舞浜の風
チカが2日ぶりにミオと再会したのは、海風吹き付ける舞洲の広大な広場だった。
コンサートイベントが行われるこの広大な埋め立て地で、明日異星人との会談が行われる。
今、その設営準備を行う人達のバスに同乗して、チカはこの場所にやってきたのである。
バスから降りると、ミオの姿はすぐに目に入った。
逮捕され、学校も欠席状態の彼女は思ったよりも元気そうだった。
彼女はこちらの姿を確認すると飛び跳ねるように駆け寄ってきた。
「ミオちゃん!大丈夫だった?」
チカが声をかけるとミオは大きく頷いた。
二人は抱き合い、互いの無事を喜び合う。
「ありがとう、聞いたわ、お父さんが色々骨折ってくれたんやって?」
実際、細かい事は父には聞いていないが、どうやら父の動きがミオ達に伝わっていたらしい。
チカはそれに、照れ臭そうに笑った。
「お父さんは、自分がやるべきことをやっただけだって。私にも、サポートするならこういう服を着ていきなさいって渡されたの」
チカの言葉に、ミオは友人の今日の服が、どうやら本人のチョイスでない事に気づいたようだった。
父の趣味かどうかはわからないが、父に渡されたのは、軍隊の制服に見えなくもない服だった。多分、家にある中でそれっぽいものを持ってくるように指示したのだろう。
ミオのパイロットスーツにセンスの方向性が同じようなその服に何かチカの父親と、自分の父親のセンスの共通点を感じたのか、ミオは顔をしかめる。
「ウチらの親世代のセンスはみんなこんなんなんか?」
「……全員じゃないと思うけどね」
どうやらミオも同じことを思っていたようだ。
彼女は苦笑するチカに首をすくめると、ミオは「オーダンナー」の組み立て作業場に彼女を案内するため歩き出した。
「それにしても、よく乗る気なったね。この時期だと、一回脱走するのが定番だってお父さんが言ってたけど」
先を歩くミオが、思ったより元気だったのでチカは素朴な疑問をぶつけてみた。
実の所、彼女を精神的にもサポートした方がいいと父にも言われていたのだ。
ミオはそれに重苦しいため息とともに頷く。
「やれるもんやったら、やっとるんやけどなぁ」
どうやら、考えないでもなかったらしい。
だが、それはもう、何回も自問自答した問いだったようだった。
「監視も厳しいし、逃げるとこもないし、なんか知らんけど世界中から期待されとるらしいし……」
「『謎の女子高生』って、ネットじゃ大騒ぎだもんね」
「せやねん。こうなったら開き直るしかないやん?下手に逃げて、顔写真付きで手配でもされたら、それこそ人生終わるわ」
「あ、それは確かに……」
有名になど、なるものではない。
どうやら、ミオは開き直る事で自分を鼓舞するしかないと気づいていたようだった。
「おとんみたいに、勝てばヒーロー、なんて無邪気にはしゃぐ気にはなれんわ。ましてや、ウチが乗って戦うのが、あれやからなぁ」
そこまでミオが言ったところで、屋外に置かれた「オーダンナー」が見えて来た。
オーダンナーは、クマのぬいぐるみのように座らされ、「スーパーロボット作ろう会」の皆さんによって、組み立て作業が始まっている。
現状は、胴体にようやく足が取り付けられたばかりの状態だった。
そして、こちらの姿に気づいたのか、作業服にヘルメットを被ったヒロシもやってきた。
彼は娘と違い、上機嫌でチカに歩み寄る。
「よお、チカ君よく来たな。これで「チーム・オーダンナー」全員集合や!」
「……いつできたんや、そんなチーム」
豪快に笑う父に、呆れ顔の娘。
どうやらこの親子の関係は相変わらずのようだ。
娘と違い、まるでお祭り騒ぎが始まるかのようなヒロシは確かに楽天的と言うか、水を得た魚のようである。
そして、チカの視線は組み立て作業の進む「オーダンナー」に向けられた。
「一旦、解体してここに持ってきたんですか?」
改めて組み立てなおしている様子の「オーダンナー」を見てチカが聞くと、ヒロシは得意げに頷いていた。
「そもそも、足や腕のパーツは傷みやすいから、タイヤみたいに取り替えられる仕組みになっとるんや。こっちの方が、運ぶ時も楽やし、敵に気づかれずに移動できるからゲリラ戦でも使えるっちゅう想定や」
「……一体どういう想定で作っとんねん」
ヒロシの言い様に、ミオは呆れていた。
確かに、もっともらしい説明だが、後者の説明は明らかに後付けだろう。
そもそも、宇宙人相手にゲリラ戦やる想定なんぞ、ヒロシがしているはずもない。
多分どこかのロボットアニメの受け売りなのだろうな。
そう思いながらトラックから降ろされた部品に目をやったチカは、その見覚えのない部品に首を傾げた。
どうも、頭部パーツのようだが?
「あれが顔?なんか変ってない?とって付けたような、ツノまでついて……」
どうやらミオも同じく違和感に気づいたようだ。
娘の質問に、ヒロシは頷いて、そのパーツの一部を指さした。
「東大阪市から餞別代わりに支援してもうたんや。センサー類は高いから助かったわ。ついでに、ツノもつけてくれって言うから、昨日試作用に置いてあった部品かき集めて、大急ぎで作ったんや」
ヒロシが指さしたその場所には「贈・東大阪市」と書かれている。
それに、チカは頭を抱えた。
明らかに自分の父の趣味が入っている。
一体何を言ったらこんなことができるのか判らないが、恐らく父が関わっている。
一体どういう方向に、情熱を注いでいるのか。
チカは、もしかしたら自分がミオと同じ境遇にいるのかもしれないという、うっすらとした恐怖感すら感じ始めていた。
「これ、極秘作戦やんな?」
まるで学校の備品のような扱いの頭部がクレーンで上がっていくのを見ながら、大人たちが何を考えているのかさっぱりわからない様子のミオ。
チカもまったくもって同感だが、ヒロシは。
「まぁ、相手は異星人やからな。政治家の先生方も、思惑がいろいろあるんやろ」
と、あっけらかんとしている。
まぁ、確かに今回は異星人との会談を行うこと以外一切公表されてはいないが、父をはじめ、政治家の人たち同士でいろいろ綱引きがあったようである。
今回「オーダンナー」が現れる、と言う噂はネット上に流布している状態でもあるため、今回の件、少なくとも近辺の自治体は応援している事を示したかったのだろう。
そして今度は、どでかい円形シールドと、五本指の手の代わりに剣らしきものが付いた右手がクレーンで吊るされていく。
それは、以前とは違う、明らかに格闘戦を想定したものだった。
「電熱式ヒート剣「バーン刀」や、前回はいきなりで用意できんかったが。これで殴り合いはせんで済むやろ。で、あっちが大型盾「オー・バーン」前回の反省を生かして、純粋な盾として、左手に固定させる。
「……なんか海賊みたいになるなぁ」
「ホンマは手で持つ剣やったんやけど、先日のロケットパンチでお釈迦になったからなぁ。攻撃する時の反動で手首可動部が壊れる可能性もあるし、腕に直接固定するしかなかったんや」
どうも、この辺はヒロシにとっても妥協の産物であるらしい。
確かに、五本指で剣など持たせたら、よほど頑強に作らないと指か手首が反動で吹き飛んでしまう。
作れるならヒロシならやりかねないが、今回は時間がない、という所だろう。
そしてその「ロケットパンチ」にチカが引っかかっていた疑問をミオに投げかけた。
「そうそう、おとといは聞けなかったけど、あのシャコメカを倒したパンチ。どうやったの?プログラム見てた人が首を傾げてたよ?」
「おお、それはワシもおかしいと思とったんや」
チカの言葉にヒロシも思い出したようである。
「基本動作はある程度プログラミングしたモーションで動かすようになっとるんやが、ちょいちょい入力した覚えのない動きしとってな。長田君が首を傾げとったぞ」
二人に問われ、ミオはキョトンとする。
「いや、何しろあの時は、必死やったから……。隠しコマンドかなんかやないの?」
どうも、ミオも自覚はなかったらしい。
「確かに、学習型AIは内蔵しとるけど、あんな短時間でいくつも複雑な動き覚えるとは思えんし、パンチが飛び出す推進力に至っては、腕のパワーでは説明がつかんのやけどなぁ」
そして作った本人がこの調子である。
チカは改めて首を傾げた。
「私も何度か映像確認したけど、腕がなんか光ってましたよね?ネットでもだいぶ議論になってたけど、作ってる人たちが知らないなんて……」
「……いや、そんなんこっちが聞きたいくらいやねんけど」
あんな技、使えるなら使い方を教えてほしいものだ。
ミオも困惑した顔で一同を見回していた。
なんの偶然か、なんとも得体の知れないロボットである。
チカも、困惑顔で「オーダンナー」を見上げた。




