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商工戦士オーダンナ―  作者: 宮城 英詞
オーダンナー譲渡指令!

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14/22

策謀の中年

 足元首相は、困惑していた。


 アンゴルモア星人との交渉の準備と、大阪で暴れたというロボットの残骸を引き渡す手続きをしていたところ、地方自治体の長にして野党「日本一新の会」の共同代表である横村知事からストップがかかったのである。


 加えて、ロボットの支援要請である。もう訳が分からない。


「これが、大阪府民の総意とでも言うのか……! ことは外交問題だぞ!」


 呻くように言う、足元総理に横村知事はパソコンの通信画面の向こうで明確に頷いた。


「その通りです総理。我々は異星人騒ぎに対し、大きな不安を抱えています。今回のように府民の生命と財産が、脅かされればなおのこと! これ以上情報を秘匿し、自衛隊の出動を渋るなら、我々は持てる手段で自衛するまで」


 そこには芸人上がりの、タレント知事の姿などどこにもなかった。


 一体、何が彼をそうさせたのか。


 彼を良く知っている足元は、訳が分からなかった。


 そして、次の一言がさらに足元首相はじめ閣僚たちを驚かせた。


「これは、『要望』ではなく『通告』です」


 つまり、こちらで勝手にやるという事である。


 その言葉に、理解が追いつかず、足元は唖然とするばかりだった。


「そちらがいくら情報を秘匿しても、ネット上には憶測含めすでにさまざまな情報が流れています。異星人の暴挙に対する不満。それに立ち向かうロボットに乗る女子高生。彼女たちを英雄視する流れをもはや止められません。どうか支援要請の件、ご一考ください。そちらは「要請」ですので……では」


 通信が切れ、しばらく足元は思考がまとまらず、ただ凍り付いていた。


 そしてしばらくの時間を置いて、頭の中で状況を確認し終えた首相が頭を抱える。


「いやいやいや、駄目だろうどう考えたって! 外交問題だよ? 戦争になっちゃうよ? 何考えてるのあいつ! 独立でもする気?」


「やはり、直接被害にあった自治体としては、情報を開示しない政府に付き合い切れないという事でしょう。ネット上に流れた動画も、現地で撮影されたもののようですし……」


 幹事長も呻くように言う。


 確かに、政府がなんと言おうと、現地で被害に遭った人々はその違和感にすぐ気づく。


 異星人襲来に起きたインフレに加え、外交情報を非公開にし続けたために積もり積もった政府への不信が、具体的な被害が出るにあたりほころび始めたのである。


「ネット動画の削除はちゃんとやったんだよね?」


 そう問う足元にデジタル大臣は渋い顔で答えた。


「削除申請は行いましたが、なにぶん、民間企業のサーバ、それも複数個所にアップされていましたから、すべて消えるまで時間がかかりました。その間、情報はコピーされ、地球規模で拡散しています。こうなると止めようが……」


「地球規模!」


 足元は気を失いそうだった。


 情報が独り歩きしている。


 かといって真実を全て公開すればどうなるだろう?


 一方的に、無茶な要求だけされて挙句の果て街に損害が出た事が分かればどうなるだろう?


 下手をすれば、内閣が倒れるどころか、安全に地球上を歩く事すらできなくなる。


 これは内閣にとって非常に危機的状況だ。


 一同は重い空気に包まれた。


 だが、この沈黙を破り、一人の男が声を上げた。


「総理、よろしいでしょうか?」


 そう言ったのは、この場の最年少、未来の首相と噂される防衛大臣、大泉洋太郎だ。


 彼は、発言を許可する気力すらわかない足元首相に、まっすぐなまなざしで語り掛ける。


「総理、ここは心を一つにし、強い意志を持って決断を下さねばなりません。でなければ、内閣どころか、国が、いや地球が分裂してしまいます」


「では、どうするね?」


 そんなことは言われなくても解っている。


 具体的な方針が知りたいのだ。


 芝居じみた前置きに、うんざりしながら答える足元首相。


 だが、大泉はひるまなかった。


「確かに、自衛隊による迎撃をためらった我々にも落ち度はあります。民間の自発的自衛行為を行わざるを得ない横村知事の心情も良くわかる。ですが、ロボットの違法行為を放置し、宇宙人との外交交渉の妨害を行う。いくらロボットが民間の所有物であるとはいえこれは法的にも限度があります。これは非常事態、政府も多少の反対は押し切って超法規的措置を取らねばならないでしょう。法解釈は後で何とでもなります。」


「やはり、ロボットは強制的にでも政府の管理下に置くべきか……」


 足元首相はそう呟いて、うつむいた。


 確かに、外交交渉にその「オーダンナー」とかいうロボットが必要なら、多少強引とでも取り上げなければならない。


 多分また動画を拡散され、支持率に影響が出るかもしれないが、ここはやらざるを得ないという事か。


 足元首相のつぶやきに、大泉は険しい顔で頷いた。


「世論の事、宇宙人との交渉を考えると、大変厳しい事になるでしょう。ですが、ロボットは我々の管理下に置くべきです。何しろあのロボットに乗っているのは、女子高生なのですから! 」


「ん?」


 なんだか話が思ってたのと話の方向性が違う。


 足元首相は大泉防衛大臣を二度見した。 


「大泉君? そのロボットは強制的に接収しなきゃいけないって話だよね?」


 念のため、と足元首相が問うと大泉は悲しげにうつむいた。


「そうです。本来なら、国が知事の言う事も飛び越えて、強制的に取り上げ、宇宙人との交渉材料にすべきだ。……ですが、パイロットが女子高生と言うなら話は別です!」


「別なの!?」


 まっすぐな瞳でおかしなことを言いだしたので足元首相は、思わず声を上げた。


 幹事長も。さすがに狼狽えて声を上げる。


「大泉君、……その、女子高生が乗っているというのは、そんなに重要なのかね?」


「重要です!」


「そうなの!?」


 同じく叫び声を上げる幹事長。


 大泉はまっすぐな視線で一同を見渡した。


「我々は、子供が戦場に行かないような社会を作るために政治家をやっているはずです。それが、緊急避難とはいえ、すでにパイロットになってしまっているのなら、秘密裏にでも、そして超法規的措置を取ってでも支援すべきです!」


「筋が通っているような、いないような……」


 理屈はどうあれ、若さとそのまなざしと勢いでなんだかそれっぽく聞こえるのかこの男の恐ろしい所だ。


 幹事長と顔を見合わせ戸惑う首相に、大泉は歩み寄り、ポケットからメモリカードを取り出した。


 そしてそれを首相に手渡し、不敵な笑みを浮かべて改めて語り掛ける。


「諸外国軍事組織からの情報で興味深い話もあります。どうか、ご検討ください」


 なんだか勢いに押されてメモリカードを自分のパソコンに差し込む足元首相。


 彼はその内容に目を見開いた。


 内閣が極秘裏に方針を決定したのは、そのさらに一時間後である。





 警察に留置されること丸一日。


 いい加減風呂にはいらせてほしいな、と思っていたミオの元に、黒服にサングラスといういかにもな風貌の男がやってきた。


「君が、天王寺澪てんのうじみお君だね?」

 檻の前に立つと、男はミオにそう声をかけてくる。


 ミオはその様子に、檻の向こうの人物をじっくり観察した。


 折り目正しい姿勢にきびきびした話し方。


 なにか友好的とは思えない空気である。


「誰?弁護士さんにしてはえらいガラ悪いな?」


 どうにも、警戒心が先に出てしまう。


 それに男は、仏頂面のままミオに答えた。


「弁護士ではないが、君たち親子を釈放するために来た。一切の罪は不問にする代わりに協力してほしい」


「協力?」


「もう一度、『オーダンナー』に乗ってもらいたいのだ」


 聞き返すミオに、男は淡々と答えた。


 それは、親父の予測が当たったと思えるような言葉だった。


 だが、やはり無条件と言うほど世の中は甘くないようだ。


「話、聞こか」


 ミオはそれに、大きく息を吐いてから、仕方ない、と言った面持ちで答えた。 


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