何も考えず走れ?
「ミオちゃん!脱出して!」
電源切れのオーダンナーに届くかどうかも分からないが、ミオは必死に叫んでいた。
絶対絶命。
この状況に高橋は即座に対応していた。
「やむを得ない、攻撃要請だ!」
彼が電話に向かって叫ぶと、近くに居たヘリが即座に動き出した。
銃弾が浴びせられ、ロケット砲が火を噴く。
周囲に轟音が轟き、空気の振動が離れた場所の指揮車の壁をびりびり震わせる。
続いて航空機からのミサイル。
甲虫メカは爆炎に包まれた。
爆風に振り回されながら必死に「デッチ」を操作し、なんとかうつぶせに倒れた「オーダンナー」をカメラに収めるチカ。
そしてその声は、爆音の隙間からチカの耳に届いた。
『ちょっと!何この音?何が起こってんの?』
それは状況が分からず叫ぶ、ミオの声だった。
チカはひとまず無事な事と、通信が繋がることに胸を撫でおろし、安心させるようにミオに状況を説明する。
「今、自衛隊の攻撃が始まったの。ミオちゃん、脱出できる?」
『うつぶせに倒れてもうたからコックピットハッチが開かへん。なんとか、起き上がらんと……』
そう言いつつ、ミオはレバーを操作した。
それに合わせ、オーダンナーは手をつき、足をついて立ち上がろうとする。
その姿に、チカの目が点になった。
「あれ?動ける?」
後ろを振り向くと、ヒロシはそれがおかしなことと気づいていないようだ。
隣のベルタは笑顔で親指を立て
「ダイジョウブデス」
のコメント。
訳が分からない。
チカはもう一度ミオに語り掛けた。
「ミオちゃん?動けるの?」
だがミオはその異常な状況に気づいていないようだった。
『え?ごらんの通りやけど?』
と、彼女が周囲を見回した瞬間、彼女の目には、再び自分に向かって飛んでくるクローアームが映った。
『ちょ!タンマ!』
慌ててローラーダッシュで器用に回避する「オーダンナー」
そしてミオの視点に映ったのは、ミサイルの爆炎の中から現れたなおも健在な甲虫メカの存在だった。
「効かないのか!」
まるで何事もなかったかのような甲虫メカの様子に、舌打ちをする高橋。
ヒロシはそれにうなり声を上げていた。
「……大気圏内外を行き来するような船や、よう考えたらバリアか、耐熱装甲がついててもおかしないわな」
そんな二人にチカは大きく首を横に振る。
「いやいやいや!「オーダンナー」もおかしいですよ!」
「え?」
「何で再起動してるんですか?電池切れたんじゃないんですか?」
チカの言葉に、ヒロシは眉をしかめて、ベルタの方を見た。
パソコン上の数値は通常出力。バッテリーはゼロ。
ベルタは笑顔でサムアップしている。
「全然わからん」
端的な状況分析結果にチカは、再び追いかけっこをしているミオに叫んでいた。
「早く脱出して!」
だが、「オーダンナー」は軽やかに道路を疾走している。
ミオもスピードを落とすことができない様子だった。
「そんなこと言うたかて、こっちはそんな余裕ないわ!」
そう叫ぶミオの頭上を甲虫メカは加速してパスしていく。
『なんや?』
それに首を傾げる、ミオだったが、同じく上空から状況を見ていたチカはその意図を即座に把握していた。
その少し先に、島の出口である橋がある。
「先回りして逃げ道を塞ぐ気だ!」
『え!』
ミオの声と共に、「オーダンナー」はその場に停止した。
甲虫メカは、前方の橋へのルートの前に浮いている。
チカはすかさず地図を見て、指示を下した。
「すぐ横に建物がある!その影に逃げ込んで!」
ミオはすぐさま、交差点を猛スピードで曲がった。
変電所とスポーツ施設の間の道に入り、スポーツ施設の建物を背にする。
チカが上空から確認すると、建物を影にされ、甲虫メカは様子を伺っているようだった。
建物を盾にする状況に、高橋は渋い顔をしていた。
「うまいやり方だが、こちらも攻撃しにくいな。どうするか……」
「今のうちに、ミオちゃんに脱出してもらいましょう」
いかに敵を仕留めるか考える高橋に、ミオのサポートに徹するチカ。
「オーダンナー」は盗られてしまうかもしれないが、ミオごとさらわれるより遥かにましだ。
チカは大人たちの返答を待たずに、ミオに指示を出していた。
「ミオちゃん、早く脱出して建物に逃げ込もう。電池は大丈夫?」
その声に、ミオは荒くなった呼吸を整えて、自分も冷静になろうとチカの指示を復唱する。
『……わかった、電池残量確認……え?ゼロ?』
彼女が電池残量を確認して驚いた瞬間、「オーダンナー」はその場に崩れ落ちた。
前のめりに倒れ込み、再び脱出不能になるミオ。
間に合わなかった。
ゼロになった電力のデータに、ベルタも首を横に振る。
チカはそれに天を仰いだ。
『ちょっと……電池なかったら起き上がることもできへんやん!これどうしたらええの?』
狼狽えるミオ。
チカはなんと言って良いか分からず、周囲を見回した。
チカの背後で、高橋も苦渋に満ちた顔で首を横に振る。
だが、ヒロシはその様子に、モニターを凝視しながら何か考え込んでいた。
「どうにかならないですか!」
泣きそうな顔で叫ぶチカ。
甲虫メカは、建物の向こう側から浮遊しながら回り込み「オーダンナー」を見つけたようだ。
もう、逃げる暇すらない。
そんな緊迫した空気の中、ヒロシは小さくつぶやいた。
「……もしかしたら、行けるかもしれん」
彼はそう呟くと、立ち上がり、インカムのスイッチを入れた。
そして、静かに、ミオに話しかける。
「ミオ、こうなったら正面から戦うしかあらへん。今から奥の手を使う」
『え?奥の手?』
「そうや、オーダンナーマックスモード、『オーマックス』発動や。これでリミッターが外れ、短時間やが通常の数倍の出力で動くことができる」
『そんな機能あんの?』
「そうや、奥の手やから使いたくなかったけど、こうなったら助かる道は他にない。今こそ叫ぶんや『オーマックス発動』!と」
そんな機能あったの?
何か言おうとした、チカをヒロシは手で制した。
今は黙ってモニターを見ろとジェスチャーするヒロシ。
その沈黙の中、ミオは意を決して息を吸い、大きな声で叫んだ!
「オーマックス! 発動!」
ミオの叫びと共に、オーダンナーは再び光輝いた。




