろその霊子力パワーとやらの発動条件がアチャラ星人にすらさっぱり分からないのだ。


 人間の精神と言う不安定な物をエネルギーにしている上に、強力すぎてテストもうかうかできない。


 肝心のこちらの力が完全に出せるかどうかが不明瞭なのである。


 ヒロシのようにそこを当てにする気には全くならなかった。


「……やっぱ、楽勝とはいかへんみたいやな」


 ミオは父の発言を無視してこうつぶやいた。





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