オーダンナー驚異のHKK駆動!
『目覚めよ。リャク・ダーツよ。目覚めよ!』
遠い向こうから声がする。
リャク・ダーツは深い眠りから、意識を引き戻した。
ここは敵の惑星。
外には激しい雨音。
そして、雨が装甲に滴る音がひたすら聞こえる。
そう、自分は戦闘メカ「イン・フレー」のコックピットの中。
この声は……!
そこで、リャクははっとなって起き上がり、上官からの通信に答えた。
「申し訳ありません!居眠りしておりました!」
いつの間にガイ様から通信が来ていたのか。
ここの所ずっとこの宮殿を警戒し続け疲労が溜まっていたのか、全く気が付かなかった。
リャクは、恥じ入る気持ちで頭を垂れた。
『よい、あれからこの星の自転周期が15回巡っている。向こうから攻めてくると言っておきながら一体奴らは何をしているのか……』
「この星の人間の時間感覚がわかりません。水分の調達もままならず。食料も……」
リャクはさすがに時間による消耗を訴えざるを得なくなっていた。
慣れない、情報のない星。
狭い区域で食料の調達もままならず、ドローンに警備させているとはいえ、人間が二人しかいないのであれば管理だけでも骨が折れる。
捕虜生活から直行のリャクの疲労はいい加減限界が近かった。
『しかし、このまま打って出て、やみくもに消耗もできん。今は耐えるのだ!』
「はっ、なんとしても「マイドリウム」を手にし、母星へ!」
この執念だけが、リャクの気力の源だった。
彼は決意を再確認し、闘志を燃やした。
『ところで、同志デマ・ゴークはどうした?先ほどから返事が無いのだが……』
「それが……水に当たったらしく腹を痛めまして……」
『必ず煮沸せよとあれほど……』
一体地球のスーパーロボットはいつ来るのか。
二人は、慣れぬ星の環境の過酷さに、改めてため息をついた。
ちょうどその頃、すぐ近くの大阪府警では、雨の大阪城をミオが眺めていた。
二週間ほど何の動きもないこの状況。
近くで行っているオーダンナーの改造もゆっくりやっているらしい。
「これって要するに兵糧攻めってこと?」
時間を稼ぐと聞いてはいたが、あまりにのんびりな状況にミオもさすがに気づく。
この雨の中、アンゴルモア星人たちはどうしているのか。
どういった科学技術があるか知らないが、警察署に閉じこもっている自分たちと比べて、彼らは明らかに過酷な状況であることは想像に難くない。
ミオの言葉に、暇つぶしにゲームに興じていたチカは、大きく頷いた。
「そう、なんでも公園内は、電気、ガス、水道全部止めちゃったって。侵略者に使わせるいわれはないって」
「えげつない事するなあ……」
「まぁ、『オーダンナー』の改修する時間も稼げるしね。ミオちゃんもイメージトレーニング進んでる?」
「ああ……まぁ」
チカに言われ、ミオは急に死んだ魚のような眼で、部屋の片隅にある、DVDやビデオテープの山を見つめた。
オーダンナーの改修が終わるまでに課せられたミオのイメージトレーニング。
それは父の選んだ過去の偉大なる。ロボットアニメの再履修だった。
満足に外にも出られないため、ミオとチカは延々と上映会を行う事になったのである。
最初は付き合って見ていたチカも、数度の寝落ちを経て完全に別の事をし始めている。
「嫌いではないねんけど。これはこれで、頭おかしなるわ」
「……改修、早く終わらないかなぁ」
二人は、二人で、やはり疲労を蓄積させていた。
翌日、晴天になった所で、ようやく「オーダンナー」の改修が終了し、テストを行うという知らせが入った。
知らせを受けて、二人は仮設整備場へ向かう。
警備付きとはいえ、どうにか引きこもり生活から脱出できた二人は、喜んで仮設整備場に向かう。
駐車場に建てられた整備場にたどり着いた際、まず目に留まったのは、全長5メートルにもなる巨大な飛行ドローンだった。
「これは?支援メカ?」
周囲を見れば、「スーパーロボット作ろう会」とは別の人も混ざっている。
まじまじと覗き込む二人にヒロシが高らかな笑いと共に声をかける。
「どや! 今回陸自関係の企業さんに協力を得て作った戦術型対地戦闘ドローン「タクティカル・ダイ」略称「テ・ダイ」や。「デッチ」はアポロに任せて、今回はこれをチカ君に運用してもらうぞ」
「ほとんど戦闘ヘリじゃないですか!」
「……こんなもん女子高生に操縦さすなよ」
対地用と思われるバルカン砲に投下型の爆弾までついている。
ヒロシは「協力」と言っているが、どう考えてもほぼ陸自の装備の転用、改造品だろう。
国家が全力支援で容赦しないのは判ったが、なんでそこでチカに運転させるのかさっぱり分からない。
だが、ヒロシはさも満足そうに、その物騒なドローンを眺めていた。
「まぁ、チカ君には、こいつのシミュレーションをやってもらうとして、今回はこいつのテストやな」
そして、ヒロシはその先ある「オーダンナー」を指し示した。
「オーダンナー」は相変わらず、座り込むような形で設置され、完全に組みあがった状態だった。
腕部が大きく形状を変え、以前のような両腕五本指に変わっている。
そして何より、機体に所狭しと張られたステッカーが、二人の目を引いた。
「なんなんあれ?レーシングカーみたいになってるけど?」
「全国から集まった、スポンサーさんのステッカーやな。ありがたいこっちゃ」
「もしかしてあの「オーバーン」に書いてある「攘夷」って文字も?」
「ああ、さる資産家の人がどうしても、と。みんなの期待が集まっとるなぁ」
「ここまでせなアカンもんなん?」
しみじみ感謝を噛みしめる、ヒロシに複雑な顔のミオ。
民間のロボットだとこういう事になるという事だろう。
そしてさらに、ヒロシは仮設ゲージの隅を指し示した。
そこには、数々の、企業や人名、そして寄付額が木札に書かれ並べられている。
さらには酒瓶、酒樽まで。
それにヒロシは感慨深く頷いていた。
「それだけやない、全国からたくさんの支援を頂いてるんや。やっぱり、スーパーロボットはみんなの夢と希望なんやなぁ」
「……祭りの神輿みたいになっとるやないか」
どうもこの大人たちのノリが今一つ理解できない。
精神力がパワーになるというが、これに意味があるのか?
そう首を傾げるミオにヒロシはテストまでの段取りを描いた紙を手渡す。
「ほんなら、今から神主さん来るから。お祓いしたら、テスト始めるで」
「……ほんまに神輿扱いやないか」
これが大人の気合の入れ方なのか。
ミオはお祓いを受けながらそんな事を考えていた。
ミオが乗り込み、駆動系のテストを行う。
改修された上半身は、以前より軽やかに動き、どんどん人体のそれに近づいているようだった。
デモンストレーションで近くの紐を使ってロープワークをする「オーダンナー」をチカは感嘆して見上げていた。
「すごい! この短期間でこんな滑らかな動きができるようになったんですね」
目を輝かせるチカに、ヒロシは満足げに頷いていた。
「霊子力エンジンに動力を完全シフトすることでバッテリーを取り払い、軽量化に成功した。あとは毎度反動で故障する駆動系が難点でな。特殊な宇宙放射線を当てるとか、電磁気で関節部をコーティングするとか、いろいろ考えたんやけどなぁ……」
「どうしたんですか?」
「うん、腕部だけやが、機械的な駆動機構を排除して各関節部を磁石でくっつけたんや」
ヒロシの言葉に、チカは大きく頷いた。
確かにそれなら、ミオの「意志」力をダイレクトに、素早く伝達できる。
無茶な事をしても、また磁石なのでくっつければ済むことで……。
とそこまで考えた所で、チカは首を傾げ、そしてもう一度ヒロシに質問した。
「ちょっと待ってください。あの腕。磁石でくっついてるだけなんですか?」
「そうやで」
「じゃぁ、どうやって動いているんですか?あれ」
「そりゃもう、霊子力パワー! つまりはミオの意思やな」
チカ自慢げに胸を張るヒロシに開いた口がふさがらなかった。
つまり、今ミオが動かしているのは、完全に彼女がそう動くと思っているから、という事らしい。
どうやら、いま彼女が見ているディスプレイの表示コンソールも、ほぼダミーか補助に近いものにしてしまったようだ。
「これで、機械的な摩擦はほぼゼロ! 反応速度は無限大にはねあがり、軽量化も実現した! 名付けて「瓢箪から駒駆動」略称「HKK駆動」や!」
「思い切りが良すぎますよ!」
もはやこれは科学と呼んでよいのだろうか?
一体これが失敗したらどうする気だったのだろう。
そして、頭を抱えるチカに、ヒロシはもう一言付け加えた。
「あ、ミオには黙っとってな。最悪動かんくなるかもしれんし」
「でしょうね!」
そんな怖い事できるわけない。
チカはそれだけは守ろうと心に誓った。




