政府からの使者
「内閣情報調査室?」
親子で取調室に連れていかれたミオはキョトンとした顔で、渡された名刺に目を落とした。
そこには、「内閣情報調査室 高橋良介」と言う名前以外は電話番号もメールアドレスもない。
一体何のためのものかさっぱりわからない名刺と顔を見比べたミオは、素直に喜ぶことはできなかった。
隣のヒロシも同じだ、名刺を一瞥すると、やはり胡散臭げに高橋に尋ねる。
「ほんで?戦えっちゅうからには、それなりの事情は説明してもらえるんやろな?」
それに高橋は、鞄の中から「極秘」と書かれた資料を取り出し、二人の前に差し出す。
表紙の題名に、二人は何度も瞬きをして顔を見合わせ、改めて中の文面に目を落とした。
「保護異星人返却? 宇宙人がまた降りてくるんかいな?」
ミオの言葉に、高橋は頷いた。
「そうだ。君たちが壊した宇宙人のメカに乗っていたアンゴルモア星人「リャク・ダーツ」彼を出迎えるため。宇宙人が降りてくる。これを契機にして、首相は異星人との会談を行う予定だ……それともう一つ、彼らが要求している物があってね」
「それは?」
「スーパーロボット……この場合は「オーダンナー」の事と思うが、それを引き渡せと言うのだ。我々が、無抵抗である証として」
それに今度は、ヒロシが反応した。
「そんなアホな!そんなもんはいそうですかと渡すわけには……」
そこまで言ったところで、ミオがヒロシの足を力いっぱい踏みつける。
そして悶絶するヒロシを横目に満面の笑顔で高橋に微笑みかけた。
「あんなガラクタで良かったらどうぞ、持ってってください、ウチも処分に困っとったくらいですから」
その二人の様子に、高橋はその硬い表情を崩しはしなかった。
「それが、そういう訳にもいかなくてね」
彼はそう言うと、深く息を吐きながらポケットからスマホを取り出し、二人に動画を見せる。
そこには、先日の「オーダンナー」の戦う姿が、ご丁寧にBGM付きで編集された動画になっている映像だった。
「一体何者かはわからないが、このような絶妙のアングルで、それも高画質で、撮影された映像を、複数の人間が一斉にネットに流した者がいてね。これが大きな問題になっているのだよ」
「ああ、それは「スーパーロボット作ろう会」の……」
ヒロシの言葉は、またミオが足を踏んだことで中断された。
また、悶絶する父を尻目にミオは引きつった笑いでその場を取り繕う。
「いや、知らん。ウチら知らんで? 無関係!」
ぶるぶる首をふるミオ。
だが、ヒロシのロボ制作をドキュメントした動画に切り替わるとミオはもう何も言えなくなってしまった。
ろくろを回すようなポーズで「宇宙人を倒す」と語る父の動画に、ミオはもう一度父の足を踏みつけた。
その様子に、高橋は呆れたよう顔で携帯の動画をまた切り替えた。
そこには、外国語で吹き替えられた、同じ動画が流れている。
ミオはそれに血の気が引く思いだった。
「君たち親子の意見はともかく。動画は各国語に訳され、世界中に拡散している。もう削除申請も間に合わず「オーダンナー」は異星人反抗の旗頭になりつつあるのだ。事態は内政、外交、すべてに波及しつつある」
「こりゃ凄い。バイトテロどころの騒ぎやないのう」
呑気に感心するヒロシ。
だが、ミオはいつの間にか大きくなった話に愕然となった。
ミオ自身が映っていないのは幸いだが、親父がここまで有名なってしまったら、知ってる人間なら中に誰が乗っていたは容易に予想がつく。
ミオの日常は完全に遠いどこかに行ってしまったようである。
絶望するミオ。
そしてそんな娘を横目に今度はヒロシが高橋に問うた。
「ほんで?アンタはわしらに何をしろと?」
その言葉に、高橋はもう一つの書類を差し出した。
同じく「極秘」の判の押されたそれは、先ほどとは違う内容のものだった。
「政府は選べずにいる。無条件で「オーダンナー」を差し出せば、異星人に悩まされ、財産を失った国民はおろか、世界中の国々から大きく非難を受けるだろう。しかも、そこまでして会談をして、何かを得られる保証があるかと言えば……」
「この資料を見る限りは、ちょっと考えにくいなぁ」
それが、資料の冒頭を流し読みしたヒロシの感想だった。
高橋も、それに頷く。
「武力を背景にした一方的な要求ばかりな上、こちらに譲歩する気は全くない。先日も一方的に通告を行い、あろうことか市街地に降下してくる……まったく、交渉相手としては微塵も信用がおけない。」
なるほど、先日の騒ぎは異星人側の一方的な行動が起こした参事であったようだ。
高橋はその事を思ったのか、あるいは止められなかった政府のふがいなさを情けなく思ったのか重苦しいため息をつく。
そして、彼は小さく頷くと、資料の後半を読むよう、ヒロシに促し、その対策の話に移った。
「そこで、内閣は保険をかけることにしたのだ」
「保険?」
「交渉がお互い納得いくものであればよし。うまくいかない時は……」
「ワシらが会見をぶちこわす、と」
資料の最後のページに目をやり、ヒロシは高橋の言葉を補足した。
高橋はそれににやりと笑い、頷く。
「譲渡する目的で、「オーダンナー」はかなり異星人に接近することが可能だ。同胞のいる場所にレーザーを打ち込むことはしないだろう。あわよくもう一人、人質が確保できれば、我々としてはありがたい」
「なんかやり口が悪もんみたいやなぁ」
言いたいことは理解できるが、趣味ではない。
ヒロシはそんな面持ちで資料を机に放り出した。
それに高橋は首をすくめた。
「ご自慢のロボットと言えども、戦略、謀略で負ければ、無用の長物だ。あなたはそれが解る人だと思っていたんだが?」
「わかるけど、趣味やないっちゅうこっちゃ」
そういうと、お互い不敵な笑いで睨み合う二人。
大人同士のやり取りに、今度はミオが口をはさんだ。
「ちょっと待って?さっきから話聞いてたら、ウチらがまた異星人をやっつける前提で話してるけど。返り討ちに遭ったらどうすんの?ウチ、次も勝てる自信ないで?」
昨日の戦闘ですらなんで勝利したかわからないのに今度も勝てる保証などできるわけがない。
そもそも、相手が今度はどんなメカを持ってくるかわからないのだ。
対抗手段を取られる可能性もある。
必ず勝てる保証などできるはずもなかった。
だが、ヒロシはそれに驚いた様子は無かった。
ああ、その事か、といった調子でヒロシは娘に答える。
「そら、負けたら負けたで、民間の跳ねっ返りが勝手なことしました、ちゅう話にするんやろ。本気で不意打ちかますなら、ワシらやのうて自衛隊がやるがな。」
それに、ミオははっとなった。
高橋もそれには薄ら笑いを浮かべるだけで、何も答えない。
「ほなウチらは、鉄砲玉かいな」
なるほど、うまい話などないのだ。
ミオはさすがに、嫌悪感を覚え高橋を睨みつけた。
だが、ヒロシはそれをすでに織り込んでいるようだった。
彼は、パンと手を叩くと立ちあがる。
そして、ミオの頭をポンポン叩きながら口を開いた。
「まぁ、ここでごちゃごちゃ言うとっても、時間がもったいないわ。早いとこ、みんなに連絡して、「オーダンナー」を修理せにゃな」
「では、了承したという事でいいんだな?」
改めて言質を取ろうとする、高橋。
それを、ヒロシは飄々とした表情で受け止めた。
「いいも悪いも、ワシらに選択肢はあらへんやろ。まぁ、主人公には良くある話や……せやけど梯子外すのは無しやで?ある程度のもんは融通してもらわなあかん、その辺は信用してええんやろな?」
その言葉に、高橋は静かに頷いた。
そして、今度メモを取り出し、ヒロシを見据える。
「善処しよう。差し当たって何か必要なものはあるかね?」
それに、ヒロシは少し考えてこう答えた。
「ワシのスマホ。あと、煙草吸わせて」
高橋はそれを快く承諾した。




