運命の行く先
一筋の光が、大阪市内に降り注いだ。
それはある一点を照射し、その照射された橋が高熱にさらされる。
それはしばしの間を置いて、橋を溶解させる。
数秒の間を置かずに、橋と、すぐ下を航行していた護衛艦は光によって切り裂かれ、そして崩壊した。
周囲に飛び交う悲鳴と怒号。
街は大パニックとなっていた。
「……始まったな」
その情報を指揮車内で確認した高橋は、苦々しい顔でつぶやいた。
ついに、宇宙人のレーザー攻撃が始まってしまったのだ。
「せめて逃げた異星人を確保できていれば……」
苦渋に満ちた顔でそう言う高橋。
だが、ヒロシはそれにどこか落ち着いた様子で、首を横に振った。
「いや、どっちみちあいつら、こうするつもりやったんちゃうかな? 交渉打ち切ったのが向こうなら、襲い掛かって来たのも向こうや。正当防衛で反撃したのにこの仕打ちは、脅しか、ケンカ売っとる以外の解釈はしかこちらにはできんで」
我々に落ち度はない、と言いたげなヒロシに、わかってはいるが憤りを隠せない高橋。
それに違う見解を差しはさんだのは、ベルタだった。
「恐らく、逃走中の同胞の援護のつもりだと思いマス。レーザーも無限に発射できるわけではありマセン。今回は警告の意図かと思いマス」
今までとは違う角度からの意見に、興味深く耳を傾ける高橋。
彼は、ベルタの言葉の意味を理解すると、大きく息を吐き、気を落ち着かせた。
「……なるほど、確かに有益な情報を持っているようだな。その内容を早く聞かせてもらいたいものだ」
どうやら彼らは協力者であり、我々の知らない事実を認識しているようだ。
高橋はようやく彼らを信用していいのかもしれないと思えるようになっていた。
「はい、急ぎまショウ。まずは……」
「まずは?」
「この渋滞を抜けないと」
「……そうだな」
朝から続く宇宙人騒ぎで、市内の交通は大混乱中。
一同を乗せた車は、見事に渋滞に捕まっていた。
今のレーザー攻撃騒ぎで、その混乱はさらに増大するだろう。
こんな事なら、パトカーか救急車でも調達すればよかった。
そんな事を考えていた高橋は
「あ、近くに駐車場無いから、途中から歩きになりマス」
というベルタの言葉に、
「……勝手にしろ」
と、ぶっきらぼうに応えていた。
渋滞を抜け、どうにか市街地を抜けたところに、目的地はあった。
そこは手作り感満載の無国籍料理店……の、ように見える。
「貸切」と書かれた看板の下げられた扉を開くと、その先には数人の、女性が出迎えた。
「ベルタ! アポロ! お帰り!」
彼女たちはそう言うと、二人と次々とハグを交わす。
「ある意味全然異星人には見えへんな」
ポツリとミオがつぶやくと、チカも大きく頷いていた。
実はブラジル人でした、と言われてもまったく違和感のない光景に複雑な顔をする一同。
そして、アポロが、にこやかに彼らを紹介した。
「紹介シマス。私たちの家族、ルシアス、シャルム、クオレ、ベレーザ」
「……どうも」
次々とにこやかにラテン系のノリで握手を求めてくる彼女たちに答えながら、どうにも異星人と交流している実感がないミオ。
「……元々こういう人たちなのか、それとも地球に馴染んでいるのか……」
チカがそう漏らすと、高橋も半ば感心したように眺めまわしていた。
「なるほど、こうしてカモフラージュして社会の中に溶け込んでいたのだな」
確かに、こんな感じで馴染まれていたのでは、単なる怪しげな外国人で済まされてしまう。
彼らが異星人であるとはたとえこの店で食事をしても容易には気づかないだろう。
というか、そもそも異星人がいるという発想すら出てこない。
だが、その高橋の言葉にベルタが返して来たのは、かなり現実的な話だった。
「お金ナイ。こうやって働くしかナイから仕方がナイ。夜はパブやってる」
「……なかなかたくましいのう」
後ろで感心するヒロシに、ミオはどういう顔をしていいのか判らなかった。
そんな話をしているうちに、アチャラ星人の女性たちはテキパキと、テーブルを設置し料理を運んでくる。
それはさながら、ホームパーティーの準備のようだった。
そして、その光景にアポロが嬉しそうに頷く。
「私たちの料理、美味しくてとても好評。みんなにも食べてほしいデス」
「君たちとホームパーティーをしに来たつもりはないんだがな」
アポロの言葉に憮然とした態度で答える高橋。
だが、ヒロシはその横で早速つまみ食いをし、女性たちと談笑を始めていた。
この父親の、こういう性格は褒めて良いのかどうかミオには理解できないが、どうやら毒などは入っていないようだ。
複雑な心境で顔を見合わせるヒロシ以外の三人に、椅子を勧める女性たち。
敵対的にふるまう利点はこれっぽっちも感じないので、ミオとチカは戸惑いながらも席に着いた。
「間もなく、ママが来ます。私たちのリーダ。それまで少しお待ち下さサイ」
そう言うベルタに、高橋はようやく席に着く気になったようだった。
「なるほど、位の高い人物は後からやってくるもの、という事か?もったいつけるものだな」
そう言いながら仏頂面で腰掛ける高橋。
ベルタはそれに大きく首を横に振った。
「いや、パブの営業でいつも起きるの遅いのデス。今、お化粧してる」
「……この段取りの悪さは何とかならんのか!」
高橋はさすがに苛立ちを隠せなくなっていた。
「まぁ、いきなり押し掛けたのはこっちなんだから仕方ないやろ」
それを、何か、パンのようなものを口にしながらなだめるヒロシ。
「お前はもうちょっと行儀よくせぇよ」
と、ミオは父親の行為を注意した。
意外な事に、料理は美味しかった。
考えてみれば、ここで料理店やパブをやっているのだ、地球人の舌に合わせているのだろうか。
口にして、驚くミオとチカにアポロは自信満々に胸を張っていた。
「我が母星の料理を、地球の食材で再現しマシタ。ここの料理とても好評デス、おかげでお店何とかやっていけてる」
その言葉に反応したのはチカだった。
「じゃぁ、ずっと長い事地球に居るんですか?」
ミオはそれに、言われてみれば、とアポロを見る。
チカの質問にアポロは大きく頷いた。
「はい、私たちアンゴルモア星人の来るずっと前から、ここに流れ着いてきマシタ。もう十年以上前からこの星に住んでイマス」
それはミオのみならず、高橋にも衝撃的な事実だった。
なるほど、飲食店などやらねばやっていけないはずである。
「そんな以前から……」
驚くミオ。
だがチカは彼らの話から、さらなる事実に気づいたようである。
彼女は、はっとなってさらにアポロに質問を投げかけた。
「ちょっと待ってください?「流れ着いた」という事は、貴方たちは母星に帰れない?」
確かに、なんでそこまでして、この地球に居続けなけれんばならないのかの理由がそこでつながる。
その言葉に、その場にいた、アチャラ星人の全員が悲しげな表情で頷いた。
そう、彼らはここで暮らすしかなかった人々だったようである。
そしてそれに答えるように、店の奥から声がした。
「その件についてはワタシが話しマス」
そして奥から、声と共に大柄の女性が現れた。
ミオはその姿に目を疑った。
丸々と太った大柄の女性、そして身に纏うのは赤白ストライプが全身を包むサーカス風の衣装。頭には三角帽子を乗せ、懐かしくも陽気な出で立ちで彼女は立っていた。
「いや、その衣装は……」
馬鹿にしに来たのか、と言いたくなる衣装で真顔で入ってくる女性に、流石にツッコミの言葉がのどまで出かかるミオ。
それにアポロが、
「我が星の正装デス。とても敬意を払ってイマス」
と、言い出したので、全員どんな顔をしていいのか判らなくなっていた。
その中、一人、場の空気を読んでいないのか話を聞いていないのか、ヒロシがポツリと漏らす。
「いや、道頓堀に立ってた人形やろこれ」
それにミオは、父親を黙らせようと、手を振りあげたが、大柄な女性はそれに、にこやかに答えた。
「あれはアチャラ星の伝説的指導者クイ・ダ・オーレの像。我々の以前にもこの星に流れ着いた者がいたかもしれナイ。ワタシタチ、そう思ってる」
その言葉に、ミオは驚いていいのか突っ込んでいいのかわらなくなっていた。
「私の名前、ハルカス。この子たちの母。今からワタシタチの事、アンゴルモア星人の事、説明しマス」
ハルカスと名乗った女性は、そう言うと自らの子たちに指示し、店内のカーテンをすべて閉めさせた。
クイ・ダ・オーレ
アチャラ星統一の父にして宇宙軍の創設者。
アチャラ星が植民惑星になる危機に際し立ち上がり、最終的に一代でアチャラ星を星間国家にのし上げた人物である。
当時軍楽隊であった彼は、太鼓を叩きながら、民衆を鼓舞し、抵抗運動を指揮したエピソードがあまりに有名で、現在でもアチャラ星ではその姿を像にして彼を称えているという。
なお、一時期大阪の道頓堀にあった「くいだおれ太郎」は過去地球に降り立った名もなきアチャラ星人が建立したものである、というのは、地球にいるアチャラ星人の間ではまことしやかに語られている話である
民明書房刊「異星人の語る銀河興亡史」




