エイリアンの影
周囲を取り囲む自衛官たち。
そして向けられた銃口。
ミオ達は、それに反射的に両手を上げていた。
濡れ衣?
裏切り?
謀略?
「ちょっとおっさん!これどう言うこと?」
ミオが声を上げるが、高橋はそれを鼻で笑った。
「とぼけるな。こちらの調査力をあまくみてもらっては困る」
「私たちにやましい事なんかありません!」
同じく高橋に抗議するチカ。
だが彼女の言葉も高橋には答えないようだった。
犯人が最初からハイと認めるはずがないだろう。
そう言いたげに高橋はこちらをじっくり眺めまわす。
正体を現せ、とでも言いたげな高橋をミオは睨み返していた。
「一体何を根拠にウチらを疑うんや! ここまでしといて、間違いでした、では済まされへんで!」
問い詰めると同時に、威嚇すらしてみせたが、やはり高橋には通用しなかった。
彼はむしろ呆れた、と言った顔で首を横に振る。
「言っただろう? 我々の調査能力を侮るな、と。……まぁ、きっかけは本当に基礎的な話だがな」
「基本的な話?」
ミオが聞き返すと、高橋はいよいよ呆れたようだった。
彼は大きく息を吐くと、首をすくめる。
「どうやら本当に気づいていないようだな」
どうやらなにか自分たちが怪しまれているらしいが、本当に身に覚えがない。
このまま訳が分からないまま逮捕などされてはたまったものではない。
「なんやねん! 証拠でもあんのんか!」
そう言うミオに、高橋は黙って、書類を取り出した。
「これは?住民票?」
チカの言葉に、ミオもその書類をのぞき込む。
それは、ミオやチカの名前が記された住民票だった。
「当然、我々も身元調査はするのでね。住民票、戸籍謄本を見させてもらった。その初歩の初歩で明らかに違和感があったのだ」
そう言うと、高橋はミオに住民票を投げ渡した。
手を下ろし、それを受け取って見ると、そこには、ミオとヒロシの名前がしっかり書かれており、別にチカの家の住民票もある。
どれだけ見ても、なにも違和感はない。
一体何が言いたいのか判らず、ミオは改めて、高橋を睨みつけた。
「これのどこに違和感があんねん!」
その言葉に、高橋はいよいよ苛立ち始めた。
「いい加減気づいたらどうだ! そこには名前が無い人物がいるだろう」
「え?」
どういうこと?
高橋の言葉を理解できず書類を眺めまわすミオ。
隣でチカは高橋の言わんとしている事に気づいたようだった。
「まさか!」
「そう、二名、どう調べても身元が分からない者がいた。入国記録、諸外国へ問い合わせても身元の照会が取れない。我々はここ数日、君たちに協力しつつ、この二人をマークしていたのだ」
「え?二人って……」
そこでようやくミオは気が付いた。
渡された住民票の中で、名前がなかった二人。
つまり……
「いい加減、正体を隠すのを止めたらどうだ。阿倍野アポロ!阿倍野ベルタ!」
高橋の声にはっとなってミオが振り向くと、ベルタとアポロは静かにこちらを見据えていた。
二人は互いに顔を見合わせるとそろって歩み出た。
そして、ミオと高橋の間に入るとベルタから口を開く。
「社長サンやミオサンは何も知りマセン。無関係デス」
「我々に、抵抗の意思はありマセン。銃を下ろしてくだサイ」
二人はそう言うと、高橋の前に立ち止まり両手を上げながら彼の問いかけに答えた。
高橋はその言葉に頷くと、銃を下ろすように指示を出す。
ミオは理解が追い付いていなかった。
「お前らは何者だ?」
緊張した面持ちで、高橋が問う。
それに答えたのはアポロだった。
「アチャラの星から来マシタ。アチャラ星人デス」
「アンゴルモア星人とは同じ星間連合の、違う星の者デス」
続いて答えるベルタ。
「……宇宙人?」
ミオはその告白に呻くような声を上げる事しかできなかった。
隣でヒロシも同じように衝撃を受けている。
「異星人やったなんて……なんで今まで黙っとったんや」
呻くようにヒロシが言った。
それに二人は悲しげな顔でうつむいた。
「スミマセン社長サン。騙すつもりはなかったのデス」
「とても説明が難しかった、言っても信じてもらえナイ」
そう言うベルタとアポロの言葉をミオは受け入れることができなかった。
自分のうちの工場に宇宙人が紛れ込んでいたなんて、本人の口からきいた今でも信じられないのだ。
「正体を偽ってウチの工場に入ってたんか……」
複雑な思いでそう言うとうつむくミオ。
それに二人は、大きく首を横に振った。
「誤解しないでクダサイ!」
「私達嘘ついてナイ!」
「嘘やんか! ウチらてっきり、ブラジル人やと……! なんで一言、言ってくれへんかったん!」
必死に理由を述べようとするベルタとアポロに、たまらず叫ぶミオ。
だが、二人の返答は冷静だった。
「でも、履歴書にちゃんと書いたヨ」
「そう、でも、信じてもらえなカッタ」
「……は?」
予想外の答えに、目が点になるミオ。
それに、高橋は咳払いすると、もう1通、懐から書類を取り出した。
「留守中に君たちの工場を家宅捜索した際に出てきた履歴書だ。二人の証言と一致する内容だな」
見れば、確かに「本籍」の欄にたどたどしいカタカナで「アチャラ星」と書かれている。
それを見てヒロシは、何か思い出したようだった。
「いやぁ、変わった地名やから、てっきりブラジルかどっかかと……さすがに宇宙人とは思わんわなぁ」
「おかしな記載は確認せぇよ!」
思わず突っ込むミオ、だがその後ろでチカはチカで頭を抱えていた。
「いや、これ事務やってたミオちゃんも気づかなかきゃ……」
その言葉にミオは、返す言葉が無かった。
よく考えたら、お金の出し入ればかりで、役所関係の仕事は任せきりだった気がする。
「……これ、まずいんかな?」
狼狽えて、チカに問うと彼女は難しい顔で首を傾げていた。
「よくわかんないけど、これ不法就労じゃない?社会保険とかどうしてたの?」
「なにそれ?」
チカが何を言っているのか判らないが、どうやら下手をすると法に触れるような手落ちらしい。
冷や汗が噴き出すような思いで高橋を見ると、彼はそんなことどうでもいいという顔で咳払いしていた。
「異星人に労働基準法があてはまるのかどうかに興味はない。それより……」
彼はそう言い放つと、改めて、ベルタとアポロに向き合った。
「『オーダンナー』に奇妙なものを仕込んだのはお前らだな?その意図を知りたい」
それに、ベルタとアポロは大きく頷いた。
「私たちも、今、それを話すべきと思ってイマス」
「チカサン、ミオサンも、社長サンも来てくだサイ。我々の家で、ゆっくりお話しシマス」
そして二人は顔を見合わせて頷くと、携帯を懐から取り出した。
一体何が起こるのだろう。
どこに連れていかれるのだろう?
固唾を飲む一同の眼前で、二人はスマホを操作した。
じっと、画面をのぞき込むベルタ。
何かを待っているようなベルタの隣で、アポロは誰かとの交信を始めていた。
「……ああ、ママ? 地球人じゃナイってバレチャッタ。今からお客さん連れて帰るから、う……ウン、4人、用意しトイテ」
……どうも、家族へ携帯で連絡を入れているようである。
この異星人二人に家族がいるのか。
呆気にとられるミオの目の前で、今度はベルタが高橋に声をかけた。
「ゴメンナサイ、アプリでタクシー呼べナイ」
「……当たり前だ。もろもろの事情で、今ここは交通規制中だ」
「地下鉄使えル?」
「同様の事情で運航停止中だ」
「アー。車借りていい?」
「最初からそう言え!」
結局、一同は、オーダンナーの回収作業を「スーパーロボット作ろう会」の皆さんに委ね。移動指揮車で二人の家に向かう事になった。




