オーダンナー譲渡要請
「何という事をしてくれたのだ!」
異星人からの通信がやっとつながって、先方の顔が見えたその瞬間、足元首相は叫んでいた。
通信の向こうのガイ・アーツは、それをどこか冷めた表情で見ている。
毎度そうだが、異星人の表情はハッキリ言ってよくわからなかった。
「あれだけの破壊行為を行って、謝罪一つなしとは! そちらの星の儀礼がどのようなものか知らんが、これは敵対行為と見なされても文句の言えない行為ですぞ!」
必死で訴える足元首相。
だが、異星人はそれを一見どこ吹く風と言った態度で受け止めていた。
そして、地球人から見れば呆れたような顔で口を開く。
「敵対行動についてはそちらも同じだ。我らの貴重な採掘用機械を破壊。乗員を人質に取るなど言語道断。そちらも我らと事を構えるつもりか?」
「そんな! 人質などと……!」
相変わらず高圧的な態度のガイと、「人質」という言葉に、足元首相は怯んだ。
確かに、言葉は通じないわ武器を持っている恐れはあるわで、拘束しないとどうにもならない状況だったので拘束したが、駆け引きの道具に使おうという気はさらさらなかった。
何しろ今、内心その手があったのか、とすら思ったのだから。
「我々は彼を人質に取っているつもりはありません。そちらに抵抗したのも、危機感を覚えた民間人の勝手な行動で、これはいわば緊急避難、正当防衛の類のものですし……」
「いや、その手の言い訳は受け付けない」
二カ月待たせた首相に対する信頼が低いのか。ガイは冷たい返事を返した。
「我々は、今回囚われた同志リャク・ダーツの無条件での開放を要求する」
リャク・ダーツというのはどうやら捕まった異星人の名前のようだった。
一体何様のつもりなのだ、と足元は顔をゆがめたが、隣の幹事長がそっと耳打ちをしてきた。
「首相、これは世界初、異星人と直接コンタクトする良い機会なのでは?」
幹事長の言葉は、足元首相をはっとさせた。
いままでなぜか一切地球上に降りてこようとしなかった異星人が、同胞の救出のためとはいえ、降りて来るのである。
これは、データ収集の上でも、交渉の点でも貴重な機会であることは間違いないからだ。
足元首相は幹事長の言葉に、大きく頷き、咳払いしてから、もう一度異星人の映るパソコンの画面に向き直った。
「よろしい、ならば。彼は速やかに解放いたします。しかしながら、我々には彼をそちらに送る手段がない。この際会談を開く良い機会であるので、こちらの指定する場所に迎えをよこしてほしい」
その言葉に、ガイは表情一つ変えず頷いた。
「無論だ。こちらから迎えを出す。だが、もう一つ、君たちには差し出してもらいたいものがある」
「差し出す? それは……?」
「『スーパーロボット』だ」
「は?」
異星人の要求に、足元首相のみならず、閣僚、官僚全員の目が点になった。
「いや、あの、それはどういう……?」
戸惑う首相。
だが、ガイは呆れたような顔でこちらを睨みつけた。
「とぼけないで頂こう。我々も君たちに対して、情報収集をしているのだ」
彼がそう言うと、通信画面に映像が流れる。
それは、今や懐かしいロボットアニメの映像の数々だった。
中には、CG合成で作られた実写まがいのものもある。
この映像に、閣僚たちは言葉を失った。
「我々の情報収集の結果、君たち日本人という民族は、侵略してきた異星人を「スーパーロボット」で何度も撃退してきた過去があるようではないか? 今までそれを隠していたとは……我々は君たちに失望している。人質が無ければ、今すぐレーザーで焼き払うところだ」
そして最後は、「スーパーロボット作ろう会」とかいう団体の資金募集の動画が流される。
「スーパーロボットで異星人をやっつけるんや!」
という、どこか町工場のおっさんの声が流され、足元は言葉を失った。
隣に目をやると、幹事長や閣僚たちが頭を抱えている。
「我々に『スーパーロボット』を差し出し、抵抗の意思がない事を示したまえ。それが我々と交渉を続ける最低条件だ」
そう言うと、また通信は一方的に切れた。
「……どう考えても、これ、勘違いしてるよね?」
そう言う足元首相の声に、一同は一斉にため息をついた。
お笑い芸人から大阪府知事になった男、横村キックは、東大阪市議会議員の訪問に知らせを受けていた。
要件は言われなくてもおおよそは察しはついている。
昨日、東大阪に降りてきたという異星人の件についてだろう。
昨夜から各方面の対応に追われ、ヘトヘトになっていた横村は、うんざりした表情で、五分だけ、との条件で彼との会談を了承した。
現れたのは、梅田譲。
通称「居眠り譲」と噂される、実直で顔は広いし人望もあるのだが、色んな事が今一つの男だ。
横村はこの男を同じ党の人間として良く知っていたが、本日の彼は何か違うものがあった。
「知事、本日は日本一新の会、いや、東大阪市議の代表として参りました」
小太りで禿げた頭の男が、輝くような眼と張りのある声でそう宣言すると、彼は東大阪の総意を持ってきたとでも言わんばかりの顔で入ってきた。
なるほど、確かに今回は東大阪に被害が集中している。
いくら「居眠り譲」といえども、ここは目覚めなければならない時か。
横村知事は侮りがたい相手と直感し、背筋を伸ばしてことさら笑顔で出迎えた。
「これはこれは、今回は大変やったね。今回は、なにかの要請ですか」
それに、譲は頷くと、知事に書類を提出する。
それは、東大阪議員たちの連名の入った、かなり具体的な要望書であった。
「我々は、昨日異星人を撃退したロボット「オーダンナー」の支援、および関係者の即時釈放を要望します」
明朗に要請を伝える、譲。
東大阪の意見としても集約されているし、市長の連名もある。
なるほど!と、頷き、横村は笑顔で決済判子を手に取った。
事は緊急事態。
災害に匹敵する事態なので速やかに決済を行うのが、支持率を下げない上でも重要な事だ。
関係者の釈放は警察に指示すれば……。
……釈放? 支援?
そして、ハンコを押しそうになって横村は、譲の言葉を反芻し、その書類を二度見した。
「いやいやいや! こんなんすぐにはいと言えるわけないやろ!」
芸人時代を彷彿とさせるツッコミを入れる横村。
だが、譲はいたって真剣だった。
「警察の管轄は知事では?」
「せやけどこれ、外交問題も絡んどんのや、こっちの勝手で釈放したらどうなるかわからんで? しかも支援って……」
「異星人の意図はどうあれ、あれは正当防衛です。政府が自衛隊の出動をためらっている間、彼らは我々の命と財産を守ってくれました。加害者たる異星人はさて置いて、英雄的行動を行った彼らを罪人として裁くというのは、異星人が納得しても、我々東大阪市民は納得しません」
「いや、理屈は判るけど、話が大きすぎてやな……」
事は異星人との外交問題で、下手をすれば地球規模の話になる。
まさか知事になってこんな決断を迫られるとは思っていなかった横村知事は連名の要望書と譲の顔を代わる代わる見ながら脂汗を流した。
だが譲は、怯む横村さらに迫る。
「よくお考え下さい。向こうは侵略者、投票権はありません。政府は異星人との外交を気にしてか自衛隊すら動かさない。対するは、東大阪が作り上げたロボット……そしてマスコミは報道していませんが、パイロットはなんと……女子高生です!」
「女子高生やて!?」
その言葉に、横村に電撃が走った。
警察から上がって来る資料を斜め読みしていたので見落としたか、まさか、未成年の、それも女子高生が乗っていたとは思ってもいなかった。
横村は、「居眠り譲」と呼ばれた譲が真剣な顔になっている理由を、ようやく理解できた。
恐らく同じ思いで、こんなに早く、意見をまとめて来たのだろう。
横村も同じ顔になりつつあった。
それはタレント知事で元芸人の横村キックではなく、政治家、横村洋文その人の顔になっていた。
彼はその表情で譲を見据える。
「ロボットに、女子高生が乗り、宇宙人と戦ったんか……そんな事があるんか!」
「そうです! これが今この大阪で起こっている現実です」
「梅田君。……これはもう……コテコテやな」
「はい、コテコテです」
「それは確かに、政治家としては、味方せなあかんな」
「そうです!」
「なら、ここは、大阪府知事。いや、日本一新の会協同代表であるワシが一肌脱がなあかんと、そういう事やな?」
「ご理解いただけましたか!」
「まかしとけ! ここが男の見せ所や! 女子高生がロボットで戦うのを政治家が味方せんでどうすんねん!」
そう言う横村知事には、決意の色がにじみ出ていた。
横村知事は、予定通り五分で全面的な協力を約束した。
そしてこの日の昼頃から、ある動画がネットで話題になった。
それは、「スーパーロボット作ろう会」の人間が広げた「オーダンナー」が異星人メカと戦う姿を映した映像だった。
報道規制が引かれた報道をすり抜け、その動画はネット上に野火のような勢いで拡散されていった。




