真実の扉
暗くなった部屋の中で、プロジェクターの映像が壁に投影される。
それは、生成AIで作ったと思われる説明資料。
なんというか、やはり異星人に説明されている気がしないわけだが、もうミオはいちいち突っ込まないことにした。
「アチャラ星は、この地球と同じ銀河の中にある星間文明圏の中にある一惑星。アンゴルモア星もこの一つデス。この文明圏では多数の惑星国家、星系がワープゲートでつながれ、お互い交易することで成り立っていマス。ワタシタチは元々、ここの貨物船の乗員デシタ」
何のことかミオにはさっぱりわからなかったが、どうやら地球から遠い星から来たらしい事、そこにはいくつかの惑星国家があるらしい事は理解できた。
つまりは、彼らと、アンゴルモア星人は別の異星人という事になるのか。
ミオはあのアンゴルモア星人との違いがあり、理由がなんとなくわかった気がした。
そして、チカが小さく手を上げハルカスに質問をする。
「では、なぜ地球へ?」
それにハルカスは小さく頷いて、次の資料を開示した。
「シンプルに言うとワタシ達、遭難シタ。アクシデントで宇宙で方向を見失い、ここに流れ着イタ。この地球はワタシ達文明圏からは遥か遠く離れた、ワープゲートネットワークから外れた星。誰もこの星を知らなかった。たどり着いたのは偶然」
「……つまり、アンタらから見てこの地球は、見たことも聞いたこともない未開の惑星っちゅうことかいな」
ヒロシがそう尋ねると、ハルカスは頷いた。
「じゃあ帰れないと言うのも?」
チカが聞くと、それもハルカスは首肯する。
彼女は次の資料を提示した。
「この地球。とても遠い。帰れない理由は二つ。一つは、我々がワープゲートを使わないで光速で飛び続けたカラ、元いた星ではものすごい時間が経過しているコト。もう一つは、我々の宇宙船の消耗部品の大半がこの星では調達不可能なコト、私達技術者ジャナイ。ほとんどのテクノロジー、再現できなくなった」
「……なるほど、帰るためには部品も技術も足らん。よしんば帰っても、ウラシマ効果で時間が経ちすぎて帰る意味もあんまりないっちゅうこっちゃな」
要するにどうしようもない理由で帰れないらしい。
ミオはその程度の理解しかできなかったが、自分以外の人間がそれで納得したようなのでヒロシに合わせて頷いていた。
ウラシマ効果って?
ミオは今更聞けないので、後で検索しておこうと考えていると、隣のチカが何かに気がついたようだった。
「……ちょっと待ってください? じゃぁアンゴルモア星人の人達も、同じ境遇ってことですか?」
チカの言葉に、ミオははっとなった。
確かに、同じ文明圏、同じ科学技術を持っているとするのなら、そう考えるのが普通である。
ハルカスはそれを否定しなかった。
「おそらくそう。彼らは元々好戦的で多くの植民星を運営する人たち。でも、私の知る限り地球は知られていない星、誰もここから帰ってきたことが無い星。ここに来たのは新しい航法の発明があったのではないのナラ、遭難してここに来た可能性が高い」
「少なくとも、あいつらもとんでもなく母星から遠くに来てしもうてるのは間違いないわけや」
なんとも意外な事実である。
どうやら、向こうは向こうで死にかけているようなのだ。
そしてそれに高橋も納得したようだった。
「なるほど、これでこちらの情報に裏付けが取れたわけだ」
彼はそう呟くと、腕組みをしてあれこれ思案を巡らせていた。
「どういうことなん?」
とミオが尋ねると、高橋は少しためらった後、口を開く。
「現在、世界各国は全力でアンゴルモア星人の戦力分析を進めているのだ。頑なに地上に降りてこない態度。必要以上に強硬な姿勢……数々の攻撃パターンと行動パターンから察して、宇宙船は一隻のみ。彼らの戦力の層は意外に薄く、増援の可能性が無いのではないのかという可能性が囁かれていてね」
「つまり、ほとんどがハッタリっちゅうことかいな?」
ミオの言葉に、高橋は大きく頷いた。
だとしたらひどいペテンだ。
ミオは、地球人が丸ごと騙されていたのだと、腹立だしい思いがした。
だが、話はそれだけでは終わらないらしい。
高橋は、今度はハルカスに質問をした。
「一つ、わからない事がある。何故あいつらはそんな境遇であるにも関わらず、侵略などと言う手段に出たのだ?」
確かに、考えてみれば滅茶苦茶な話である。
素直に助けてくれと言えばいいものを、攻撃による恫喝などあまりに頭が悪すぎる気がする。
それに、ハルカスは少し考えこみ、慎重に応え始めた。
「……ワカリマセンが、可能性は二つ。一つは、彼らが地球の文明レベルを誤認していた可能性」
「誤認だと?」
「ハイ。ワタシの記憶に間違いが無いナラ、あの行動パターンは地球の概念で言う「神」として惑星を従わせるプログラム。威嚇して、脅し、屈服させる方法ネ」
「……つまり、ワシらを未開の部族となめてかかったら、ビビらんどころか反撃を受けて、後に引けなくなっとるという事か?」
ヒロシの言葉にハルカスは頷いた。
「多分そんな感じ。あの人たちとても誇り高い。この状況で「間違いでした」とても言えない」
「とことん迷惑なやっちゃなぁ」
父のぼやきであるが、ミオはそれに心底同意した。
「で、もう一つは?」
そして、高橋が話を進めるよう促す。
それにハルカスは、さらに次の資料を提示してみせた。
「二つ目は母星に帰還すること、諦めていない可能性。我々の宇宙船に使っていた宇宙船エンジンコアに使用する物質「マイドリウム」がこの星はある。そのエネルギー出力と技術があれば、この近辺の宙域にワープゲートを開通させることも理論上は可能」
「なんだと?」
その言葉に、一同の顔面が蒼白になった。
ミオは状況が呑み込めず、周囲をきょろきょろしたのち、チカに気まずそうに質問する。
「一体何がまずいん?」
それに、チカは何から説明したものかと、しばし考え、そしてミオに説明する。
「ええっと、つまり、ワープゲートっていうのを開通させられたら、距離がほとんどゼロになって、彼らがアンゴルモア星に帰れるだけじゃなく。向こうから大量のアンゴルモア星人が来れるようになるってこと!」
そうか、そうなると……。
「え?地球がさらにピンチになるやん!」
思考が繋がり、ようやくその状況が理解できたミオは、血の気が引く思いだった。
そんな事になれば、状況はさらに悪化する。
さらなる大戦争か、地球人類の奴隷化か、行きつく先にミオの夢見る平穏で平凡な未来などない。
ミオはそれを想像すると、身も凍る思いだった。
「そんなら、その何とかっていうパーツを隠すか壊すかした方がええんちゃう?それ、一体どこにあるの?」
立ち上がって、ハルカスに詰め寄るミオ。
それに答えたのは、ハルカスの隣にいたベルタだった。
「それはすでに、彼らに探知されています。そしてそれは我々の切り札になりつつあるのデス」
「どういうこと?」
ベルタの言っていることが分からないミオ。
だが、ヒロシはそれが何を意味するのか気づいたようだった。
彼は、すべての疑問が繋がったというような顔で机を叩く。
「……そうか!「オーダンナー」の霊子力エンジンにそれを使こたんか?」
「ええ!?」
我が耳を疑うミオ。
だが、目を向けたその先で、ベルタとアポロはそれに大きく頷いた。
それに、地球人一同は言葉を失った。
「……なるほど、どうりで、あんなに執拗に「オーダンナー」にこだわるわけだ。それが奴らにとっては、命綱なわけだからな」
高橋もようやく相手の行動原理を解明する糸口をつかんだようだった。
そしてチカも。
「あのデタラメなパワーも、それが理由なんですね」
と納得した様子だ。
「じゃぁ、まさかそのためにウチの工場に?」
と、ミオが尋ねるとベルタとアポロは。
「いや、たまたま。お金に困ってたカラ」
「異星人デモ、入社すぐできたカラ」
と、一瞬で否定した。
「……うん、そこはウチらも立場あるし、そう言う事にしといてくれへん?」
流石に管理がザルで異星人不法就労させていたという話はさすがにバツが悪すぎる。
ミオは、あまりに正直な二人に気まずそうに注文を付けた。
そしてハルカスがそれに補足を加えた。
「「オーダンナー」に「マイドリウム」を組み込んだのは、制御装置が故障して修理不能だったコト。そして、アンゴルモア星人に見つかることによるトラブルを避けた上で、安全に捨てる方法、わからなかったカラ。しかし、「オーダンナー」は信じられない力、出してる」
「どういうこと?」
「本来、「マイドリウム」は宇宙にある霊的物質をエネルギーに変換する物質。だけど今回、「オーダンナー」はミオサンの精神に強く反応し、宇宙船のエンジン以上の物理現象まで起きてル。ワタシタチにもこれは計算外。こんな制御方法知らない。」
どうやら先程のあの現象は、アチャラの星の人にも計算外の事らしい。
「一体なんでそんな事が?」
首を傾げる、ミオにアチャラの星の人々も首を傾げている。
そしてベルタが、やはり考えながら口を開いた。
「これは大変興味深い現象デス。恐らくデスが、地球人との相性が非常に良いか、それとも、「人型」である事が重要なのか、あるいはその両方か……」
その言葉に、ミオは実感があった。
オーダンナーの操縦。
必死になっていくうちに、なんだかロボットという事を忘れ、自分が動いているような感覚になっていた。
それが、彼らの言う「マイドリウム」という物質の起こした現象だというのか?
そして、それに目を輝かせて食いついたのはやはりヒロシだった。
「そうか!人型なら確かに精神的にシンクロしやすい!これは面白なってきたで!」
そう言ってなんだか一人で盛り上がるヒロシ。
この親父がはしゃぐとなんだか不安になってくるが、確かに、こいつの妄想が現実になっていくような現象が起きている事は確かなようである。
そして、そんな浮かれた親父を横目に、高橋は落ち着いた面持ちで、再度ハルカスに問うた。
「君たちの立場は理解した、情報も大変参考になった。だが、信頼に足るのかどうかと言う意味も含め、君たちの目的を聞かせてもらいたいものだな。貴重な物質と、情報を我々に提供して、何を望む? 一体どのようなメリットを我々から得るつもりだ?」
無条件には信用できない。
そう言いたげな高橋の言葉に、一同は静まり返った。
考えてみれば、アンゴルモア星人のエンジンのコアパーツを使えば、彼らにもゲートを開くことができるかもしれないのだ。
ここまで地球人に協力する見返りは?
その空気の中、ハルカスは静かに口を開く。
「ワタシ達、母星への帰還を目指していない。船も再建できない。時間、経ちすぎてる。だから……」
「だから?」
「永住権欲しい。でないと働けナイ、あと今までの脱税はチャラでお願いプリーズ」
「……前向きに検討しよう」
一斉に頷くアチャラ星人一同に、なんとも複雑な表情で頷く高橋。
一瞬そんな事か、とミオは思ったが、それは彼らにとってある意味で切実な要求だった。




