第3話 アッシュウルフ討伐-その2-
アッシュウルフたちの攻撃は、止まなかった。
倒しても、倒しても、ウルフたちは仲間たちの死体を踏み越えて、牙を剥いてくる。
数人が、重傷となってしまった。
あっという間に、形勢逆転だ。
うーん、こんな形で撤退はしたくないな。
グレンに、何を言われるか、わかったものじゃない。
というか、劣勢になっているのだから、何らかの手を打ってほしいものだ。
おれは、池の端に腰を落ち着けている、金色の毛並みのアッシュウルフを見た。
あれが、群れのリーダーなんだろう。
金色なので、アッシュウルフではなく、ゴールドウルフ、といったところか。
周囲のウルフよりもさらに大きく、毛並みも艶やかだった。
あのウルフを倒せば、混乱するかもしれないが——ここからでは、たどり着くことは無理だろう。
一度、森に戻って、態勢を整えるべきか?
と思っていると、雷鳴が聞こえてきた。
遠くから響いてくる——と思ったら、突然、耳の奥がつーんとなるほどの、大きな音が轟いた。
落雷の呪文、だろう。
もちろん、グレンからの支援攻撃だ。
続けざまに、落雷は二度、三度と落ちる。
稲妻はアッシュウルフを打ち、地面を抉った。
岩が割れ、弾ける。
落雷は、ウルフだけでなく、こちらの側にも落下した。
「うわ! 危ねぇ」
直撃はしなかったものの、すぐ側に稲妻が落ちて、ひやりとした。
ウルフを狙った——というよりも、大雑把に呪文を放ったとしか思えない。
二番隊に命中しても構わない、と指示を出しているのかもしれない。
——やってられないね。
思ったが、落雷の攻撃が止んだようなので、おれたちは反撃をはじめた。
既にウルフたちは、ほとんどが地面に倒れ伏している。
電撃で麻痺しているだけなのか、即死なのかは、今は調べる余裕がない。
おれたちは、剣を構えて、進撃した。
金色のウルフが、顎を開いて、睨みつけている。
これを倒せば、アッシュウルフの討伐は完了となるのだが、その先はまだあるのだ。
とりあえず、今はこの危機に集中しなければ。
「ヤー! プレズ・アルタ・フラグスヴィンガト!」
「ヤー! ヤー、ヤー!」
「ラウド・エスティ・アル・ヴィ。フラグスヴィンガト!」
聞きなじみのある言葉が、響き渡った。
「三番隊、これより参戦する!」
その声を聞いた時——どうして、と思った。
「隊長?」
「あ……あぁ」
今はまだ、アッシュウルフとの戦いが続いている。
気を緩めることは禁物だ。
轟音が響いた。
今度は落雷の音ではなく、銃撃の音だ。
左手の斜面から、騎馬の兵たちが駆け下りてきている。
馬の速度を緩めずに、きちんと隊列を組んだまま、ライフルを構えている。
ライフルは、このメディシアン大陸の技術では、まだ開発されていないのだが、おれたち、アリアンフロッドの間では特別な遺物——ドリフテッド・シングスとして、使うことが許されている。
扇状に広がり、騎兵たちはライフルを構えている。
速度も斜面の起伏も計算に入れて、タイミングぴったりで銃撃をしている。
それにしても、見事なものだ。
おれは、馬に関しては移動手段として使う程度だが、あの練度は感心してしまう。
三番隊は、銃士隊として組織された小隊で、馬の扱いとライフルの腕は、”旗を振るもの”のなかでも屈しのものとなっている。
案外、騎士への昇格は三番隊の活躍があったからかもしれないな、と思った。
それにしても、どうしてエレナたちは、このアッシュウルフの討伐に参加しているのだろう?
これまでの繰り返しの生のなかで、彼女が討伐に加わってきたのは、一度もないのに。
銃弾が、金色のアッシュウルフに命中していった。
着弾する度に、肌に血が散る。
それでも、金色のアッシュウルフは倒れなかった。
姿勢を低くして、唸り声をあげながら、牙を剥いている。
瞳は、赤く染まり、憎しみの視線を向けていた。
「フィル! すまない、ちょっと遅れた」
エレナが馬上から、声をかけてくる。
全身、板金鎧で武装していて、フルフェイスの兜を被っている。
「よっと」
馬から降りると、おれと並んだ。
「久しぶりに、おまえと肩を並べて、戦いたくなった」
「おい、三番隊はどうするんだよ」
「大丈夫だ。指揮はイオに任せている」
イオとは、三番隊の副官の名前だ。
何が、大丈夫なのか、わからないが、銃士隊としての役目は既に終えている、ということだ。
エレナとは、戦場を共にすることは多いものの、それぞれが隊長となってからは、こうして横に並んで戦うことは、ほとんどなかった。
そんなことを言い出す——ということは、もしかすると、エレナも既におれが”旗を振るもの”から追放される、ということを知っているのかもしれなかった。




